昭和23年に公布され,24年1月に施行された現行の刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)は,日本国憲法の精神にのっとり,実体的真実の発見並びに被告人及び被疑者の人権保障を基本理念とするもので,昭和期においては,23年,24年に各1回,27年,28年及び29年に各2回,33年,46年,51年,54年,61年及び63年に各1回(計14回)の改正がなされ,特に28年には,勾留期間の延長や簡易公判手続の採用等の大幅な改正がなされた。
平成期においても,刑事訴訟法は複数回改正されており,以下,平成期における主な改正について,その要点を概観するが,他の法律が改正されたことに伴い用語が変更されたなどの内容に大きく関わらない比較的軽微な改正については,その説明を省略する。
平成3年4月,罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律(平成3年法律第31号)が成立し,同年5月に施行された。同法は,刑事訴訟法等の一部を改正し,経済事情の変動に応じた罰金額等に引き上げることで,刑事司法の適正な運営等を図ったもので,これにより,刑事訴訟法に定める罰金及び過料の多額の引上げ,勾留及び逮捕が制限される罪の基準となる罰金の額,公判期日における被告人の出頭義務及びその免除の基準となる罰金の額並びに略式命令において科することができる罰金の限度額等の引上げがなされた(刑法(明治40年法律第45号)の改正については,本編第1章第1節1項参照)。
平成11年8月,刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成11年法律第138号)が成立し,同年9月に施行された。同法は,組織的な犯罪を取り巻く国内外の諸情勢に適切に対処するため,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成11年法律第136号。以下この項において「組織的犯罪処罰法」という。)及び犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(平成11年法律第137号。以下この項において「通信傍受法」という。)と共に成立したもので,刑事訴訟法に,犯罪捜査のために強制処分として行う電気通信の傍受に関する根拠規定を設けたほか,証人等の保護に関する規定を定めた(組織的犯罪処罰法については,本編第1章第2節3項(1)オ参照)。
平成12年5月,刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律(平成12年法律第74号)が成立し,13年6月に全面施行された。同法は,犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成12年法律第75号)と共に成立したもので,刑事訴訟法に,証人尋問の際の遮へい措置やいわゆるビデオリンク方式による証人尋問等,被害者等が証人として尋問される際の負担を軽減するための措置や,親告罪である性犯罪の告訴期間の撤廃,被害者等による心情その他の意見の陳述に関する規定が盛り込まれた(犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律及び検察審査会法(昭和23年法律第147号)の改正については,本章第5節1項参照)。
平成13年11月,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成13年法律第139号)が成立し,同年12月施行された。裁判は,原則として検察官の指揮により執行することとされているが,財産刑,自由刑等の裁判を的確に執行するためには,その執行を受ける者の所在や資産等を調査する必要が生じる場合があることから,同法により,検察官等は,裁判の執行に関して必要があると認めるときは,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができることとされた。
平成16年5月,司法制度改革(第3編第1章第1節2項コラム4参照)の一環として,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)が成立した。これにより,刑事訴訟法に,<1>第1回公判期日前に事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として公判前整理手続(同章第3節3項(5)参照)が新たに設けられ,<2>証拠開示の拡充・ルールの明確化,<3>連日的開廷の確保等に関する規定が盛り込まれたほか,<4>争いのない簡易明白な事件について,手続の合理化・効率化を図った即決裁判手続(同項(4)参照)の新設,<5>被疑者に対する国選弁護人制度(被疑者国選弁護制度)の新設に関する規定等が盛り込まれた(<1>ないし<3>は,17年11月施行,<4>及び<5>は,18年10月施行)。
なお,被疑者国選弁護制度は,適用対象を被疑者が身柄拘束されているものに限定した上で,その対象事件の範囲は段階的に拡大されることとされており,制度開始当初は,死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役・禁錮に当たる事件とされていたが,平成21年5月には,死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役・禁錮に当たる罪に拡大され,さらに,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成28年法律第54号)により,30年6月には対象事件を限定せずに,勾留状が発せられた全ての被疑者に拡大された(本項(13)参照)。日本司法支援センター(通称「法テラス」)における国選弁護事件の受理件数の推移については,3-1-1-2表参照。
平成16年12月,刑法等の一部を改正する法律(平成16年法律第156号)が成立し,17年1月に施行された。同法は,凶悪犯罪を中心とする重大犯罪の情勢に鑑み,これらの犯罪に適正に対処するため,公訴時効の期間を改めるなどするもので,これにより,刑事訴訟法については,死刑に当たる罪については15年から25年に,無期の懲役・禁錮に当たる罪については10年から15年に,それぞれ公訴時効の期間が延長されるとともに,新たに長期15年以上の懲役・禁錮に当たる罪については公訴時効期間が10年と定められるなどした(刑法の改正については,本編第1章第1節6項参照)。
平成17年6月,刑法等の一部を改正する法律(平成17年法律第66号)が成立し,同年7月に施行された。同法により,刑法の一部が改正され,人身売買罪が新設されたが,それに伴い,刑事訴訟法の一部も改正され,ビデオリンク方式による証人尋問の対象に,わいせつ又は結婚の目的の人身買受けの罪の被害者が加えられた(刑法の改正については,本編第1章第1節7項参照)。
平成18年4月,刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成18年法律第36号)が成立し,同年5月に施行された。同法により,刑事訴訟法の略式命令に関する規定が改正され,略式命令で科することのできる罰金の最高額が50万円から100万円に引き上げられた(刑法の改正については,本編第1章第1節8項参照)。
平成19年5月,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律等の一部を改正する法律(平成19年法律第60号)が成立し,公判調書の整理期限に関する刑事訴訟法の規定が改正された。これは,裁判員制度の導入により,公判期日後すぐに判決が宣告されることが予想されることから,公判調書の整理期限を伸長したものである(刑事訴訟法の改正については,21年5月施行)。
平成19年6月,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成19年法律第95号)が成立した。同法は,犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るため,刑事訴訟法等の一部を改正したもので,これにより,刑事訴訟法に,<1>被害者等が刑事裁判に参加する制度(被害者参加制度。第6編第2章第1節4項(1)及び第3節コラム17参照),<2>刑事手続において被害者等の氏名等の情報を保護するための制度に関する規定が盛り込まれるなどした(<1>については20年12月施行,<2>については19年12月施行。その他の改正については,本章第5節10項参照)。
平成22年4月,刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号)が成立し,一部を除き同月施行された。同法は,人を死亡させた犯罪をめぐる諸事情に鑑み,これらの犯罪に対する適正な公訴権の行使を図るために,刑法及び刑事訴訟法の一部を改正したもので,刑事訴訟法については,人を死亡させた罪であって,死刑に当たるものについては,公訴時効の対象から除外されたほか,人を死亡させた罪であって,禁錮以上の刑に当たるものについては,公訴時効期間が延長されるなどの公訴時効に関する規定等が改正された(刑法の改正については,本編第1章第1節10項参照)。
平成23年6月,情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年法律第74号)が成立した。同法は,サイバー犯罪その他の情報処理の高度化に伴う犯罪等の実情に鑑み,情報収集の高度化に伴う犯罪に適切に対処するため,及びサイバー犯罪に関する条約の締結に伴い,電磁的記録に係る記録媒体に関する証拠収集手続の規定の整備等を行うために,刑法等の一部を改正したもので,刑事訴訟法については,電磁的記録に係る記録媒体の差押えの執行方法の整備や記録命令付差押えの新設等の手続に関する規定が盛り込まれるなどした(これらの規定については,24年6月施行。刑法の改正については,本編第1章第1節11項参照)。
平成28年5月,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成28年法律第54号)が成立した(改正に至る経緯等は,第3編第1章第2節4項コラム5参照)。同法は,捜査・公判が取調べ及び供述調書に過度に依存した状況にあるとの指摘を踏まえ,これを改めて,刑事手続を時代に即したより機能的なものとするため,刑事手続における証拠の収集方法の適正化及び多様化並びに公判審理の充実化を図ったもので,これにより,刑事訴訟法については,<1>裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化,<2>弁護人の選任に係る事項の教示の拡充,<3>証拠の一覧表の交付手続の導入,<4>公判前整理手続等の請求権の付与,<5>類型証拠開示の対象の拡大,<6>証人等の氏名及び住居の開示に係る措置の導入,<7>公開の法廷における証人等の氏名等の秘匿措置の導入,<8>証人の勾引要件の緩和等,<9>自白事件の簡易迅速な処理のための措置の導入,<10>証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の導入,<11>免責を与える条件の下で,証人にとって不利益な事項についても証言を義務付ける刑事免責制度の導入,<12>被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大,<13>ビデオリンク方式による証人尋問の拡充,<14>取調べの録音・録画制度の導入等に関する規定が盛り込まれるとともに,通信傍受法の改正により,<15>通信傍受の対象犯罪の拡大,<16>通信傍受の手続の合理化・効率化がなされた(<1>については,28年6月施行,<2>ないし<9>及び<15>については,同年12月施行,<10>ないし<13>については,30年6月施行,<14>及び<16>については,令和元年6月施行。刑法の改正については,本編第1章第1節14項参照)。