いわゆる厚生労働省元局長無罪事件等の大阪地検特捜部における一連の事態により,検察の捜査・公判活動に対し国民の不信を招く状況となったことを受け,平成22年10月,法務大臣の下に「検察の在り方検討会議」(以下「検討会議」という。)が設けられた。検討会議は,23年3月,「検察の再生に向けて」と題する提言(以下「提言」という。)を取りまとめた。検察は,提言及び同年4月の法務大臣指示「検察の再生に向けての取組」を受け,様々な改革を推し進めた。
一方,提言が,国民の安全・安心を守りつつ,えん罪を生まない捜査・公判を行っていくためには,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直し,新たな刑事司法制度を構築するための検討を行う必要があるとしたことを受け,平成23年5月,法務大臣から,法制審議会に対し,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するための法整備の在り方についての諮問が発せられ,同審議会の下に設置された部会における検討等を経て,26年9月,同審議会から法務大臣に答申がなされた。法務省では,同答申に基づき,法案の立案作業を進め,27年3月,刑事訴訟法等の一部を改正する法律案が国会に提出され,28年5月,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成28年法律第54号。以下,本コラムにおいて「改正法」という。)が成立した。
改正法により,<1>取調べの録音・録画制度の導入,<2>合意制度の導入,<3>刑事免責制度の導入,<4>通信傍受の対象犯罪の拡大,手続の合理化・効率化,<5>被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大,<6>証拠の一覧表の交付手続の導入,<7>ビデオリンク方式による証人尋問の拡充等が図られた。
<1>の取調べの録音・録画制度は,検察官及び検察事務官が,裁判員裁判対象事件又は検察官独自捜査事件について,逮捕・勾留中の被疑者の取調べ等を行うとき,及び司法警察職員が,裁判員裁判対象事件について,逮捕・勾留中の被疑者の取調べ等を行うときは,原則として,その全過程を録音・録画することが義務付けられるというものである。取調べの録音・録画については,検察において,平成21年4月から裁判員裁判対象事件に関して,23年3月から前記無罪事件を受けて検察官独自捜査事件に関して,試行を開始し,以後,その範囲を拡大しながら本格実施へ移行してきた。このような運用の積み重ねを経て,刑事訴訟法上の制度として,取調べの録音・録画が実施されることとなった。
<2>の合意制度の導入は,検察官と被疑者・被告人が,特定の財政経済犯罪及び薬物銃器犯罪について,弁護人の同意がある場合に,被疑者・被告人が共犯者等の他人の刑事事件の解明に資する協力行為を行い,検察官がこれを被疑者・被告人に有利に考慮してその事件において不起訴処分や一定の軽い求刑等をすることを内容とする合意をすることができるというものである。
<3>の刑事免責制度は,裁判所が,検察官の請求に基づいて,証人に対して一方的に免責を与えることにより,その自己負罪拒否特権を失わせて証言を義務付けるというものである。
改正法の施行日は,その改正事項によって,公布の日から起算して20日を経過した日,6月を超えない範囲内において政令で定める日,2年を超えない範囲内において政令で定める日,3年を超えない範囲内において政令で定める日の4段階に分けられている。
<4>のうち通信傍受の対象犯罪の拡大,<6>証拠の一覧表の交付手続の導入は平成28年12月1日,<2>合意制度の導入,<3>刑事免責制度の導入,<5>被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大,<7>ビデオリンク方式による証人尋問の拡充は30年6月1日,<1>取調べの録音・録画制度の導入,<4>のうち通信傍受手続の合理化・効率化は令和元年6月1日に,それぞれ施行された。