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令和元年版 犯罪白書 第6編/第2章/第1節/4
4 公判段階における被害者等の関与
(1)被害者参加制度

平成19年法律第95号による刑事訴訟法の改正(第1編第2章第1節1項(10)及び第5節10項参照)により,平成20年12月から,被害者参加制度が実施されている。この制度では,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪等の一定の犯罪に係る被告事件の被害者等は,裁判所の決定により被害者参加人として刑事裁判に参加し,公判期日に出席できるほか,検察官の訴訟活動に意見を述べること,情状事項に関して証人を尋問すること,自らの意見陳述のために被告人に質問すること,事実・法律適用に関して意見を述べることなどができる。そして,被害者参加人が公判期日等に出席する場合において,裁判所は,被害者参加人と被告人や傍聴人との間を遮へいする措置を採ったり,適当と認める者を被害者参加人に付き添わせたりすることができる。

また,平成20年法律第19号による犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成20年12月1日前の題名は「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」。以下この項において「犯罪被害者等保護法」という。)及び総合法律支援法の各改正(同日施行。第1編第2章第5節12項及び第6節2項(2)参照)により,被害者参加人は,刑事裁判への参加を弁護士に委託する場合,資力に応じて,法テラス(同項及び第3編第1章第1節2項参照)を経由して裁判所に国選被害者参加弁護士の選定を請求することができるようになった(本節7項参照)。

さらに,刑事裁判への参加に伴う被害者参加人の経済的負担を軽減するため,平成25年法律第33号による犯罪被害者等保護法及び総合法律支援法の各改正(平成25年12月施行。第1編第2章第5節14項及び第6節2項(3)参照)により,公判期日等に出席した被害者参加人に対して被害者参加旅費等を支給する制度(同旅費等に関する事務は法テラスが行う。)が創設され,また,裁判所に対する国選被害者参加弁護士の選定の請求に係る資力要件が緩和された。

通常第一審における被害者参加制度について,平成21年以降の実施状況の推移は,6-2-1-4表のとおりである(同制度が開始した20年には,通常第一審において被害者参加の申出があった終局人員はなかった。)。

6-2-1-4表 通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移
6-2-1-4表 通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移
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(2)被害者等・証人に配慮した制度
ア 被害者等の意見陳述・証人の保護等
(ア)被害者等の裁判の傍聴

犯罪被害者等保護法(平成12年11月施行。第1編第2章第5節1項参照)により,刑事被告事件の係属する裁判所の裁判長は,被害者等から裁判の傍聴の申出があるときは,傍聴できるように配慮しなければならないとされた。

(イ)被害者等の意見陳述

平成12年法律第74号による刑事訴訟法の改正(平成12年11月施行。第1編第2章第1節1項(3)及び第5節1項参照)により,被害者等は,公判期日において,被害に関する心情その他の被告事件に関する意見を陳述し,又は,これに代え意見を記載した書面を提出することができるとされた。

(ウ)被害者等の情報保護

平成19年法律第95号による刑事訴訟法の改正(平成19年12月施行。第1編第2章第1節1項(10)及び第5節10項参照)により,刑事手続において被害者等の氏名等の情報を保護するための制度が創設された。すなわち,裁判所が,性犯罪に係る事件や犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉等が著しく害されるおそれがあると認められる事件について,被害者等から申出があり,相当と認めるときは,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定(被害者特定事項秘匿決定)をすることができるとされた。また,裁判長は,同決定があった場合には,訴訟関係人のする尋問等が被害者特定事項にわたるときは,当該尋問等を制限することができるとされた。さらに,検察官は,証拠開示の際,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉等が著しく害されるおそれがあると認められるなどの場合,弁護人に対し,その旨を告げ,被害者特定事項が,被告人の防御に関し必要がある場合を除き,被告人等に知られないように求めることができるとされた。

平成27年法律第37号による裁判員法の改正(平成27年12月施行)により,裁判員等選任手続において,被害者等の氏名等の情報を保護するための規定が整備された。

(エ)証人の保護等

被害者等が公判段階で証人として出廷して証言することは少なくないところ,平成期においては,証人を保護するための種々の制度が導入された。

平成11年法律第138号による刑事訴訟法改正(平成11年9月施行。第1編第2章第1節1項(2)参照)により,裁判長が一定の場合に証人等の住居等が特定される事項に関する尋問を制限すること,証人等を尋問する場合に証拠書類等を閲覧する機会を与えるに際し,検察官等又は弁護人が相手方に対し,証人等の住居等が特定される事項が被告人を含む関係者に知られないようにすることその他証人等の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることが可能となった。

平成12年法律第74号による刑事訴訟法の改正(第1編第2章第1節1項(3)及び第5節1項参照)により,<1>適当と認める者を証人に付き添わせる制度,<2>証人と被告人や傍聴人との間を遮へいする措置を採る制度,<3>証人を別室に在席させ,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話する方法(ビデオリンク方式)によって尋問する制度が導入された(<1>及び<2>は平成12年11月施行,<3>は13年6月施行)。これらの制度は,被害者等が公判期日において意見を陳述する場合においても適用されている。

さらに,平成28年法律第54号による刑事訴訟法の改正(第1編第2章第1節1項(13)参照)により,<1>証人等特定事項秘匿決定(証人等からの申出により,裁判所が,証人等の氏名,住所等の証人等特定事項を公開の法廷で明らかにしないことを求める決定)の制度,<2>証人等の氏名等の開示について,証人等の身体又は財産に対する加害行為等のおそれがあるときは,防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き,検察官が弁護人に当該氏名等を開示した上で,これを被告人に知らせてはならない旨の条件を付することができ,特に必要があるときは,弁護人にも開示せず,代替的な呼称等を知らせることができるとする制度が導入された上,<3>一定の場合には,証人を同一構内(裁判官等の在席する場所と同一の構内)以外の場所に出頭させてビデオリンク方式により証人尋問を行うことができるようになった(<1>及び<2>は平成28年12月施行,<3>は30年6月施行)。

意見陳述,証人の保護(遮へい,ビデオリンク及び付添い),被害者特定事項秘匿決定及び証人等特定事項秘匿決定について,各制度開始以降の実施状況の推移は,6-2-1-5表のとおりである。

イ 刑事和解及び損害賠償命令制度

犯罪被害者等保護法(第1編第2章第5節1項参照)により,平成12年11月から,民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解の制度が導入された(刑事和解)。これにより,刑事被告事件の被告人と被害者等は,両者間の当該被告事件に関連する民事上の争いについて合意が成立した場合には,共同して,その合意の内容を当該被告事件の公判調書に記載することを求める申立てをすることができ,これが公判調書に記載された場合には,その記載は裁判上の和解と同一の効力を有し,被告人がその内容を履行しないときは,被害者等はこの公判調書を利用して強制執行の手続を執ることができるようになった。

さらに,平成19年法律第95号による犯罪被害者等保護法の改正(第1編第2章第5節10項参照)により,平成20年12月から,一定の重大犯罪について,被害者等が刑事事件の係属している裁判所に損害賠償命令の申立てを行い,裁判所が有罪判決の言渡しを行った後に引き続き審理を行い,刑事裁判の訴訟記録を取り調べるなどして申立てに対する決定を行う制度(損害賠償命令制度)が実施されている。

刑事和解及び損害賠償命令制度について,各制度開始以降の実施状況の推移は,6-2-1-5表のとおりである。

ウ 記録の閲覧・謄写

犯罪被害者等保護法(第1編第2章第5節1項参照)により,平成12年11月以降,刑事被告事件の係属する裁判所は,第一回公判期日後当該被告事件の終結までの間,被害者等から申出があり,損害賠償請求権の行使のために必要があるなど正当な理由があって相当と認める場合に限って,公判記録の閲覧・謄写をさせることができるとされた。平成19年法律第95号による犯罪被害者等保護法の改正(同節第10項参照)により,19年12月以降,その範囲が拡大され,裁判所は,被害者等には原則として公判記録の閲覧・謄写を認めることとされた上,いわゆる同種余罪の被害者等についても,損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合であって相当と認めるときは,公判記録の閲覧・謄写を認めることとされた。12年以降に被害者等が公判記録の閲覧・謄写をした事例数の推移は,6-2-1-5表のとおりである。

不起訴事件の記録については,原則として非公開であるが,被害者等が民事訴訟において損害賠償請求権その他の権利を行使するために実況見分調書等の客観的証拠が必要と認められる場合等には,検察官は,関係者のプライバシーを侵害するなど相当でないと認められる場合を除き,これらの証拠の閲覧・謄写を許可している。また,平成20年12月以降は,被害者参加制度の対象事件については,被害者等が「事件の内容を知ること」等を目的とする場合であっても,不起訴事件の記録中の客観的証拠については,原則として,閲覧が認められている。

6-2-1-5表 被害者等・証人に配慮した制度の実施状況の推移
6-2-1-5表 被害者等・証人に配慮した制度の実施状況の推移
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