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令和元年版 犯罪白書 第6編/第2章/第3節/コラム17

コラム17 犯罪被害者等基本法制定の経緯と犯罪被害者等基本計画

平成期は,犯罪被害者のための施策が大きく進展した時代であった。

昭和55年に犯罪被害者等給付金支給法が制定され,犯罪被害者のための施策が実施されたが,その後,犯罪被害者施策について顕著な進展は見られなかった。そのような中,平成3年に開催された「犯罪被害給付制度発足10周年記念シンポジウム」において,犯罪被害者の御遺族自身が犯罪被害者の精神的援助の必要性を強く指摘されたことや,7年3月に発生した地下鉄サリン事件(第4編第3章第1節コラム15参照)等の重大事件を通じ,犯罪被害者が犯罪による直接的な被害のみならず,精神面,生活面,経済面等において様々な被害を受けていることについての国民の認識が深まるとともに,その後の刑事司法過程において,いわゆる二次的被害を受けて精神的被害が更に深くなる場合があることなどが問題として認識されるようになった。8年2月,警察庁により「被害者対策要綱」が策定され,被害者の人権を尊重した上で,被害者への情報提供,被害者の精神的被害の回復への支援,捜査過程における被害者の二次的被害の防止・軽減等の施策が組織全体で総合的に実施されることとなった。11年4月以降,検察庁においても,全国的に統一された被害者等通知制度(本章第1節2項参照)が実施されるようになった。12年3月に「犯罪被害者対策関係省庁連絡会議」が公表した報告書「犯罪被害と当面の犯罪被害者対策について」では,刑事手続における犯罪被害者対策の推進に加え,各府省庁において,相談体制の整備,精神的ケアの実施等の犯罪被害者に対する精神的な支援,犯罪被害に対する啓発活動等の施策を推進していくこととされ,同年5月には,同報告書の刑事手続における犯罪被害者対策として,いわゆる犯罪被害者保護二法(刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律(平成12年法律第74号)及び犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成12年法律第75号))が成立した(第1編第2章第5節1項参照)。犯罪被害者保護二法により,心情その他の被告事件に関する意見陳述(本章第1節4項(2)ア(イ)参照),公判記録の閲覧・謄写(同項(2)ウ参照)等の制度が導入された。

平成期前半における犯罪被害者のための施策の進展は,犯罪被害者から一定の理解を得られたものの,依然として犯罪等が跡を絶たず,多くの犯罪被害者が困難に直面する中,犯罪被害者,犯罪被害者団体,犯罪被害者支援団体からは,刑事司法過程における犯罪被害者の取扱いに対する不満や,更なる施策の進展を求める声が絶えなかった。このような声を受け,平成16年6月,「犯罪被害者のための総合的施策のあり方に関する提言」が与党から政府に提出された。この提言では,犯罪被害者に対する施策を総合的かつ迅速に実施していくため,基本法を早期に制定し,基本法にのっとり,総合的施策の全体像を盛り込んだ基本計画を作成し,同計画に従って様々な施策について期限を定めて着実に実行していくことが必要であるとされた。その後,与野党協議を経て,議員立法により,同年12月1日,犯罪被害者等基本法(第1編第2章第5節8項参照)が成立した(17年4月施行)。

犯罪被害者等基本法は,その前文において,安全・安心な社会を実現することが国の重要な責務と位置付け,犯罪被害者等が直面している困難な状況を示した上で,社会が犯罪被害者等の声に耳を傾け,犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ,その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならないとした。同法は,その上で,犯罪被害者等のための施策に関し,基本理念を<1>すべて犯罪被害者等は,個人の尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する,<2>犯罪被害者等のための施策は,被害の状況及び原因,犯罪被害者等が置かれている状況その他の事情に応じて適切に講ぜられるものとする,<3>犯罪被害者等のための施策は,犯罪被害者等が,被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間,必要な支援等を途切れることなく受けることができるよう,講ぜられるものとする,と定め,国,地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに,犯罪被害者等のための施策の基本となる事項(基本的施策)を定めた。同法には,基本的施策として,「相談及び情報の提供等」,「損害賠償の請求についての援助等」,「刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等」を含む13の事項が掲げられた。

犯罪被害者等基本法により,政府は,犯罪被害者等のための施策に関する基本的な計画(犯罪被害者等基本計画)を策定することとされた。同法により設置された犯罪被害者等施策推進会議における検討を経て,平成17年12月,犯罪被害者等基本計画(以下「第1次基本計画」という。)が策定された。その後,23年3月には,第2次犯罪被害者等基本計画(以下「第2次基本計画」という。),28年4月には,第3次犯罪被害者等基本計画(以下「第3次基本計画」という。)が策定され,現在,第3次基本計画の下,各種施策が進められている。各基本計画には,四つの基本方針(「尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること」,「個々の事情に応じて適切に行われること」,「途切れることなく行われること」,「国民の総意を形成しながら展開されること」),五つの重点課題(「損害回復・経済的支援等への取組」,「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」,「刑事手続への関与拡充への取組」,「支援等のための体制整備への取組」,「国民の理解の増進と配慮・協力への確保への取組」)の下,各種の具体的施策が盛り込まれている。これまで,重点課題のうち「損害回復・経済的支援等への取組」に関しては,第1次基本計画の下,損害賠償命令制度(本章第1節4項(2)イ参照)の創設等が行われたほか,各基本計画の下,犯罪被害給付制度の拡充(同章第2節1項参照)が進められた。「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」に関しては,第1次基本計画の下,被害者特定事項秘匿決定制度(同章第1節4項(2)ア(ウ)参照)が創設され,第3次基本計画の下,被害児童からの事情聴取における配慮に関する取組(児童が被害者等である事件に関する検察,警察及び児童相談所の連携強化については,27年10月,最高検察庁,警察庁及び厚生労働省から通知・通達が発出されている。)が進められている。「刑事手続への関与拡充への取組」に関しては,第1次基本計画の下,被害者参加制度(同項(1)参照),少年審判の傍聴制度(同節6項参照)が創設されたほか,公判記録の閲覧・謄写が認められる範囲の拡大がなされ(同節4項(2)ウ参照),第2次基本計画の下,被害者参加人に対する旅費支給制度の創設及び裁判所に対する国選被害者参加弁護士の請求に係る資力要件の緩和が実現した(同項(1)参照)。さらに,「支援等のための体制整備への取組」については,本章第1節7項及び8項の取組に加え,地方公共団体においても,犯罪被害者等に適切な情報提供等を行う総合的対応窓口の設置や,犯罪被害者等に関する条例の制定及び計画・指針の策定が行われている(31年4月1日現在,全国全ての地方公共団体に総合的対応窓口が設置されている上,46都道府県,17政令指定都市及び588市区町村(政令指定都市を除き,東京都の特別区を含む。)において,条例の制定又は計画・指針の策定が行われている(警察庁長官官房の資料による。)。)。