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令和元年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/3

3 保安・公安・暴力団関係法令
(1)保安・公安関係
ア 銃刀法

銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号。以下この節において「銃刀法」という。)は,銃砲,刀剣類等の所持,使用等に関する危害予防上必要な規制について定める法律であり,昭和33年に「銃砲刀剣類等所持取締法」という題名で制定された。昭和期においては,昭和40年法律第47号による改正(40年7月施行)により,法律の題名が「銃砲刀剣類所持等取締法」に改められ,けん銃等の輸入罪の新設,不法所持罪の法定刑の引上げ等が行われ,昭和46年法律第48号による改正(46年5月施行)により,模造けん銃の所持の禁止,ライフル銃の所持の許可基準の厳格化等が行われ,昭和52年法律第57号による改正(52年7月施行)により,けん銃等の輸入や不法所持に対する罰則強化,罰金刑の上限の引上げ等が行われるなどの重要な改正があった。

平成3年法律第52号による改正により,新たにけん銃部品の所持及び輸入が禁止され,同規制に違反した者は処罰の対象とされた(平成4年3月施行)。

けん銃による犯罪の多発に対応するため,平成5年法律第66号により,武器等製造法(昭和28年法律第145号)と共に改正がなされ,けん銃等に係る罪の法定刑が大幅に引き上げられるとともに,けん銃等を適合実包等と共に携帯するなどした場合に適用される加重所持罪,けん銃等の譲渡し等の罪が新設される一方,けん銃等を提出して自首した場合の刑の必要的減免規定も設けられるなどした(平成5年7月施行)。

その後もけん銃に関わる犯罪が跡を絶たなかったことから,平成7年法律第89号による改正により,不特定若しくは多数の者の用に供される場所等に向かって,又はこれらの場所等においてけん銃等を不法に発射する行為に係る発射罪,けん銃実包の所持,輸入,譲渡し及び譲受けの罪が新設される一方,けん銃実包を提出して自首した場合の刑の必要的減免規定も設けられた。また,けん銃等の営利目的輸入の罪及びけん銃部品に関する罪の法定刑の引上げ,送り荷中のけん銃等を取り除いて行うクリーン・コントロールド・デリバリーを実効あるものにするため,けん銃等でない物品をけん銃等として輸入等する罪の新設等も行われた(平成7年6月施行)。

銃器による凶悪重大事犯が続発し,国民生活に重大な脅威を与えていたことから,平成19年法律第120号により,武器等製造法と共に改正がなされ,組織的なけん銃等の発射又は所持に対する加重処罰規定,けん銃等を複数所持する事案に対する加重処罰規定が新設されたほか,けん銃等又はけん銃実包の営利目的による輸入等,許可を受けた銃砲の発射制限違反及び刃物の携帯禁止違反等に対する罰則が強化された(平成19年12月施行)。

銃砲刀剣類等を使用した凶悪犯罪の発生状況等に鑑み,平成20年法律第86号による改正では,所持が禁止される剣の範囲が刃渡り15cm以上の剣から刃渡り5.5cm以上の剣に拡大された(平成21年1月施行)。

平成期における銃器犯罪の動向については,第4編第3章第2節2項(2)参照。

イ 特殊開錠用具所持禁止法

ピッキング用具等の特殊な器具を用いて建物錠を開いたり,ドア,窓等を破壊したりする方法で住宅等の建物に侵入して敢行される窃盗,強盗等の犯罪が急増していたことを背景に,建物に侵入して行われる犯罪の防止に資することを目的として,平成15年5月,特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律(平成15年法律第65号。いわゆる特殊開錠用具所持禁止法)が成立し,ピッキング用具等の特殊開錠用具の所持,ドライバー,バール等の指定侵入工具の隠匿携帯等に関する罰則が新設された(16年1月全面施行)。

ウ 犯罪収益移転防止法等

金融機関等による顧客等の本人確認及び取引記録の保存に関する措置を定めることにより,公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等が金融機関を通じて行われることの防止に資する金融機関等の顧客管理体制の整備の促進を図ることを目的として,平成14年4月,金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律(平成14年法律第32号)が成立し,15年1月に施行された。同法では,預貯金口座の開設時等に金融機関等が本人確認を行う際に,顧客等が隠蔽の目的で本人特定事項を偽った場合等についての罰則が設けられた。

インターネット等を通じて売買された他人名義の預金口座を不正に利用した振り込め詐欺等の犯罪行為が多発していたことを踏まえ,平成16年法律第164号により,金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律が改正され,法律の題名が金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律に改められるとともに,預金口座等の不正な利用を防止するため,預貯金通帳等の有償譲受け等に関する罰則が新設された(平成16年12月施行)。

金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律は,犯罪収益の移転防止を図り,併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保し,もって国民生活の安全と平穏を確保するとともに,経済活動の健全な発展に寄与することを目的に,平成19年3月に成立し,20年3月に全面施行された犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下この節において「犯罪収益移転防止法」という。)により廃止され,預貯金通帳等の有償譲受け等の罰則は同法に引き継がれた。さらに,平成23年法律第31号による犯罪収益移転防止法改正により,顧客等が隠蔽の目的で本人特定事項を偽った場合や預貯金通帳等の有償譲受け等に対する罰則が強化された(23年5月施行)。

エ 携帯電話不正利用防止法

振り込め詐欺等の犯罪においては,契約者を特定できない携帯電話が利用されることが多いことを踏まえ,振り込め詐欺対策として,平成17年4月,携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号。いわゆる携帯電話不正利用防止法)が成立した(18年4月全面施行)。同法では,携帯電話の不正な利用を防止するため,携帯電話に係る役務提供契約締結時における携帯音声通信事業者の本人確認義務に関する規定が設けられるとともに,携帯電話の不正な譲渡・貸与等に関する罰則が新設された。

オ 組織的犯罪処罰法

暴力団等による薬物・銃器の不正取引を含め,組織的な犯罪に適切に対処するため,平成11年8月,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成11年法律第136号。以下この節において「組織的犯罪処罰法」という。)が成立し,12年2月に施行された。同法には,殺人や逮捕監禁等の特定の刑法犯の罪が,<1>団体の活動として,その罪に当たる行為を実行するための組織により行われた場合,<2>団体に不正な権益を得させる目的等で実行された場合について,いずれも加重処罰する規定が設けられた。さらに,これらの刑法犯及びその他の特定の犯罪に係る犯罪収益等を仮装・隠匿・収受する行為(マネー・ローンダリング)又は犯罪収益等を用いて法人等の事業経営の支配を目的とする役員変更等の行為を処罰する規定が設けられたほか,犯罪収益等の没収・追徴及びそのための保全手続に関する規定等が定められた。

平成16年法律第156号による改正では,凶悪犯罪を中心とする重大犯罪に適正に対処するため,刑法が規定する有期懲役・禁錮の上限やこれらの犯罪に係る法定刑が引き上げられた際,殺人罪の法定刑の下限が引き上げられたことから(本章第1節6項参照),これに合わせて,組織的犯罪処罰法に規定される組織的な殺人の罪の法定刑の下限が引き上げられた(平成17年1月施行)。

平成18年法律第86号による改正では,犯罪収益の剥奪及び犯罪の被害者の保護を一層充実させるため,財産犯等の犯罪行為によりその被害を受けた者から犯人が得た財産(犯罪被害財産)について,一定の場合にその没収・追徴をした上,これらを被害回復給付金の支給に充てるための規定等が整備された(平成18年12月施行。被害回復給付金の支給状況については,6-2-2-2表参照)。

平成23年法律第74号により,強制執行妨害行為について処罰対象の拡充や法定刑の引上げ等を内容とする刑法改正(本章第1節11項参照)が行われ,これに伴い,組織的態様又は不正権益目的による強制執行妨害行為を加重処罰する規定が組織的犯罪処罰法に新設された(平成23年7月施行)。

平成28年法律第54号により,犯人蔵匿等の刑事手続における事実の適正な解明を妨げる行為について,これまで以上に厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すとともに,その威嚇力によってこれを抑止して公判審理の充実化を図るため,刑法が規定する犯人蔵匿等の罪の法定刑が引き上げられ(本章第1節14項参照),これに伴い,組織的犯罪処罰法が規定する組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等の罪の法定刑が引き上げられた(平成28年6月施行)。

平成29年法律第67号による改正では,犯罪の国際化・組織化の状況に鑑み,国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(平成29年条約第21号。第3編第3章第1節1項(1)参照)の締結に伴い,所要の規定を整備するため,テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画及び証人等買収行為を処罰する規定等が新設された(平成29年7月施行)。

平成期における組織的犯罪処罰法違反の動向については,第4編第3章第1節参照。

カ サリン等による人身被害の防止に関する法律等

平成7年3月に発生した,いわゆる「地下鉄サリン事件」(第4編第3章第1節コラム15参照)等の猛毒ガスサリンによる無差別テロと同種の事犯の再発を防止するため,サリン等の製造,所持等を禁止し,その発散行為の罰則,発散による被害発生の場合の措置等を定めたサリン等による人身被害の防止に関する法律(平成7年法律第78号)が同年4月に成立した(一部を除き同月施行)。また,同年3月,化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律(平成7年法律第65号)が成立した(一部を除き同年5月施行)。同法は,化学兵器の開発,生産,貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約(平成9年条約第3号)及びテロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約(平成13年条約第10号)の的確な実施を確保するために,化学兵器(砲弾,ロケット弾等の兵器で,毒性物質等を充塡したもの)を使用して毒性物質等を発散させる行為,同兵器の製造・所持等を処罰するものである。

キ 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律

ソマリア沖での海賊事犯等を受け,我が国の経済社会及び国民生活にとって船舶航行の安全確保が極めて重要であることなどに鑑み,海賊行為の処罰及び海賊行為に適切かつ効果的に対処するため,平成21年6月,海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(平成21年法律第55号)が成立した。これにより,公海や我が国領海等における海賊行為に対する罰則が定められるとともに,海上保安官や自衛官が,一定の要件の下に,海賊行為に対して武器使用ができるなど,海賊行為への対処のために必要な事項が定められた(同年7月施行)。

(2)暴力団関係

平成期における暴力団犯罪の動向や犯罪者処遇の状況については,第4編第3章第2節参照。

ア 暴力団対策法

暴力団については,昭和62年頃からの団体数及び構成員数の漸増,特定の広域暴力団への集中統合,いわゆる民事介入暴力の増加や手口の巧妙・陰湿化,対立抗争事件数は減少しながらも銃器発砲事件数の割合の増加や民間人を巻き添えにするなど事件の悪質化等の傾向が見受けられた。このような背景事情の下,平成3年5月,暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い,暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずることなどにより,市民生活の安全と平穏の確保を図ることを目的として,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号。以下この節において「暴力団対策法」という。)が成立した(4年3月施行)。

暴力団対策法は,暴力団を反社会的存在として法律上明確に位置付けるとともに,適用範囲を明確にするために一定の要件に該当する暴力団を指定し,指定暴力団の構成員による具体的行為のうちで従来の刑罰法令では対処し難い不当な行為を規制対象とした。この規制手段としては公安委員会による中止命令等の行政命令によるものとし,刑事罰はその実効性を担保するためのものとして位置付けられた。また,民間の公益的団体による暴力団排除活動を側面から援助し,促進するための措置が定められるとともに,暴力団員による不当な要求によって生じた被害の回復等の援助措置が設けられた。

平成5年法律第41号による改正では,競売の対象となるような土地等に係る明渡し料等の要求行為や不当な株式買取り等の要求行為等を中止命令等の対象となる暴力的要求行為等に含ませるなどの暴力的要求行為に係る規定の整備,暴力団への加入強要等の規制の強化,暴力団からの離脱を阻害する不当な行為の規制の新設,暴力団からの離脱を促進するための施策の充実等が行われた(平成5年8月全面施行)。

平成9年法律第70号による改正では,暴力的要求行為に係る行為類型としての不当債権取立行為の追加,指定暴力団と一定の関係にある者が当該指定暴力団員等の威力を示して行う不当な要求行為を準暴力的要求行為として規制するための規定の新設,対立抗争時における事務所の使用制限の拡大等が行われた(平成9年10月全面施行)。

平成16年法律第38号による改正では,凶器を使用した対立抗争等によって指定暴力団員が他人の生命,身体又は財産を侵害したときは,当該指定暴力団の代表者等が,これによって生じた損害を賠償する責めに任ずることとされた(平成16年4月施行)。

平成20年法律第28号による改正では,暴力的要求行為に係る行為類型に,行政庁に対して許認可をするよう要求するなどの行為,国,地方公共団体等に対して公共工事の入札に参加させるよう要求する行為等が追加されるなどした(平成20年8月施行)。

平成24年法律第53号による改正では,<1>特定抗争指定暴力団等や特定危険指定暴力団等の指定を含む市民生活に対する危険を防止するための規定の整備,<2>暴力的要求行為等に対する規制の強化,<3>都道府県暴力追放運動推進センターによる暴力団事務所使用の差止請求制度の導入等がなされた(平成25年1月全面施行)。

イ 暴力団排除条例

各地の地方公共団体において,暴力団排除に関する条例(いわゆる暴力団排除条例)が制定・施行され,様々な分野で暴力団排除の取組が推進・強化されている。暴力団排除条例には,各都道府県の暴力団情勢等に応じて,事業者による暴力団員等に対する利益供与の禁止,暴力団事務所に使用しないことの確認や契約書への暴力団排除条項の導入等不動産の譲渡等をしようとする者の講ずるべき措置等の規定が盛り込まれている。罰則を含むものとして全国初の暴力団排除条例である福岡県暴力団排除条例が平成21年10月に制定されるなど(22年4月施行),23年までに全都道府県で暴力団排除条例が制定・施行されている。