犯罪や非行をした者の更生に向けた支援は,保護司や協力雇用主を始めとする数多くの民間協力者に支えられており,民間協力者は,地域に根ざした活動を通して,犯罪や非行をした者への支援を担うだけでなく,刑事司法機関と地域の関係者や住民等との間に立ち,犯罪や非行をした者の更生支援に対する理解や協力を促進する上での要となっている(コラム1,2,5,6参照)。また,国の職員の立場では十分な支援ができない場合や,民間ならではの経験や知見を必要とする場合において,例えば,薬物依存からの回復の経験や高齢者の介護・福祉に関する専門知識等,それぞれの特徴をいかした活動を通じて,民間協力者は更生支援において幅広い役割を果たしている(コラム2,12,14,20,23,24参照)。
現場で活躍する民間協力者の声を聞くと,犯罪や非行をした者と関わる中で,当初は困難を感じることもあるが,粘り強い取組を続けるうちに,犯罪や非行をした者の立ち直りに向けた変化等を体験することにやりがいを感じ,活動を続ける動機としていることがうかがえる(コラム1,5,6,16,20,24参照)。
民間協力者の果たす役割が重要である一方で,保護司等の更生保護ボランティアの数は減少ないし横ばいの状態にあり,安定的な確保が課題となっている(2-5-5-1図,7-2-2-5図,7-2-2-6図参照)。また,協力雇用主数は増加しているものの,実際に刑務所出所者等を雇用している協力雇用主の比率は横ばいで推移している(7-3-1-19図,7-3-1-20図参照)。
その理由として,例えば,保護司候補者の確保について,法務省保護局が全国の保護司会に行ったアンケート調査では,保護司になることを候補者から断られた経験があると回答した保護司会が約9割を占めるが(7-2-2-2図<1>参照),断られた理由を見ると(同図<2>参照),「家族の理解が得られない」,「犯罪者等の指導・援助に自信がない」,「自宅に訪ねて来るのが負担である」といった犯罪や非行をした者に直接関わるという保護司に特有の活動に関する理由が高い割合となっている。また,協力雇用主が実際に刑務所出所者等の雇用を行うに当たっては,経歴を聞かず採用することへのためらいや,犯罪や非行をした者が勤務していることに他の従業員や顧客が不安を抱くのではないかといった懸念等が障害となることが指摘されている(コラム4,20参照)。
以上のような課題の根幹には,犯罪や非行をした者に関わることへの多くの人々が持つ不安や抵抗感という共通の背景があることが指摘できる。民間協力者には,地域でのボランティア活動等の経験者が多く,その過程で犯罪や非行をした者やその更生を支援する民間ボランティアと接したことなどがきっかけとなり,更生支援に関わることになったという人が少なからずいるが,そのような人でも,最初は,犯罪や非行をした者に関わることに不安や抵抗感,ためらいがあることが少なくない(コラム1,5,6,14,16,20参照)。世論調査においても,犯罪や非行をした者の立ち直りに協力しようとする意識のある者が同調査対象者全体の約6割に上る一方で,そのうち犯罪や非行をした人たちに直接会って継続的に助言や援助をするというような直接的な協力をしたいと回答した者は,2割前後にとどまった(7-2-1-2図,7-2-1-4図参照)。各地の現場からの声や世論調査に見られるような犯罪や非行をした者に関わることへの不安や抵抗感が,一般的なボランティア活動等と比べて,直接的な協力へのハードルの高さ,ひいては民間協力者を安定的に確保することの難しさにつながっていると考えられる。
しかし,このような不安や抵抗感は解消し得るものである。現在,再犯防止に直接関与している民間協力者からは,犯罪や非行をした者に関わる前は抵抗感があったが,実際に関わってみると一人一人個性がある「普通の人」だったと感じるようになった,時間が経つにつれ自分たちが支えていかなければならないという意識が生まれたといった声が聞かれ(コラム5,14,16,20参照),犯罪や非行をした者の立ち直りへの直接的な協力を通じて彼らへの理解が深まるにつれ,不安や抵抗感が和らぎ,さらには,その更生を支えることへの意欲や自負にもつながっている。
また,前記世論調査では,犯罪や非行をした者が身近にいると思う者や,犯罪や非行を地域の問題として捉え,地域ぐるみで立ち直りを援助することが必要と思う者は,そうでない者より犯罪や非行をした者に直接的な援助をしようという意識を抱く者の割合が高いことが示された(7-2-1-5図,7-2-1-6図参照)。すなわち,「犯罪や非行をした者は自分にとって遠い存在である」,「更生支援は一地域住民にできるようなことではなく,公的機関や専門家に任せるべき」といった意識から,「犯罪や非行をした者も同じ地域に暮らす住民であり,自分たちが支援していくべき」といった意識へと変化することが,民間協力者が不安や抵抗感を克服し,より積極的に更生支援に取り組む上での鍵となる可能性がある。
もとより,このような意識の変化には,複数の事例を通じた経験の蓄積等を要するし,進んで広く地域の住民から理解を得るためには積極的な働き掛けが必要であり,こうした国民の意識も踏まえた上で,新たな民間協力者を確保するための広報・啓発活動を実施することが求められる。
以上を踏まえ,民間協力者との協働を拡充していくためのポイントについて検討する。
まず,犯罪や非行をした者の立ち直りに協力しようとする意識のある国民の中から民間協力者を確保していく段階及び再犯防止の活動への取組を始めた民間協力者が協力に抵抗感やためらいを感じやすい初期の段階において,その不安や負担を軽減し,実際の協力に踏み出すことを容易にするとともに,犯罪や非行をした者の更生に関わることへの意識の変化を促進するため,特に刑事司法機関による民間協力者に対する支援制度等の丁寧な説明と手厚い手当てが必要である。そのためには,刑事司法機関において,民間協力者が何を不安や負担に感じ,どのような支援を望んでいるかなど,そのニーズを様々な形で把握し,それに応えていく必要がある。
保護司を例にとれば,前記のアンケート調査では,経験の浅い保護司に対する支援策として先輩保護司の相談助言や保護司同士のケース検討(地域処遇会議)を挙げる回答が多かった(7-2-2-2図<4>参照)。これについては,近年,保護司の複数担当制の活用が推進されているほか,更生保護サポートセンターの設置が地方公共団体の協力を得ながら進められており,同センターは,実際に保護司の処遇活動・地域活動を支える拠点となっている(コラム1,6,7参照)。これらの支援策を通じて,経験の浅い保護司は先輩保護司から犯罪や非行をした者に対してどのような支援ができるのかを知り,また更生保護サポートセンターという保護司同士や関係機関・団体と交わる場を通じて地域ぐるみで更生に関わるということを実感できるため,前記のような意識の変化が促進されると考えられる。現在,国と地方公共団体により進められている保護司の活動の基盤整備は,正にニーズに即した支援策であると言え,一層の充実が望まれる。また,世論調査において,協力雇用主への支援内容として,専門・技術職,管理職及び事務職にある者には,給与の一部助成や奨励金の支給,税制面での優遇等を必要と考える者が多かった(7-2-1-9図参照)。このことは,協力雇用主の登録を,現状で多くを占める建設業,サービス業,製造業といった業種以外にも拡大するに当たって,刑務所出所者等就労奨励金制度等の財政的な支援や,コレワークが取り組んでいる個々の事業者に対する丁寧な制度の説明(コラム19参照)といった取組がニーズに沿ったものであることを裏付ける。ただし,同調査では,協力雇用主に必要な支援として「保護観察官や保護司によるサポート」を挙げる回答が最も高い割合を占めており(7-2-1-9図参照),また,実際に犯罪や非行をした者を雇用した協力雇用主からは,被雇用者の離職を防ぐため,就職後に被雇用者に必要な助言をしたり,協力雇用主の相談に応じたりするなど,職場への定着を促す,いわば「アフターケア」としての支援を望む声が聞かれる(コラム3,22参照)。これらは,犯罪や非行をした者をどのように職場で受け入れ,短期間での離職を防ぎつつトラブルが起きた場合にどう対処すればよいかといった,実際の雇用に当たって協力雇用主が抱く不安や負担の存在を示唆していると考えられ,ニーズを踏まえた更なる支援の強化が求められる。
刑事司法機関が民間協力者の候補者に対し,多様な支援制度の内容等を十分に説明し,犯罪や非行をした者の更生支援に対する不安や負担の低減に努め,意識の変化を後押しすることは,新たな民間協力者を確保する上で不可欠であり,国は,民間協力者の熱意に甘んじることなく,地方公共団体の協力も得ながら,各種の民間協力者を支援する取組を一層進めることが望まれる。
新たな民間協力者の確保に向けては,犯罪や非行をした者の立ち直りに協力しようとする元々の意識が,全ての国民に一律ではない点にも留意する必要がある。世論調査の結果からは,立ち直りへ協力しようとする意識は性別,年齢,就労状況等及び協力内容により,一定の傾向が認められ,例えば同じように犯罪や非行をした者が身近にいると考えていても,彼らに直接会って継続的に助言や援助をするというような直接的な協力の意思がある者の割合は男女で差が見られることなどから,このような傾向を踏まえた民間協力者確保の取組が有効であろう(詳細については,本編第2章第1節2項(3)参照)。前記のとおり,犯罪や非行をした者の立ち直りに直接的に関与するのには一定の心理的なハードルがあることを踏まえると,協力のきっかけを作るという意味では,まず「社会を明るくする運動」等への参画を促し,その上で多様な支援の内容を説明しながら,犯罪や非行をした者の立ち直りに直接的に関与している民間協力者の活動に関与できる機会を増やすことなども効果的であると考えられる。
さらに,民間協力者の家族・同僚等を含め,犯罪や非行をした者が地域社会において立ち直るための再犯防止施策の基盤となる地域住民の理解と協力を促すためには効果的な広報・啓発活動を行っていく必要があるが,このような活動により地域住民の中で民間協力者となり得る層の裾野を広げる効果も期待できる。既に多くの国民が参加している「社会を明るくする運動」や矯正施設の参観,矯正展(刑務所作業製品展示即売会)等の広報・啓発活動の機会を十分に活用し,再犯防止に関する取組や活動への参画のきっかけとなるような効果的な行事等の企画・実施を推進していくことが望ましい。前記世論調査の結果からは,犯罪や非行をした者も同じ地域で生活する住民であって,その更生には地域ぐるみの支援が必要であると理解してもらうことが肝要であり,具体的な広報・啓発活動の在り方として,民間協力者等が犯罪や非行をした者と実際に接する中で,どのように彼らへの意識が変化したかという経験をその地域の住民と共有してもらうことや,犯罪や非行をした経験を持つ当事者が自らの経験を語る機会を作ること(コラム8参照)なども有効であると考えられる。地域において犯罪や非行をした者と身近に接する更生保護ボランティアや協力雇用主等の活動の体験談に地域の住民が直接触れる機会を増やすことは,更生支援に対する人々の意識に変化をもたらすのみならず,民間協力者への関心と社会的評価を一層高め,更生に協力する志のある人々が民間協力者として活動に参画するきっかけにもなり得るであろう(コラム1,3,5,17参照)。
なお,特に,犯罪や非行をした者への就労支援に関して,世論調査では,積極的な雇用の必要性について約4分の1の調査対象者が「わからない」と回答しており,国民の中で犯罪や非行をした者の積極的な雇用への賛否について迷いが大きいことがうかがわれる(詳細については,本編第2章第1節2項(2)参照)。一方で,犯罪や非行をした者を受け入れる職場にあっては,民間協力者である協力雇用主だけでなく,周囲の同僚等の理解や支えも重要であること(コラム4,20参照)を踏まえると,広報・啓発活動等により,就労を通じた立ち直りの具体例を紹介し,また,刑事施設の初入者と再入者では犯行時に無職であった者の占める割合に大きな差があること(5-2-3-4図参照)などのデータを示すなどして,就労支援の重要性等を,広く国民に伝える必要があると考えられる。