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平成29年版 犯罪白書 第7編/第2章/第2節/コラム1

コラム1 保護司の活動

保護司は,犯罪や非行をした者(保護観察対象者)と定期的に面接を行い,更生を図るための約束事(遵守事項)を守るよう指導するとともに,最近の生活状況等について話し合い,必要な助言をしたり,就労の手助け等を行っている。保護司による指導・助言等は,保護観察対象者が保護司の自宅を訪問したり,保護司が保護観察対象者の自宅を訪問したりするほか,近年は更生保護サポートセンターの面接室等で行われる。保護司は,こうした保護観察業務のほか,このコラムで紹介するような更生保護に関する活動に幅広く従事している。

1 保護観察対象者と地域社会との懸け橋として

千葉県佐倉地区保護司会 保護司 中俣弘子 氏が保護司を引き受けたのは,先輩の保護司から誘われたのがきっかけである。当時,保護司について,あまり知識がなかったこともあり,引き受けることにためらいもあった。それから23年が経つが,「保護司になって本当に良かった。今では感謝している。」と述べる。「私は,子供の頃から小さな子の面倒をみたり,他人を喜ばせたりすることが好きだった。保護司はそんな私に向いていたのだと思う。」と振り返る。

中俣氏が人と接する際に大切にしていることは,「常に相手から学ばせてもらう態度」を持つことである。保護観察対象者の場合も例外ではない。そうした態度で接していると,最初は心を開かなくても,多くの者が徐々に心を開くようになるという。

「なりたくて悪くなる人は誰もいない。周囲の様々な状況やきっかけで悪くなってしまうものだ。」と信念を語る中俣氏は,まず保護観察対象者に対して,幸せになる方法を見付けるために保護司と共に歩み出すよう動機付けることを心掛けている。そして,面接の際に保護観察対象者が見せる様々な顔から,更生につながるような長所を見いだすことを重視している。

そんな中俣氏でも,保護司として処遇を行う上で,全く苦労がなかったわけではない。特に保護司になりたての頃は,保護観察対象者との接し方に悩み,担当の保護観察官に相談したことも多かった。また,夜間,保護観察対象者の親子げんかの仲裁に入ったこともある。しかし,そうした保護観察対象者の中には,保護観察が終了してからも,連絡をくれたり,訪ねてきたりする者も多い。保護観察が終わった後に,親から相談を受けたりすることもある。保護観察が無事終了した者と共に食事をしながら歓談する一時が,保護司のやりがいを最も感じる瞬間であり,「それまでの苦労も吹き飛んでしまう。」と中俣氏は言う。

中俣氏は,保護観察対象者の処遇に携わる一方,現在,佐倉地区保護司会副会長として地区保護司会の運営にも携わっており,その際,「社会を明るくする運動」等の広報・啓発活動,協力雇用主の開拓等を重視している。効果的な広報・啓発活動のためには地域の中で活動に広がりを持たせることが必要であるが,そのために,中俣氏は自らも地域の更生保護女性会(第2編第5章第5節4項(1)及び本項(1)イ(ア)参照)の会員として,保護司会と更生保護女性会とが連携して「社会を明るくする運動」を推進することを心掛けており,特にその一環として,毎年,講演会を開催することに力を入れている。

地域における保護司としての活動がきっかけとなり,現在,中俣氏は,佐倉市社会福祉協議会福祉委員,千葉県薬物乱用防止指導員等,他の公職も引き受けている。保護司活動についての地域の認識を深めるためには地域のこうした団体等との連携がますます必要になっていると,中俣氏は考えている。こうした団体との連携が保護司としての活動を更に活性化するとともに,保護司の担い手を見いだすことにもつながるからである。

保護司活動を通して,保護司にならなければ出会うことがなかった様々な人々と関わり,その人々から多くのことを学び,広い世界を知ることができた。そうした思いが長年にわたって保護司を続ける支えとなっていると,中俣氏は振り返っている。

保護司活動を通した出会いについて語る中俣弘子 氏【写真提供:千葉保護観察所】
保護司活動を通した出会いについて語る中俣弘子 氏
【写真提供:千葉保護観察所】
2 保護司活動を通した地域社会への貢献

千葉県長生地区保護司会 保護司 三枝義男 氏は,若い頃から積極的に自治会,青年団,消防団等の地域団体の活動に携わってきた。地域社会に貢献する活動に関心があったからである。自治会長や地域の青少年健全育成会会長として青少年問題に関わっていた頃,その活動振りが先輩保護司の目にとまり,保護司になるように促された。ちょうどその頃,自分自身の職業に身を入れなければならない時期に差し掛かっており,多少の迷いもあったが,結局,それから22年間にわたり保護司活動に携わってきた。保護司になってからも,長年にわたり市会議員を務めるなど,多忙な日々の連続であった。それでも保護司を続けてこられたのは,地域社会を良くする活動への関心が強かったからだと,三枝氏は振り返る。

保護観察対象者の処遇を行う際,三枝氏は,約束事を守らせることとともに,保護観察対象者に自信を持たせ,勇気を与えつつ,仕事に就くよう促すことを重視している。更生する上で仕事が大きな意味を持つと考えるからである。そして,仕事に就き,まともな生活をしていくには厳しいことが伴うかもしれないが,「長い目で見れば人生にとって有意義で,はるかに得なことだ。」ということを保護観察を通して気付いてもらうことに常に留意している。

三枝氏は,保護観察対象者の処遇を続ける一方,早くから理事として長生地区保護司会の運営に関わり,平成27年からは長生地区保護司会会長としてその運営に采配を振るっている。三枝氏が地区保護司会会長としてまず重視したことは,保護司相互のまとまりである。長生地区保護司会は,1市6町村にまたがっており,こうした保護司会が地域において効果的な活動を推進していくためには,保護司の間の協調が特に必要だと考えるからである。

三枝氏は,今,更生保護の活動を地域社会の人々によく知ってもらうことを,長生地区保護司会の課題として常に意識している。「社会を明るくする運動」等の啓発活動の成果を生かし,更生保護を地域に浸透させるには,他の組織・団体の人々とつながりを築くための現場での地道な活動が必要だと考えるからである。そのために,三枝氏は,青少年育成茂原市民会議に対して,運営委員の一人として保護司の出席を認めるよう依頼し,長生地区保護司会から代表者を出席できるようにした。また,長生地区保護司会に所属する保護司に対して,それぞれの地区の社会福祉協議会の会合等に出席し,更生保護を知ってもらう機会を積極的に見いだすよう呼び掛けている。

保護司会活動の活性化のためには,時には独自の工夫も必要となる。平成25年9月1日,茂原市社会教育センターの一室を借り,長生地区更生保護サポートセンターが開設された。同市社会教育センターの中には,青少年指導センター等もあり,こうした関係機関との連携が取りやすい。同サポートセンターは,保護司の処遇活動や犯罪予防活動等の場として大きな役割を果たすとともに,保護司会が地域の他の組織・団体等との連携を進める上での拠点ともなっている。三枝氏は,開設以来,その機能を一層促進する方法を思案していた。その結果,事務局機能の強化の必要性について思い至り,保護司の中からサポートセンターの事務に携わる事務局員を指名することにした。そして,実際に長生地区保護司会では29年4月から事務局員がその事務処理に当たっている。

「一隅を照らす」ような社会に対する貢献をしたいという思いが,これまでの三枝氏の保護司活動を支えてきた。保護司の活動は,そのような思いに間違いなく応えてくれるものであったという。さらに,そうした保護司の活動を組織として方向付ける保護司会運営の任務にも,三枝氏は手応えとやりがいを感じている。

保護司活動のやりがいについて語る三枝義男 氏【写真提供:千葉保護観察所】
保護司活動のやりがいについて語る三枝義男 氏
【写真提供:千葉保護観察所】