札幌刑務所における高齢又は障害を有する受刑者に対する社会復帰支援指導プログラムについて,指導を依頼している2人の民間協力者の指導状況を中心に紹介する。
基本的健康管理に関する指導をしているのは,公益社団法人北海道栄養士会 管理栄養士 星川ミチ子 氏である。星川氏は,同刑務所から依頼を受けた当初,受刑者に対して指導することに若干の戸惑いがあったが,身近な人からの「受刑者といっても普通の人だよ。」という声に後押しされ,引き受けることにしたという。栄養の摂取に関する指導の際には,受刑者に,毎日の食べ物が健康を支えていることをわかってもらい,そのために何を選んで食べたらよいのかを主食・主菜・副菜を中心に説明し,楽しみながら覚えてもらうために,料理カードを使って,選んだ料理の栄養バランスを確認したり,野菜トランプで野菜クイズをするなどの工夫をしている。また,男性は料理を作るより出来合いのものを利用する機会が多いので,コンビニエンスストアの弁当や総菜をバランス良く組み合わせる方法も伝えているという。星川氏は当初,実際に受刑者と接してみたら,ごく普通の人たちだが,苦しい過去を抱える人たちではないかと感じたと振り返る。同所で指導を始めてからは,刑務所に関する新聞記事にも関心を持つようになったそうである。
また,基本的生活動作に関する指導をしているのは,公益社団法人北海道理学療法士会 石橋晃仁 氏である。指導は,受刑者が通常の日常生活を送る上での起居動作・歩行等に必要な体力や筋肉を維持させるためのものである。石橋氏によると,理学療法士は,病院で勤務することが多いが,近年の社会的ニーズから,地域住民に対する介護予防教室や健康講座での活動が増えてきているとのことである。石橋氏は,これまで受刑者と接することはなかったが,同刑務所の受刑者を実際に指導してみると,全員男性で,相互のコミュニケーションが少ないなどの違いはあるものの,一般の高齢男性と変わらないと思ったとのことである。石橋氏は,指導に当たり,一般の男性の集団と同じように集団の雰囲気作りに努めているほか,プログラムの性質上,対象者には,高齢者と知的障害のある者等が混ざっているため,指導内容を理解してもらうための配慮もしているという。石橋氏は,このプログラムに限らず,理学療法士会として受刑者に対して指導することが再犯防止につながるのなら,前向きに協力していきたいと語る。
札幌刑務所の教育部門の担当職員によれば,同プログラムのカリキュラムは,多分野にわたり,専門的知識等が必要な内容が多く,民間協力者の支援が不可欠とのことである。同職員は,民間の方による指導は,対象者にとって良い刺激になり,集中力も高まるようであり,今後も民間の専門家の支援を受けながら,一人でも多くの対象者を円滑な社会復帰に導きたいと述べている。