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平成29年版 犯罪白書 第7編/第4章/2

2 多機関連携
(1)現状

薬物事犯者や高齢・障害犯罪者等の指導・支援,犯罪や非行をした者への就労支援の分野で,刑事司法機関が国の他の機関や地方公共団体,地域の関係機関・団体等と連携して実施している取組は,近年,増加する傾向にある。例えば,薬物依存のある刑務所出所者等の地域支援の充実を目指した地域連携ガイドラインに基づき,保護観察所は医療機関及び精神保健福祉センター等との連携を強化しており,これらの関係機関の支援を受けた対象者の人員は増加している(7-3-1-2図参照)。また,矯正施設及び保護観察所が,地域生活定着支援センター等と連携して行う高齢・障害犯罪者等に対する特別調整の結果,福祉施設等での受入れにつながった人員や,ハローワークと連携して行う刑務所出所者等就労支援事業によって就職に至った件数も,過去5年間で増加している(7-3-1-7図7-3-1-11図7-3-1-18図参照)。そして,こうした連携の前提となる地域社会での受入先の確保も進められており,薬物処遇重点実施更生保護施設や特別処遇を実施する指定更生保護施設の指定が拡大されているほか,薬物事犯者及び高齢・障害犯罪者において更生保護施設を住居とした保護観察開始人員は過去10年間で大幅に増加している(7-3-1-4図7-3-1-9図参照)。さらに,刑事施設における就労支援の一環として,保護観察所及び更生保護施設の協力の下,採用面接を受けるために受刑者を外出・外泊させるという,施設内処遇と社会内処遇をつなぐ取組も見られる(コラム21参照)。

また,立ち直りに向けた支援において連携に加わる地方公共団体も増えつつあり,本章1項で記載したような保護司や協力雇用主に対する支援への協力のみならず,犯罪や非行をした者に対する医療・保健,福祉等の様々な分野においても,刑事司法機関と地方公共団体の関係部局等が連携して,更生を支援する地域のネットワークを構築し,必要なサービスを提供しようとする多くの取組が見られる(コラム311151718参照)。なかには,地方公共団体が中心となって関係機関のネットワークを運営したり,新たに更生支援を担当する部署を設置してこれに取り組むという先駆的な試みも見られる(コラム31718参照)。

以上のように刑事司法機関と地方公共団体等を始めとする多くの機関・団体が連携することにより,犯罪者の検挙・処分といった刑事司法手続のいわば入口の段階から,矯正施設内の処遇,社会内処遇を経て,刑事司法手続終了後の地域社会への定着に至るまで,刑事司法手続の段階や期間にとらわれない,切れ目のない息の長い支援が可能になる。多くの取組の中で,支援の現場の実務者が実感しているとおり,多機関連携の意義は大きいと考えられる(コラム31113151617182122参照)。

今回の特集において取り上げた先駆的な取組の多くは各関係機関・団体等に所属する人々の熱意と理解に支えられているが,地域の民間協力者の活動が地方公共団体の首長等を始めとする関係者の理解を得る上で大きな役割を果たした例もあり,民間協力者は,国と地方公共団体,地域の関係機関・団体等とをつなぐ重要な役割を果たしている(コラム3467参照)。したがって,本章1項で取り上げた熱意ある民間協力者を安定的に確保することは,同時に,地域での円滑な多機関連携の実現に向けても大きな意味があると言えよう。

また,少年鑑別所においては,地域援助として地域の学校,児童相談所,警察等の関係機関・団体等からの依頼に基づく心理相談等の援助を行っており,刑事施設においては,震災時等に地域の住民に対する支援を行ってきたほか,地方公共団体との間に災害時における相互協力に関する協定を設けている施設も増えている(コラム910参照)。このような,矯正施設の特性をいかした地域に貢献する活動も,関係諸機関や地域住民からの信頼を高め,相互協力の一環として地域の多機関連携の構築に寄与していると考えられる。

(2)課題

再犯防止推進法に基づく地方再犯防止推進計画の策定や,再犯防止施策の実施に必要な刑事司法機関と地方公共団体や地域の関係機関・団体等とのネットワークの構築は,喫緊の課題であるが,その分野や地域によってはそもそもネットワークの構成員となるべき関係機関・団体等の社会資源自体が偏在しており連携相手が容易に得られないなど,個々の地域の実情に大きく左右されるのが現実であろう(コラム1323参照)。さらに,地方公共団体が主体的に関与する再犯防止に向けた取組についても,まだ緒についたばかりのところも多く,実践例は限られている。

また,犯罪や非行をした者の支援に関わる際,当初不安や抵抗感があるのは関係機関・団体等の場合も個人の民間協力者と同様である(コラム415参照)。犯罪や非行をした者を就労や福祉の現場で初めて受け入れる場合,何かあったときの責任や対応などについての不安を完全に払拭するのは難しいこともあり,協力の趣旨は理解されても実際の受入れにつながらないこともある(コラム1516参照)。また,関係機関・団体等の関係者からは,就労や福祉サービスにつながった後のフォローアップの必要性が課題として指摘されるが(コラム3151822参照),刑事司法機関の関与は法令の範囲内,処分の期間内に制約されるという限界がある。さらに,刑事司法機関と連携相手の機関・団体等の双方が,それぞれの制度や手続とその限界,対象者の特性等について十分に理解することが,円滑な連携を図る上では欠かせない(コラム1617参照)。

(3)小括

以上を踏まえ,多機関連携を促進する上で重要なポイントについて検討する。

まず,犯罪や非行をした者の更生支援の担い手となる地域の関係機関・団体等の分野による不足と地域的な偏在という課題を解決し,多機関連携の基礎を作る上で,国は,保護司を始めとする更生保護ボランティア等,既に刑事司法に関わっている地域の民間協力者と緊密に連携の上,地方公共団体や関係機関・団体等へ更生支援の意義について丁寧に説明し理解を求めるとともに,支援の各分野において地域の社会資源の開拓・拡充を地道に行うことが求められる。先に指摘したとおり,民間協力者の安定的な確保はこの点でも重要である。社会資源の開拓については,新たに地域のための社会資源自体を生み出す刑事司法機関の取組や,既存の福祉支援ネットワークが一括して把握している当該地域の社会福祉施設等に関する情報について提供を受ける取組なども参考になるだろう(コラム1318参照)。他にも,例えば,一般就労と福祉的支援の狭間にある者への支援については,イタリアや英国に見られるような,収益事業としての持続性を重視しつつ,個々の対象者の特性に応じた支援・介入と職業訓練を提供する社会的企業や,フィンランドに見られるような,地方公共団体が中心となって刑務所在所中から刑期終了後も社会復帰の目途がつくまで継続して実施する職業リハビリテーションプログラムなど,諸外国の先進的な取組も検討に値すると思われる(本編第3章第2節参照)。引き続き,関係省庁及び地方公共団体等とも連携の上,多機関連携に資する社会資源の拡充の方策について,国及び各地域のレベルで情報収集や検討がなされていくことが望まれる。

次に,ひとたび多機関連携が動き出せば,連携・協力事例を重ねて試行錯誤をすることが相互理解を促し,ネットワークの定着,強化につながる(コラム111618参照)。重要なのは,相手に一方的に理解を求めるのではなく,自らも相手側を理解しようとする姿勢であろう(コラム1719参照)。刑事司法機関の職員が,多機関連携を経験する中で,対象者の保護観察期間終了後の生活にも目を向けるようになることは,連携相手の視点を取り込み,より効果的な支援の在り方を考える契機となり得る(コラム15参照)。また,体系的な取組としては,職員研修等を通じて多機関連携に必要な知識を備えた職員を育成すること,社会福祉士等の専門知識を備えた職員を採用・配置すること,国と地方公共団体の組織間において協議会等を利用して意思疎通を活発化させることなども有益であろう。さらに,連携の相手方機関・団体等に,犯罪や非行をした者の更生に協力してもらうだけでなく,相手方にとっても何らかの利益が生まれるような互恵的な関係となることが理想である(コラム61622及び本編第3章第2節1項(2)イ参照)。

さらに,国,地方公共団体や地域の関係機関等による多機関連携により,犯罪や非行をした者を受け入れた機関・団体等だけに更生の支援を任せきりにせず,当該関係機関等の職員に対する相談・助言,定期的なケース会議の開催,支援計画の共有等によるフォローアップを実施していくことが重要である。この点,刑事司法手続終了後も見据えると,特に地方公共団体との緊密な連携がフォローアップの継続性を担保する鍵になるであろう。

加えて,国の役割として,更生を支援する地域のネットワークのモデルとなる事例の集積・共有に取り組むことも求められる。定期的に各地域の好事例(グッドプラクティス)を共有し,お互いの取組内容を参照できるようにすることにより,ネットワークにどのような機関・団体等を含めるか,どのような役割分担とするか,どのように支援を継続していくかなど他の地域の取組を参考とした上で,各地域ごとにその事情に応じ,創意工夫を凝らした取組が生まれ,多様な多機関連携が進展することが期待される。

今回の特集は,各分野における多機関連携による取組の好事例を集めたものであり,刑事司法の分野で更生支援に携わる者のほか,民間協力者や地方公共団体,関係機関・団体等が,この編で紹介した事例も参考に,それぞれの地域の強みをいかして,可能な取組を始め,あるいは拡充していこうとする際の一助となれば幸いである。