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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/コラム23

コラム23 女子施設地域連携事業

栃木刑務所は,平成26年度から女子施設地域連携事業による様々な取組を開始している。看護師や保健師による健康相談,社会福祉士による出所後の生活に関する福祉サービス等の知識の付与,妊産婦である受刑者に対する助産師による指導,加齢による身体機能の低下等のある受刑者に対する介護福祉士による見守り・介助等の取組であり,様々な形で外部専門家の助言・指導を得て,各種指導・支援を拡充している。28年8月からは,個人が抱える問題の解決を図ることにより,社会生活への意欲を喚起し,再犯防止に資することを目的として,受刑者からの相談に外部専門家が応じる業務を開始している。

女性の受刑者に見られる健康管理上の問題の一つとして,摂食障害がある。栃木刑務所に限らず女子刑事施設では,摂食障害の診断を受けている受刑者が一定数を占めている。摂食障害の診断を受けている受刑者には,治療方針に従わなかったり,食品をあらゆる場所に隠し,定められた食事時間以外の時間に食べたり,食事が足りないとして他の受刑者から食品を不正に受け取るといった反則事案が目立つ。また,摂食障害による食行動の異常が,犯罪の背景となっていたり,社会復帰の妨げになっていると考えられる事例も多く見受けられる。しかし,女子刑事施設では,受刑者の収容率が高率で推移する一方,職員は経験の浅い若年職員が約半数を占めているといった事情もあり,こうした受刑者の処遇に苦慮してきた。

このような状況の下,栃木刑務所では,栃木県の社会福祉士会の推薦を受けて,実務経験豊富な福祉の専門家を非常勤の相談員として採用し,受刑者に対する相談業務を実施している。摂食障害等を背景事情とする万引きを繰り返して入所するに至った受刑者との相談では,相談員の問い掛けのひと言に,受刑者がせきを切ったように自分の気持ちを語り出したという。相談員はそれを受容的に聴きながらも,キーワードをホワイトボードに書き出し,受刑者の発言内容等を整理していく。同刑務所の職員によると,制服を着用した刑務官ではなく,外部専門家の相談員に受容的な態度で話を聴いてもらうことで,受刑者が警戒心を解き,指導を受け入れやすくなることがあるという。相談員は,「受刑者は,最初は言葉少なめだが,面接の2,3回目くらいから,たくさん話し始める。その後も感情のアップダウンはあるが,出所後の生活について話し合い,不安を低減させて自信が付くと,最終的には表情が明るくなってくる。」と述べている。

このように,栃木刑務所では,女子施設地域連携事業により,地域の医療・福祉等の専門家の協力を得て,女性の受刑者特有の問題に着目した処遇の充実を図っているが,その一方で,同事業を実施する上では,地域で活動する外部専門家の確保が難しいという課題もある。前記相談員も「社会福祉士の中から女子施設地域連携事業に協力する者がなかなか集まらない。また,出所受刑者をつなげたい地域の福祉の現場にも,受刑者を受け入れることに対して理解が広がっていない。」と指摘している。外部専門家の確保を含め,同事業を効果的に実施できる環境の整備充実が今後の課題である。

相談場面の風景【写真提供:栃木刑務所】
相談場面の風景
【写真提供:栃木刑務所】