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平成29年版 犯罪白書 第7編/第2章/第2節/コラム3

コラム3 兵庫県による保護観察対象者等の就労支援等の取組

兵庫県では,更生保護関係機関・団体と連携し,多くの先駆的な就労支援等の取組が行われている。井戸敏三 兵庫県知事及び県庁幹部と更生保護関係者(保護観察所及び県保護司会連合会等の関係各団体)が10年以上にわたり,犯罪予防等を目的とし,各都道府県等に推進委員会を設けて行う全国的な広報・啓発活動である「社会を明るくする運動」(第2編第5章第5節5項及び本節3項(1)参照)の機会に懇談を重ね,意見交換してきたことが,新たな取組の端緒となったという。

この懇談会で話題となり,最初に実現した取組は協力雇用主に対する支援であった。兵庫県が実施する建設工事等において,事業者は「技術・社会貢献評価数値」が一定の点数以上ないと入札に参加できないところ,平成22年度から,協力雇用主が保護観察対象者等を雇用した場合,同数値に加点される制度が導入された。入札への参加を希望する事業者は,神戸保護観察所が発行した,保護観察対象者等を3か月以上雇用した実績を証明する「保護観察対象者等雇用に関する証明書」を県に提出するか,元請業者として,保護観察対象者等を3か月以上雇用した協力雇用主を下請業者として使用し,当該協力雇用主の「保護観察対象者等雇用に関する証明書」等を県に提出すれば,入札参加資格審査での評定結果に反映される仕組みとなっている。同県が本制度の導入をメディアに発表した後,報道により制度を知った建設会社等から保護観察所への問合せが相次ぎ,新たな協力雇用主の登録につながったという。

次に,平成24年度には,保護観察対象者等を雇い入れた協力雇用主に対し,人件費等を支援する「更生保護協力雇用主応援事業」が創設された。これにより,兵庫県は全国で初めて保護観察対象者等の就労支援について予算を編成した地方公共団体となった。同事業は,27年度に法務省の刑務所出所者等就労奨励金制度(本編第3章第1節3項(2)イ(イ)参照)が導入されて以降は,保護観察対象者等の生活基盤の支えになるよう,奨励金の支給対象となっている協力雇用主に対して,一社につき保護観察対象者等一人に限り,雇用開始後,4か月間の給与及び研修費の一部を助成する「保護観察対象者等雇用導入支援事業」へと移行した。これは,保護観察対象者等を実際に雇用するのが特定の協力雇用主に偏りがちな現状に鑑みて,新規に実際の雇用に至る協力雇用主を拡大することを狙いとしている。

さらに,兵庫県にはもう一つ独自の就労支援強化事業がある。同県では,平成22年にNPO法人兵庫県就労支援事業者機構が設立され,協力雇用主の開拓や協力雇用主への支援事業を実施しているが,同県は,25年度から同機構に就労支援強化事業を委託するようになった。当初は,協力雇用主の登録を促進する事業であったが,26年度に同機構が法務省の更生保護就労支援モデル事業を受託して以降は,県の事業は「保護観察対象者等定着支援事業」に名称を変え,主に保護観察対象者の就労後の協力雇用主の下での定着を支援する内容となっている。さらに,同事業に基づき,保護観察対象者等の就労相談を県内で広く実施できるよう支援員の配置が強化されている。同機構の事業所長によれば,県の事業となったことで,保護観察期間に限定されない“息の長い”支援が可能になったという。特に短期間での離職が問題となる少年等の支援において,数年にわたり少年等と関わり,随時相談に応じるなど,保護観察対象者を実際に雇用した協力雇用主から要望の強い取組ができるようになったという。また,同事業所の所在する神戸市だけでなく,東部の尼崎市及び西部の姫路市にも,それぞれの地域の事情を熟知した支援員を配置することができ,新たな協力雇用主の開拓など,就労支援がより充実したという。

兵庫県産業労働部政策労働局しごと支援課の担当職員によると「県民誰もが働くことができるための支援として,女性や高齢者,障害者を対象とした支援に併せて事業を行っている。自らも保護司を務めるなど関心の高い県議会議員も多く,協力雇用主の声などを聞くにつけ重要な取組だと感じる。地方公共団体だけでやろうとせず,国や就労支援事業者機構のようなNPO法人とうまく連携しながら取り組むことが大切ではないか。」とのことであった。実際,前記の保護観察対象者等定着支援事業では,刑事施設在所中から出所後の就労を国が,定着に向けたフォローを県が担うという,国と地方公共団体との役割分担を意識した事業運営がなされている。また,今後は,建設業等の既存の業種のみならず,対人場面での負荷の少ない簡単な作業等,より幅広く「働ける場」を設けていくことが必要であると考えているという。

他にも,兵庫県では,就労支援強化事業の一環として,神戸保護観察所との共催で「更生保護就労支援シンポジウム」を毎年実施したり,再犯防止推進法制定前の平成25年度からいち早く,国の機関と県・市町の関係部局,民間団体等が参画してネットワーク作りを促進するための「兵庫県再犯防止対策関係機関連絡会議」を開催し,受刑者の出所後の就労支援,生活支援等について情報共有や協議を行い,「県全体として何ができるか」を考えるなど,幅広い取組を行っている。さらに,同会議を利用し,保護司や関係各機関において再犯防止に携わる人々が,各種の支援制度(就労支援,経済的支援,住居確保支援,高齢者・障害者への支援,少年への支援,薬物依存者等への支援など)を一元的に参照できるようにするための「兵庫県再犯防止施策手引書」を作成・配布した。

これら兵庫県による取組について,神戸保護観察所の担当者は「地方公共団体との間では,これまでも,個々の保護観察対象者等の処遇において,福祉や教育等の部門と必要な連携を行ってきたが,兵庫県では,知事以下職員皆が更生保護に理解があり,国,地方公共団体,民間の連携を強化する先駆的な取組が行われてきていることは,国の更生保護機関として誠にありがたく,心強い。」と述べている。さらに,再犯防止推進法の施行を受けて,今後,こうした先駆的な連携を始めとする多様な取組が県内の再犯防止等に積極的な地方公共団体を中心に展開されていくことが期待され,それに向けて,各市町村の具体的な協力をどのように得ていくか,また,各市町村間の横の連携をいかに密にしていくかが課題であるとのことであった。

更生保護就労支援シンポジウムの様子【写真提供:兵庫県】
更生保護就労支援シンポジウムの様子
【写真提供:兵庫県】