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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/コラム24

コラム24 生命(いのち)のメッセージ展

生命のメッセージ展は,生命の尊さを伝える巡回式の展示会であり,犯罪被害者の遺族によって,平成13年に立ち上げられた。生命のメッセージ展では,被害者の等身大の人型のパネルの足元に遺品の靴を展示し,訪れた人に生命の尊さを伝えている。靴は,被害者の生きた証であり,人型には,一人ひとりの写真や事件の内容,遺族の綴ったメッセージが添えられている。生命のメッセージ展では,人型となった被害者たちのことを,生命の大切さを伝える「メッセンジャー」と呼んでいる。また,訪れた人には,会場に置かれた毛糸玉に,10センチほどの赤い毛糸を結んでもらっている。毛糸を結ぶことには,人と人とがつながり,思いをつなげ,生命をつなげるという意味が込められている。現在は,特定非営利活動法人いのちのミュージアムにより常設展示施設が開設されている。

法務省矯正局は,同法人の協力の下,平成25年度から5か年計画で,全国の矯正施設で生命のメッセージ展を開催しており,28年10月,大阪府の浪速少年院において,生命のメッセージ展が開催された。立会人による「今を生きている君たちへ」という詩の朗読の後,少年たちは,思い思いにメッセンジャーを見て,赤い毛糸玉に毛糸を結んだ。参加した少年たちは,自分自身への誓いを短冊に書き記し,その写しが同法人に送られた。

参加した少年たちからは,「今まで,被害者や遺族のことを真剣に考えたことがなかったが,メッセンジャーに触れて,自分がいかに身勝手だったか,身にしみて分かった。」,「あんな幼い子供が交通事故によって一瞬で命を奪われたと知って,胸が痛んだ。」,「赤い毛糸玉に毛糸を結ばせていただいたが,毛糸玉の重みは生命の重みだと思った。」等の声が聞かれたという。同少年院の職員は,「「償いとは何か。」について考えることは,少年たちにとって大きな課題である。金銭的な被害弁償が終わればそれでよいとか,単に謝罪すれば済むと考えている者もいるが,生命のメッセージ展を通じて,こうした被害者や遺族の生の姿に触れることで,彼らの考えを深めていければよいと思う。また,少年たちを指導している職員も,被害者や遺族が抱えている心情等の理解をより一層深めることができる。少年院における生命のメッセージ展は,在院者に向けて行っているが,同時に,職員の意識を高めることにもつながっている。」と述べている。

同法人 代表理事 鈴木共子氏は,「矯正施設で生命のメッセージ展を開催した場合,余り関心を示さない対象者がいることは事実である。しかし,その一方で,私たちに熱心に手紙を書いてくれる人や,作業報奨金から寄付をしてくれる人もいる。このように,メッセージを真摯に受け止めてくれる人がいるのだから,やはり,やってよかったと感じている。今後は,準備段階から少年にも関わってもらい,もっとメッセンジャーに触れる経験をしてもらえば,より充実したものとなると思う。」と語っている。

生命のメッセージ展の風景【写真提供:特定非営利活動法人 いのちのミュージアム】
生命のメッセージ展の風景
【写真提供:特定非営利活動法人 いのちのミュージアム】