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平成29年版 犯罪白書 第7編/第2章/第2節/コラム5

コラム5 沼田町就業支援センターと「まちぐるみ」の支援

北海道雨竜郡沼田町に,沼田町就業支援センター(以下「センター」という。)が開所したのは,平成19年10月である。現在,全国に4か所ある自立更生促進センターのうち,最初に開所した施設であり,唯一の少年向け施設でもある。非行少年の収容保護と農業実習を組み合わせ,少年の更生支援を図るとともに,地域農業の振興にも寄与することを目指す新しい試みとして,注目を集めてきた。

開所から10年の間,センターは約60人の保護観察対象少年を受け入れた。退所者の多くは住込み就職や,家族との再統合を果たし,更生支援の成果は順調である一方,地域農業振興への貢献は今後の課題である。

平成29年3月末現在,7人の少年が「自立支援プログラム」を核とする保護観察処遇を受けながら,町が運営する就農支援実習農場で週6日の農業実習を続けている。少年たちは実習手当を貯金して将来に備えるとともに,少年によっては,高等学校卒業程度認定試験を受けたり,28年に整備された運転免許取得費用助成制度を活用して,町が運営する自動車学校に通ったりしている。

実習農場と自動車学校の存在だけでも,センター事業の根幹が町に支えられていることが分かるが,「まちぐるみ」の支援はこれだけではなく,10年かけて成長もしている。

長く住んでいる町民は,「センターができた頃は,学校に行っている子供がいるお母さんたちは,あの道(センターの前を通る道)は通っちゃだめだよ,って子供に教えていました。今はもう,そういうこと言う人はいないですけど。」と話す。

センター開所前の報道記事では,地域住民に不安があり,センターの受入れには賛否両方の意見が見られた。しかし,その後,住民説明会のほかに,町商工会青年会議所が外部講師を招いて更生保護の意義をアピールする講演会を開いたり,旭川在住の女性保護司が,保護観察を受けて立ち直った若者と共に経験談を披露する集まりが地域で開かれた。また,開所半年前,沼田町は役場内にセンター準備室を設け,後に初代センター職員となる保護観察官2人を迎え入れて保護観察所に対する支援を始めた。開所1か月前には,センター活動を支援するためのボランティア団体二つが,住民の手で結成された。

センター開所後も,地域住民がセンターに抱く抵抗感や不安が解消したわけではない。入所少年や退所者が迷惑をかければ苦情が来る。農場で実習態度の悪い少年にどう対応するかで町とセンターの意見が対立することもある。しかし,町民は入所少年をお祭りや運動会といった地域行事に参加させ,話し相手になり,食事の支援をし,それが10年間続いている。さらに,沼田町外の更生保護女性会やBBS会(本節1項(1)イ参照)も支援の輪に加わり,その輪は広がっている。

年に数回,町内の農家で農業実習が行われている。ある農場主は,「去年来た時は,一人でそっぽ向いて目も合わせなかった子がいたんだわ。それがこないだまた来たら,ちゃんと挨拶して他の子の面倒も見て,別人みたく成長したね。ああいうの見ると,私らは本当に嬉しいんだわ。」と話す。

入所少年の成長を自らの喜びとして受け入れる,大きな心。これこそが10年かけて築かれた「まちぐるみ」の支援の核心のように思われる。

農業実習中の少年を見守る農場指導員【写真提供:沼田町就業支援センター】
農業実習中の少年を見守る農場指導員
【写真提供:沼田町就業支援センター】