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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/コラム22

コラム22 多機関連携による暴力団離脱・就労支援の取組

全国最多の5団体の指定暴力団の本部を有する福岡県では,暴力団からの離脱希望者に対する支援が喫緊の課題となっているところ,警察,保護観察所及び就労支援事業者機構が連携して,就労支援を軸にした暴力団離脱支援を行っている。

福岡県就労支援事業者機構の担当者によると,警察と刑事施設の働き掛けで施設収容中に暴力団からの離脱を決意した者について,釈放前に福岡県警察の社会復帰アドバイザーから,保護観察所を通じて同機構に対して依頼があり,就労支援を実施した結果,無事に離脱を果たすことができたという事例を経験したことがきっかけとなり,警察,保護観察所と同機構の多機関連携による暴力団からの離脱希望者への就労支援を行うようになったという。折しも,福岡県警察において暴力団離脱者に対する支援を強化しており,平成28年には「福岡県暴力団排除条例」を改正し,「離脱・就労支援対策」に取り組むことを県の義務として条例に明記するとともに,更生保護の刑務所出所者等就労奨励金制度を参考に,福岡県暴力追放運動推進センターが,離脱者を継続的に雇用した協賛企業に対して給付金を支給する制度と,雇用した離脱者により業務上の損害を与えられた企業に対して見舞金を支給する制度を創設した。同県警の担当者は,これらの制度の整備に当たって,暴力団からの報復や就労に関する離脱者の不安と,彼らを雇用する際に企業が感じる不安を解消することに主眼を置いたと語る。

具体的な支援手続としては,離脱希望者からの申出を受理した福岡県警察において,離脱意志の真偽を総合的に判断した後,同人が所属する暴力団から離脱承認をとり,当該暴力団からの脱退妨害等を防止するための支援を行った上,就労支援につなげる。そして,福岡県警察からの依頼を受けた福岡県就労支援事業者機構が,同機構による支援が必要と認められる暴力団離脱者に対して,就労支援を実施する。また,保護観察対象者又は更生緊急保護対象者のうち暴力団からの離脱希望者については,福岡県警察に申し出るよう保護観察官が助言し,本人からの申出により同様の支援へとつなげている。本人の住居がないような事案については,就労時の住居が見つかるまでの間,更生保護施設の受入れを調整することもある。さらに,県外に就職した者やその雇用企業に対し,当該都府県警察や暴力追放運動推進センターがより充実した支援ができるように関係都府県の社会復帰対策協議会(平成29年8月末現在,24都府県)で相互に協定を締結するなどして,離脱・就職後の組織的なアフターケアを実施している。

こうした連携について,福岡保護観察所や福岡県就労支援事業者機構の担当者は,特に暴力団からの離脱妨害の予防や阻止は警察にしかできず,警察と共に支援を行うことに心強さを感じており,警察によるフォローアップが雇用主の安心感にもつながっていると話す。同時に,暴力団離脱者に対する就労支援は,「暴力団だからと排除するのではなく,離脱し立ち直ろうとする人を積極的に雇用して自立生活を支援しなければならない。」と考える協力雇用主の高い意識に支えられているという。他方,入れ墨などに対する社会の拒否感や,疾患を抱えている離脱者が少なくないことが,就労支援を行う上での障害となっているという。

また,福岡県警察の担当者によれば,警察と刑事施設の間における離脱支援対象者の引継ぎや離脱者,雇用主等との定期的な面接など,支援後のアフターケアの充実と各種事例の積み重ねによる離脱・就労支援のための制度の充実等の課題はあるが,本支援の取組により離脱者が就労しやすい環境が整備され,マスコミ報道等でこの対策が広く知られるようになったことで,暴力団からの離脱だけでなく就労支援まで希望する者が増加しているとのことである。実際に,支援を受けた人からは「就労支援をしてもらって本当に良かった。採用される前は不安で仕方なかった。雇ってくれた社長には感謝している。」といった感想も聞かれるという。