我が国の更生保護を支える民間ボランティアの主なものに保護司(第2編第5章第5節1項参照)(保護司会),更生保護女性会及びBBS会があり,更生保護ボランティア3団体と呼ばれる。
保護司は,保護観察官で十分でないところを補い,保護観察所等の所掌事務に従事するものと更生保護法で定められており,保護観察官と協働し,保護観察の実施を始めとして,矯正施設収容中の者に関する生活環境の調整,犯罪予防活動,就労支援,社会貢献活動,学校や地域の機関・団体との連携等,その活動領域は更生保護全般にわたっている。
平成29年1月1日現在,保護司の人員は4万7,909人で,25年から4万8,000人を下回っている(第2編第5章第5節1項参照)。7-2-2-1図は,昭和50年から平成29年までの保護司の年齢層別・職業別構成比の各推移を見たものである。同年は60歳以上の保護司の割合が80.0%で,19年と比べて10pt以上高くなっており,高齢化が急速に進んでいる。また,職種による増減はあるものの,有職者の占める割合は最近20年間横ばいで,主婦を含む無職者の割合が4分の1を超えている。
7-2-2-2図は,保護司制度の基盤整備を進めるため,平成28年5月に法務省保護局が全国の保護司会(保護司が職務を行う区域ごとに構成する組織であり,保護司の研修や犯罪予防活動等を行う。)を対象に実施したアンケート調査の結果を見たものである。
保護司会が保護司候補者と思われる人に保護司になってもらえるよう依頼して断られた経験について,「しばしばある」,「時々ある」を合わせると90.5%に達している(同図<1>参照)。
断られる場合の理由(複数回答)については,「忙しく,時間的余裕がない」の割合が最も高いものの,「家族の理解が得られない」,「犯罪者等の指導・援助に自信がない」,「自宅に訪ねて来るのが負担である」といった,犯罪や非行をした者に直接関わるという保護司特有の活動に関する理由が高い割合となっている(同図<2>参照)。
保護司会に対する,保護司候補者の情報提供・推薦元(保護司自身の知人等を除く。)(複数回答)については,地域の関係機関・団体の割合が最も高く,5割を超え,次いで,法務省保護局による保護司基盤整備のための取組の一つであり,平成20年度から設置が始まった保護司候補者検討協議会が約4割となっている(同図<3>参照)。同協議会は,保護区内の保護司候補者を広く求め,必要な情報の収集及び交換を行うために,保護観察所長と保護司会長が共同して設置し,保護司のほか,町内会又は自治会関係者,社会福祉事業関係者,教育関係者,地方公共団体関係者,地域の事情に通じた学識経験者等が参加し,保護司適任者の確保に寄与している。
経験の浅い保護司に対する支援策(複数回答)については,先輩保護司の相談助言と地域処遇会議(複数の保護司が集まり,処遇や地域活動に関して情報の交換や共有を行うための会議や打合せ会)の割合が7割を超え,次いで,保護観察官の相談助言や保護観察所による研修の充実等となっている。なお,保護司の複数担当制(保護観察事件や生活環境調整事件について,複数の保護司で一件の事件を担当する方法)が平成25年度から推進されているところ(本項(イ)参照),その積極的活用を支援策として挙げる保護司会が3割以上となっている(同図<4>参照)。
保護司の安定的確保が課題となっている中,法務省保護局は保護司制度の基盤整備を図る取組を実施している。
その取組の一つである更生保護サポートセンターは,保護司の活動拠点として平成20年度から整備が始まったものであり,市区町村庁舎内の一室を借り受けるなど公的な建物等に専有の場所を確保し,企画調整保護司(当該保護区の保護司のうち,保護観察所長にその指名を受けた者)が常駐して,センターの管理・運営,関係機関等との連絡調整を行い,保護司会が行う各種活動を企画・実施している。
具体的には,保護観察対象者やその家族との面接,地域処遇会議,新任保護司等を対象とする保護司会が行う研修等に利用され,保護司の処遇活動を支援しているほか,保護司会の事務局としての役割も果たすことで多様な活動を行う保護司の負担軽減に寄与している。また,犯罪予防活動や地域の関係機関・団体等との連携を推進するなど,地域におけるネットワーク構築の拠点としても機能している。
7-2-2-3図は,更生保護サポートセンターの設置数・利用回数の推移(平成20年度以降)を見たものである。設置数・利用回数共に大幅に増加している。更生保護サポートセンターを設置することにより得られるメリットは大きく,保護司会活動の活発化や個々の保護司の負担軽減,不安の解消に寄与するものであることから,今後も更に設置を続けていく方針であり,平成29年度中に42か所増設される予定である。
保護観察事件,生活環境調整事件共に,実施上特に必要な場合には複数の保護司が事件担当として指名されることがあったが,平成25年からは,この複数担当制を保護司支援と結び付け,新任保護司の育成を目的とする先輩保護司との複数指名の活用が推進されている。
平成28年度に,担当保護司の複数指名を新たに行った事件について,保護観察事件・生活環境調整事件別にその理由を見ると,7-2-2-4図のとおりである。保護観察事件,生活環境調整事件共に,経験豊富な保護司との組合せにより,経験の浅い保護司の不安軽減等を目的としたもの(図中の「担当経験」)が半数を超えている。
更生保護女性会及びBBS会は,必要に応じて保護司や他の民間協力者と柔軟に連携しつつ,犯罪や非行をした者の立ち直りに貢献している。
更生保護女性会は,各地の事情に応じ,犯罪予防活動(第2編第5章第5節5項参照)や子育て支援活動を始めとする様々な地域活動のほか,刑務所や少年院が行う行事への参加協力,更生保護施設入所中の者への更生支援活動の実施,社会貢献活動・社会参加活動(第2編第5章第2節2項(5),第3編第2章第5節2項(4)及び本節2項(3)参照)への参加協力など,犯罪や非行をした者を直接援助する活動を行っている。
更生保護女性会の会員数・地区会数の推移(最近10年間)は,7-2-2-5図のとおりである。更生保護女性会の会員数は,平成20年から29年の10年間で約3万人減少している。
BBS会は,非行防止活動とともに,非行少年等に対して「兄」や「姉」のような立場から接し,彼らの「ともだち」になることを通して,その自立や立ち直りを支援する「ともだち活動」を実施しており,具体的には,保護観察所等からの依頼を受け,対象とする少年をBBS会員が個別又は複数で共同して支援に当たっている。また,集団でスポーツやレクリエーション活動を行うグループワーク等を実施しているほか,社会貢献活動・社会参加活動にも協力している。
BBS会の会員数・地区会数の推移(最近10年間)は,7-2-2-6図のとおりである。BBS会の会員数は,平成20年から29年の10年間,若干の増減はあるものの,4,000人台を維持している。
矯正施設の被収容者が抱える様々な問題の解決や,その心情の安定を図る上では,民間の篤志家の協力を得ることが効果的である場合が少なくない。ここでは,矯正施設における民間協力者のうち,篤志面接委員と教誨師について紹介する。
篤志面接委員は,矯正施設の被収容者に対する様々な助言・指導に携わる民間の篤志家であり,被収容者の家庭や職業等の悩み事に対する面接相談,教養や趣味に関する指導,専門的な知見に基づく教育活動等を行っている(第2編第4章第3節3項(1)参照)。篤志面接委員は,法曹関係者,宗教関係者,社会福祉事業関係者,更生保護関係者,学識経験者等の中から,矯正施設の長が推薦し,矯正管区長が委嘱するものであり,任期は2年で更新することができる。篤志面接委員は,矯正施設の職員とは異なる立場から,広い識見と専門性を持って被収容者を理解し,被収容者が自ら問題を直視して解決することを助け,人間的に成長し変容するよう支援している。篤志面接活動の領域は,広範かつ多岐にわたることから,篤志面接委員の元々の職業や専門も多様であり,また,保護司,教誨師,調停委員,民生委員等,篤志面接委員以外の公職に就いている人も多い。
平成28年末現在の矯正施設における篤志面接委員の人員は,7-2-2-7表のとおりである。なお,同年の篤志面接の実施回数は2万541回であり,その内訳は,趣味・教養の指導8,737回,家庭・法律・職業・宗教・保護に関する相談4,836回,悩み事相談4,409回,その他2,559回であった(法務省矯正局の資料による。)。
教誨師は,矯正施設において,被収容者の宗教上の希望に応じ,宗教・宗派の教義に基づいた宗教に関する活動を行う民間の篤志の宗教家である(第2編第4章第3節3項(2)参照)。国の機関である矯正施設が宗教活動を行うことは憲法上許されないが,矯正施設では,被収容者の信教の自由を実質的に保障する観点から,宗教的に中立な立場に立った上で,被収容者が宗教上の儀式行事(宗教家が主宰して行う説教,礼拝,宗教説話等)に参加する機会や,民間の宗教家に依頼して宗教上の教誨(各宗派の宗教家による定期的個人的教化,神父等による告解の儀礼,親族等の忌日において個人的依頼によりなされる読経,説話等)を受ける機会を設けている。活動形態としては,同じ宗教・宗派の宗教教誨を希望する者を集めて行う集合教誨と,個別に行う個人教誨とがある。これらの活動は,被収容者の信教の自由を保障するだけでなく,その精神的救済や心情の安定をもたらすという側面もある。
平成28年末現在の矯正施設における教誨師の人員は,7-2-2-8表のとおりである。なお,同年の宗教上の儀式行事・教誨の実施回数は,集団に対して9,715回,個人に対して7,378回であった(法務省矯正局の資料による。)。