「当社の経営理念は,和を大切にし,人を敬い,人の喜びを自分の喜びとするということです。出所者の更生に役に立ちたいという気持ちは,ここから来ています。」
これは,株式会社信濃路代表取締役社長である西平都紀子氏の言葉である。同社は,そば・うどんを主とした和食から惣菜,カフェ,道の駅の運営管理など,和歌山市内を中心に和歌山県内外で幅広く事業展開をしており,日本財団が主催する職親プロジェクトに参加している職親企業の一つとして,刑務所出所者の雇用に協力している。しかし,同社も刑務所出所者を雇用し始めた当初は,「お客様が怖がるのではないか。」と社内でも賛否両論があった。だが,実際に出所者を雇用し,出所者が一生懸命に働く姿を見る中で,自分たちが出所者を支えていかなければならないというふうに従業員の意識が変わってきたという。刑務所出所後に仕事があるということが,刑務所出所者の更生に欠かせないものであると西平氏は考えている。
しかし,刑務所出所者の更生への道は決して平たんなものではない。同社は,雇用した刑務所出所者が定着せずに離職してしまうケースを今までに何度も経験している。西平氏は,「人間は,どうしても楽な方に逃げてしまう。仕事でつらいことがあっても,逃げずにそのつらいところを辛抱して乗り越えてくれれば,その次があるのにと,いつもそう思っています。」,「自分がここでは本当に必要とされているという気持ちを持てないと定着しません。心のよりどころがないとだめなんですね。出所者の中には,子供の頃に親から愛情を注がれたことのない人もいます。だから,ここでは愛情をもって接するようにしています。」と語る。職親プロジェクトは,こうした刑務所出所者等の更生に深い理解を有し,支援を惜しまない職親企業によって支えられている。
職親企業に就職した刑務所出所者等の離職を防ぐには,出所後の仕事に対する認識を高めておく必要がある。こうした問題意識の下,喜連川社会復帰促進センター(栃木県さくら市にあるPFI手法により運営されている刑務所)において,平成28年に仕事フォーラムが開催された。参加した受刑者は449名,参加企業は2社(建築関係1社・ホテル清掃関係1社)であった。仕事フォーラムでは,職親企業の代表者による講話及び企業情報の提供が行われたが,受刑者は真剣に耳を傾けるとともに,積極的に質問をする姿が多く見られた。参加した受刑者の中からは,「各業種の仕事内容や働いている人などについて具体的にイメージでき,就労に対する漠然とした不安が解消された。」,「講師(職親企業の代表者)の理念・考え方に共感し,仕事に対する姿勢を考える上で役に立った。」などとする意見が見られた。
喜連川社会復帰促進センターの担当者によれば,仕事フォーラムに参加した受刑者の多くは,参加後,就労意欲が大いに高まるだけではなく,仕事フォーラム参加前に抱いていた就労に対する漠然とした不安が,職親企業の代表者の懇切丁寧な説明を受けることにより解消され,より現実的に刑務所出所後の就労について考えることができるようになるという。仕事フォーラムが,刑務所出所者等の職場定着率を高め,刑務所出所者等が安定した就労生活を送るための貴重な情報提供の場として,今後も有効に機能することが期待される。