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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/コラム17

コラム17 明石市による更生支援の取組

兵庫県明石市では,平成28年度から福祉局福祉政策室福祉総務課が中心となり更生支援のモデル事業を開始した。29年度からは同課に更生支援担当の組織を整備し,弁護士,社会福祉士を含む職員7人(法務省からの出向者等2人を含む。)で更生支援の取組を実施している。明石市の更生支援の取組は,<1>つなぐ(関係機関によるネットワークの構築),<2>ささえる(対象者に対する多機関による継続的支援のコーディネート),<3>ひろげる(市民への理解促進)の三つを柱としている。

<1> 明石市更生支援ネットワーク会議 〜つなぐ〜

明石市更生支援ネットワーク会議は,刑事司法,福祉,医療,就労等様々な分野において更生支援に関わる国,地方公共団体及び民間の35の関係機関・団体で構成される。ネットワークの構築に携わった同市福祉政策室障害者・高齢者支援担当課長(弁護士)は,地域の関係機関・団体において更生支援に対する理解や反応が様々な中で,それらを一つ一つ訪問し,明石市の更生支援の取組やネットワークの趣旨を丁寧に説明して,協力を求めたという。同会議では,各機関・団体の概要説明に始まり,明石市の更生支援コーディネートモデル事業やその支援事例の説明,情報交換等を行っている。同課長によれば,今後は,このネットワーク会議を軸に,更生支援コーディネートモデル事業において被疑者・被告人に対する支援(いわゆる入口支援)や刑務所出所者等に対する支援(いわゆる出口支援)など支援のテーマに応じて,ネットワーク会議構成機関・団体のうち,それぞれのテーマに深く関わる機関・団体と協議するなど,相互の連携を更に深め,取組を強化したいという。

<2> 更生支援コーディネートモデル事業 〜ささえる〜

更生支援コーディネートモデル事業は,知的障害が疑われる者又は判断能力の低下が疑われる高齢者のうち,罪名が窃盗(万引き)などの比較的軽微な犯罪で,明石市に帰住する者等を対象としている。同事業による支援は,検察庁,弁護人,地域生活定着支援センター等からの相談を端緒に開始され,平成28年の相談件数は13件で,支援種別による内訳は,いわゆる入口支援が10件,いわゆる出口支援が3件であった。

明石市では,相談があった場合,更生支援担当弁護士と社会福祉士が対象者である被疑者・被告人,受刑者等と面談し,必要なアセスメントとこれに基づく医療,福祉等の支援のほか,就労支援や住居の確保,法定後見制度の活用等,対象者が明石市で生活するために必要な支援のコーディネートを行う。

平成28年度のモデル事業を振り返り,同課長は,対象者が何十年もの時間をかけて築き上げた生活習慣を福祉で急に変えるのは容易でなく,試行錯誤しながら支援をしてきたので,地域生活への定着までには不安が残るケースも多いが,地域で安定した生活をしている対象者も出てきているという。

同事業では,明石警察署に対し,知的障害者や認知症の疑いのある高齢者で窃盗をした者を微罪処分等で帰宅させる場合,その者の身元引受人等に同事業のチラシを配付するよう協力を要請し,明石市の福祉や法律の専門家に相談ができるよう同事業の窓口を周知し,再犯の防止にも努めている。

一方,同市福祉政策室更生支援担当課長(弁護士)は,警察,検察庁,刑事施設等において明石市の更生支援の取組への理解や配慮はあるものの,面会時間の制限や遮へい板のある面会室の構造等により必要なアセスメントが十分にできないことがあるなど課題もあると指摘している。

<3> あかし更生支援フェア等 〜ひろげる〜

明石市では,更生支援の取組に対する市民の理解と協力を促し,支援の輪を広げるため,「あかし更生支援フェア」を実施している。同フェアでは,罪を犯した障害者・認知症高齢者に対する支援,軽度知的障害者や高齢の生活困窮者の再犯防止(平成28年度),罪に問われた知的障害者・認知症高齢者の社会復帰に向けた支援(29年度)をテーマとしたフォーラムのほか,神戸刑務所ミニ矯正展や広報活動等を実施している。

同市福祉政策室障害者・高齢者支援担当課長によると,市の福祉関係部署職員,地域包括支援センター職員,ケアマネージャー,相談支援専門員等は,更生支援コーディネートモデル事業が始まる前から,刑務所出所者や罪を犯しても逮捕されるに至らない人等の支援事例を扱うこともあったので,同フォーラムへの関心も高いという。

また,明石市では,広報紙「広報あかし」で更生支援の特集を組むなどし,更生支援コーディネートモデル事業で対象者の地域生活のために必要な支援を行うことにより,犯罪を防止し,誰もが安心して暮らせるまちづくりを進めることができることについて,市民の理解を得るよう努め,支援に対する協力を促している。

これらの明石市の取組については,法務省も協力・連携しており,再犯の防止に向けた取組を一層進めるとともに,このような地方公共団体における関係機関と連携した取組が全国に広がることに期待を寄せている。

明石市のような取組が広がっていく上での課題について,同課長は,更生支援のコーディネートは,刑事司法や支援技法に関する専門性が要求される場面が多く,そうした点を理解した職員がいなければ難しいという。特に,いわゆる入口支援では,刑事司法手続の短い期間内で調整を迅速に進める必要があるほか,支援を拒否する人への対応など,支援が難しい事例も多くあり,刑事司法制度やその手続,犯罪に至る者が有する特徴的な支援ニーズ等についての地方公共団体職員の理解が重要であると指摘している。

明石市役所の外観【写真提供:明石市】
明石市役所の外観
【写真提供:明石市】