今回の特別調査の対象者の初回の性非行・性犯罪時の年齢を見ると,29歳以下の者の割合が約5割であり,特に複数回の性犯罪前科のある者では,その割合が約7割を占める(6-4-3-4図CD-ROM,6-4-5-4図CD-ROM参照)。また,近年,少年による強制わいせつの検挙人員,少年鑑別所被収容者人員,少年院入院者人員,保護観察開始人員は,それぞれ高止まり又は増加傾向にあり,入所受刑者のうち,29歳以下の者の人員についても,強姦では横ばい,強制わいせつでは増加傾向にある(6-2-1-8図,6-2-4-2図,6-2-4-10図,6-2-4-12図,6-2-5-3図参照)。さらに,強姦,強制わいせつ共に,入所受刑者総数と比べて初入者の割合は高い(6-2-4-3図参照)。
少年,若年者,初入者が再犯の連鎖に陥ることを早期に防ぐためには,集中的な指導及び支援を行うことが重要であり,矯正,更生保護の段階においては,個々の対象者について,保護処分歴・前科,生活環境,交友関係,心身の状況や社会復帰上必要な技能や知識等を的確に把握した上で,必要な支援及び指導を行っている。性犯罪者に対しても,それらの指導等を引き続き行うとともに,可塑性のある少年等の時期に,性非行・性犯罪に結びつく偏りのある認知の修正を図るなど,それぞれの問題性に応じた働き掛けが必要である。
少年に対する処遇プログラムの充実を図るためには,適切な受講対象者の選定が必要となる。従来から,少年鑑別所では,性非行に結びつく要因を分析し,有効な処遇指針を策定するため,通常の面接に加えて,知能検査,各種心理検査,精神科診察等を必要に応じて組み合わせるなど,精密な鑑別を実施してきたところ,平成27年6月からは,性非行に係る再非行の可能性及び教育上の必要性を定量的に把握するためのツールである法務省式ケースアセスメントツール(性非行)(MJCA(S))を導入し,本件非行が性非行である男子に対して実施しており,少年院における指導プログラムの対象者選定の手続面での充実化が図られている。今後は,ケースの蓄積によって同ツールに関する検証が進み,更なる精度の向上が図られることによって,性非行防止指導の効果の向上が期待される。
また,少年による強制わいせつの検挙人員が増加傾向にあること(6-2-1-8図参照)や,強制わいせつの少年の3割強が保護観察に付されること(6-2-4-11図<2>参照)などを踏まえると,仮釈放者や保護観察付執行猶予者に対する再犯防止に一定の効果を上げていることが示唆された性犯罪者処遇プログラム(本編第3章第2節2項(4)参照)について,少年の保護観察対象者に対してもその知見や技法を活用することが望まれる。全国の少年院において,平成27年6月から性非行防止指導が実施されており(第3編第2章第4節2項(2)ア,本編第3章第1節2項参照),これに引き続き,性非行のある少年院仮退院者に対して,社会内においてもその内容を踏まえた指導を実施することは,より一層処遇の効果を高めるものと期待される。
強姦,強制わいせつの保護観察開始人員の居住状況を見ると,いずれの種別においても,両親と同居の者の割合は,保護観察開始人員の総数と比べて高い(6-2-5-6図参照)ことから,これらの者の立ち直りには,家族の支援が重要な要素となる。少年院や保護観察所においては,保護者会や家族プログラム等(第3編第2章第4節2項(3),同章第5節2項(6),本編第3章第2節2項(1)参照)を通じて,また,若年の受刑者を収容する少年刑務所においても,保護者会や各種行事への保護者の参加等を通じて,保護者への働き掛けを積極的に行っている。これらの機会を通して,家族関係の問題を調整したり,矯正施設・保護観察所の担当者と保護者や引受人との間で対象者の問題性や必要な支援内容等を共有したり,矯正施設・保護観察所が保有している更生のために活用できる関係機関の情報を提供したりするなどして,家族の更生支援機能を高めることが重要である。
強姦,強制わいせつの入所受刑者では,初入者の占める割合が一貫して高く(6-2-4-3図参照),初入者では,保護処分歴のない者が約9割を占めている(6-2-6-8図参照)。また,今回の特別調査における受刑者の刑期について,参考までに平成26年の入所受刑者総数と比べると,刑期の長い者の割合が高い(2-4-1-7図,本編第4章第2節1項(2)イ参照)。強姦,強制わいせつの初入者の処遇に当たっては,他の罪名の受刑者とは異なる基本的属性や生活環境等の特徴を踏まえるとともに,比較的長期間の受刑中に予測される生活環境の変化等も視野に入れた計画的かつきめ細かい処遇を行う必要がある。例えば,処遇プログラムを含め各種指導の実施時期や刑期に見合ったその後の継続的な指導等について考慮する必要もあると考える。
今回の特別調査から,痴漢行為により懲役刑の実刑に処せられた者の大多数は,それまでに痴漢行為で複数回の罰金,執行猶予の処分を受けているにもかかわらず痴漢行為を繰り返していることが明らかになった(6-4-3-4図<3>,6-4-5-9図参照)。また,痴漢型は,他の類型と比べて,再犯率が高く(6-4-4-3図参照),短期間のうちに再犯に及ぶ傾向にある(6-4-4-5図参照)。さらに,再犯率を詳しく見ると,出所受刑者で最も高く,次いで保護観察付執行猶予者,単純執行猶予者の順(6-4-4-4図参照)であり,懲役刑の受刑に至るまでに犯罪傾向が進んでいる者が少なくないことが明らかになった。
これらの状況から,痴漢事犯者の再犯防止のためには,痴漢行為が常習化する前のより早い段階において,痴漢行為に及ぶ問題性に働き掛けることが重要である。痴漢型の初回の性非行・性犯罪時の年齢は,29歳以下の者が4割強を占めている。また,保護処分歴のある者の割合も低い。可塑性のある少年,若年の時期に痴漢行為に及んだ者に対しては,常習化に至る前に,痴漢行為やその刑罰に対する安易な受け止め方の修正を図るとともに,痴漢行為に及ぶ自己の問題性を見つめさせるような機会を設け,さらにその問題性等に特化した働き掛けを集中的に行うことが必要である。
痴漢事犯を含めて保護観察付執行猶予者に対しては,保護観察所において,概ね2週間に1回,全5課程の性犯罪者処遇プログラム(コア・プログラム)を実施している(本編第3章第2節2項参照)。 今回の特別調査から,痴漢型の保護観察付執行猶予者のうち3割強が痴漢等の条例違反の再犯に至っていること(6-4-4-4図<2>参照),性犯罪再犯に及んだ者のうち,痴漢型の再犯期間は, 他の類型に比べて短いこと(6-4-4-5図参照), 執行猶予の区分別の全再犯の累積再犯率を見ると,調査対象事件の裁判確定から5年が経過した時点では,保護観察付執行猶予者の累積再犯率が単純執行猶予者のそれと比べて8.2pt高いものの,裁判確定日から3か月未満までは,保護観察付執行猶予者の方が単純執行猶予者よりもわずかながら低いこと(6-4-4-6図<1>CD-ROM参照)などが明らかになった。これらの状況から,コア・プログラムの受講修了後も,性犯罪者の特性を踏まえた継続的な働き掛けを充実していくことが重要と考えられる。
また,平成24年に,法務省矯正局が公表した「刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析」の中で,迷惑行為防止条例違反者に対する処遇プログラムは,明確な効果を確認するまでに至らなかったこと(本編第3章第1節1項(3)参照),今後,我が国において痴漢事犯者に効果があるプログラムを独自に開発していく必要性があることが言及された。その後,その刑期の短さに対応したプログラムの開発を進めていく中で,痴漢事犯者に対する処遇に当たり,特別な配慮等の有無や本来受講させるべき密度のプログラムを短縮して実施することの有効性等について検討されているが,今回の特別調査の結果からも明らかになった痴漢事犯者の再犯率の高さ等も踏まえて,よりその問題性に焦点を当てた指導の実施方法等について検討されることが望まれる。