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平成27年版 犯罪白書 第6編/第5章/第3節/2

2 性犯罪者特有の問題性に対する効果的な処遇
(1)処遇プログラム
ア 受講対象者への幅広い実施と継続的な働き掛け

刑事施設では,スクリーニング及び性犯罪者調査の結果,性犯罪再犯防止指導の受講の必要性があると判断された対象者であっても,刑期の問題等から,現状においては,全ての対象者に必ずしも実施できている状況にはない。同様に,保護観察所でも,仮釈放後の保護観察期間が短いため,コア・プログラムの受講期間を確保できない者もいる。これらの問題は,直ちに解消できるものではないが,性犯罪者の特性を踏まえた指導をより幅広く実施できる体制を築くことが望まれる。

加えて,強姦の出所受刑者は,出所受刑者総数と比べて,出所後相当の期間を経過してから再犯に及ぶ者の割合が高い(4-1-3-4図6-2-6-9図参照)ことから,より長期間かつ継続的な働き掛けが必要になる。特に,強姦の保護観察付執行猶予者の保護観察期間は,4年を超える者の割合が高い(6-2-5-5図参照)ことから,コア・プログラムの修了から引き続き性犯罪者の生活実態把握と指導を行う指導強化プログラムの一層の充実を図るなど,性犯罪者の特性を踏まえた指導を継続していくことが重要であろう。

イ 実施者の育成

処遇プログラムの効果を上げるためには,適切な受講対象者の選定や再犯防止について実証的な裏付けのある処遇プログラムの内容のほかに,実施者の技術が重要であるとされる。実施者には,性犯罪者の特性や問題性についての正確な知識や理解,指導技法等の習得が求められる。具体的には,指導場面において,受講対象者に処遇プログラムの受講への動機付けを高めるほか,集団によるプログラムでは受講対象者同士の対話を促進し,各受講対象者の更生に向けた意欲を喚起する雰囲気を醸成するなど,適時適切に介入する技術が求められる。そのため,矯正施設及び保護観察所においては,これまでも実施者の育成のために,集合研修の実施,研修教材等の作成,事例研究会の開催,外部専門家によるスーパービジョン体制の確立等を通して充実化を図ってきている(本編第3章第1節1項(4)同章第2節2項(3)参照)が,引き続き,実施者の技術の向上を図ることが望まれる。

(2)問題性に応じた働き掛け

今回の特別調査の結果から明らかになったように,性犯罪者特有の問題性といっても様々であることから,それらの問題性に応じた働き掛けを行うことが,性犯罪者に対する効果的な処遇につながると考えられる。具体的には,以下のような点に留意すべきであろう。

まず,強制わいせつ型に類型化された者については,強姦に近い犯行を繰り返す傾向を有する者と条例違反に近い犯行を繰り返す傾向を有する者等がいる。また,罪名が強制わいせつであっても,その犯行態様を見ると,悪質性や計画性等は様々である。そのため,その者の本件の犯行態様のみならず,性犯罪前科の内容や他の罪名による前科の内容等を踏まえ,処遇の在り方を検討することが必要である。

また,小児わいせつ型に類型化された者は,他の類型の者と比べて,同一類型の性犯罪を繰り返す者の割合が高いという問題性が浮き彫りとなった(6-4-5-8図本編第4章第4節2項(1)ウ参照)が,平成24年に公表された矯正局の処遇効果検証の課題として,逸脱した性的関心等へのより効果的な介入の在り方が挙げられている(本編第3章第1節1項(3)参照)ことも踏まえると,今後は,小児わいせつを繰り返す者の個々の特性等を詳細に見ることによって,それらの特性等に応じた働き掛けを行うことが重要である。

(3)効果的な処遇に資する実証研究の推進

今回の特別調査では,約1,500人の性犯罪者を対象として,執行猶予者は5年,出所受刑者は平均約3年を再犯可能期間として,その間における再犯の有無,再犯の内容等を調査するとともに,それぞれについて,要因ごとに再犯との関連性について分析した。出所受刑者について,再犯可能期間を十分に確保できなかったなどの限界はあったものの,要因ごとの再犯との関連性について一定の目安を示したことは意義があったと考える。また,今後,運用が予定されている刑事情報連携データベースの利活用により,性犯罪の再犯要因や処遇プログラムの効果等を検討するに当たって,大規模な調査研究を効率的に行うことが可能となるであろう。それらの再犯要因等に関する実証研究を重ね,受講対象者の選定基準の妥当性について検証することを繰り返すことで,その精度の一層の向上が見込まれ,このことは性犯罪者に対する効果的な処遇にも資すると考えられる。