平成27年,法務省と厚生労働省は共同で「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」(第2編第5章第2節2項(2)エ参照。以下「地域連携ガイドライン」という。)を策定し,薬物依存者のうち保護観察付全部執行猶予者,保護観察付一部執行猶予者及び仮釈放者を支援対象者として,都道府県や医療機関等を含めた関係機関や民間支援団体が緊密に連携し,その機能や役割に応じた支援を効果的に実施できるよう基本的な指針を定め,28年度から運用を開始した。
薬物依存者の社会復帰を促進するためには,関係機関や団体が緊密に連携してその社会復帰を支援していく必要があり,「「世界一安全な日本」創造戦略」(第5編第1章1項参照)等においてもそのような方針が示されていたが,関係機関や団体の間の連携は必ずしも十分とは言い難い状況にあり,平成28年から,刑の一部執行猶予制度(第2編第1章5項参照)が開始され,薬物依存のある刑務所出所者等に対する処遇の充実が求められることにも鑑み,関係機関,民間支援団体との連携体制をより緊密にするための対策として地域連携ガイドラインが策定された。
地域連携ガイドラインを踏まえた支援の流れは,7-3-1-1図のとおりである。
地域連携ガイドラインは,地域支援の充実を目指し,保護観察所,刑事施設,都道府県等の地方公共団体,保健所,薬物依存者に対する医療的支援を行う医療機関等のほか,精神保健福祉法により都道府県・政令指定都市に設置されている精神保健福祉センターについてもその役割を明らかにしている。精神保健福祉センターには,平成29年度から依存症相談員が配置されるなどして支援体制の整備が図られており,地域における連携推進の中核的役割を果たすことを始め,保護観察所と連携して支援対象者が保護観察期間終了後も引き続き支援が受けられるよう調整を行うこと等が求められている。
医療機関及び精神保健福祉センター等の支援を受けた保護観察対象者人員の推移(最近3年間)は,7-3-1-2図のとおりである。
厚生労働省は,依存症についての知見を集積し,治療・回復プログラムや支援ガイドラインの開発等に寄与するため,平成26年度から3年間のモデル事業として「依存症治療拠点機関設置運営事業」を実施した。このモデル事業では,全国拠点機関が1か所指定されるとともに,依存症治療を行っている精神科医療機関5か所が依存症治療拠点機関として都道府県の指定を受け,専門的な治療,関係機関や依存症者の家族との連携・調整等を行った。29年度からは,「依存症専門医療機関」(仮称)として全国67か所が指定され支援体制の整備が進められている。
地域連携ガイドラインでは,刑事施設の役割として,入所中の薬物依存者に対し,薬物依存からの回復に向けたプログラムの受講等の働き掛けを行うとともに,社会資源に関する情報を提供することとされている。
刑事施設で実施されている薬物依存離脱指導(第2編第4章第2節3項(2)参照)は, 薬物依存の認識及び薬物使用に係る自分の問題を理解させた上で,断薬に向けた動機付けを図り,再使用に陥らないための知識や実践的なスキルを習得させるとともに,社会内においても継続的に薬物依存からの回復に向けた治療及び援助を受ける必要性を認識させることを目的としているところ,同指導においては,社会内で断薬を継続するための支援を行っている専門機関についての情報を提供するとともに,民間自助団体の活動を全受講者に紹介し,その内容について理解させるようにしている。そこで,平成28年度における同指導実施施設(76庁)では,グループワーク等の実施に当たり,ダルク等の民間自助団体の協力を得ている。
また,地域連携ガイドラインには,保護観察所の役割として,生活環境の調整(第2編第5章第1節2項参照)等のほか,保護観察期間中の支援対象者に専門的処遇プログラムを行うことが挙げられているところ,平成28年度から,従前の「覚せい剤事犯者処遇プログラム」の内容を充実・強化した薬物再乱用防止プログラムが実施されている(第2編第5章第2節2項(2)ウ参照)。
さらに,地域連携ガイドラインでは,地域の関係機関や民間支援団体が実施する薬物依存からの回復に向けた支援に支援対象者をつなげることも,保護観察所の役割の一つとされている。
平成24年度から,保護観察所が,薬物依存の問題を抱える保護観察対象者等の社会適応に必要な生活指導を民間の薬物依存症リハビリテーション施設等に委託して実施する,薬物依存回復訓練(第2編第5章第2節2項(2)エ参照)が導入された。訓練を受ける者は,委託を受けた民間の薬物依存症リハビリテーション施設等において,自助活動の有効性をいかしたグループミーティングや薬物依存からの回復プログラムに参加する。
7-3-1-3図は,薬物依存回復訓練について,民間の薬物依存症リハビリテーション施設等に委託を実施した人員の推移(最近5年間)を示したものである。平成28年度の実施人員は,24年度に比べて56.5%増加している(CD-ROM参照)。
保護観察対象者等に住居を提供し,改善更生に向けた処遇を実施している更生保護施設(第2編第5章第5節2項参照)は,地域連携ガイドラインにおいて民間支援団体の一つとして位置付けられている。
7-3-1-4図は,覚せい剤取締法違反で保護観察を受けた者のうち,保護観察が開始された時点で更生保護施設を住居とした人員の推移(最近10年間)を見たものである。その人員は最近10年間で大幅に増加している。なお,平成28年の人員1,046人のうち,99.3%は仮釈放者であった(法務省大臣官房司法法制部の資料による。)。
平成25年度から,更生保護施設における薬物事犯者に対する処遇の充実を図るため,一部の更生保護施設を薬物処遇重点実施更生保護施設(第2編第5章第5節2項参照)に指定し,薬物専門職員と呼ぶ専門スタッフを配置して,薬物依存がある保護観察対象者等への重点的な処遇を行う取組が実施されている。薬物処遇重点実施更生保護施設の数は,同年度の5施設から28年度には25施設に拡大されている。
地域連携ガイドラインで示されている,保護観察終了後の支援への引継ぎを,重点施設である更生保護施設近隣の地域社会資源を通所利用するという形で実現している事例がある。