前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

平成29年版 犯罪白書 第7編/第2章/第2節/コラム9

コラム9 地域とつながり 地域につなげる〜少年鑑別所の地域援助から〜

東京少年鑑別所では,「地域非行防止調整官」を置いて地域援助の充実を図っており,非行や犯罪等の問題行動に関する相談に幅広く応じているほか,地域の学校や自治体の要請を受けて,子供との関わり方等のテーマで,教師やPTA,地域住民に向けた講演を行っている。また,児童福祉法に基づき設置された要保護児童対策地域協議会等の関係機関による地域のネットワークに参画し,地域の子供・若者支援への協力や,個別の事例に関する助言等を行ったり,東京地方検察庁社会復帰支援室の依頼を受け,その支援対象者である被疑者等の問題を把握し適切な支援を行うための資料として知能検査を実施するなど,関係機関と連携しながら積極的に地域援助に取り組んでいる。

地域援助シンボルマーク
地域援助シンボルマーク

なかでも,非行や犯罪等の問題を抱えた少年や保護者等からの相談に応じる活動は,全国的に見ても実施件数が多く,同所の地域援助の中心となっている。中学生の娘が万引きをしているようだが,生活態度を注意すると暴言を吐いたり物を投げたりするので対応に困っているとして母親が相談に訪れたケースでは,同所の心理技官が,専門家の視点から,万引きや家庭内暴力の背景にある心理についての分析を伝えるとともに,娘が万引きをしていると決め付けず,まずは娘に事情を確認すること,娘を叱るだけでなく,娘ができていることにも目を向けて褒めるようにすることなど,今後の対応について具体的に提案することで,母親が娘と向き合う機会を取り戻したという。また,息子の盗みについて母親から相談があったケースでは,半年にわたって相談への対応を続け,息子への接し方等について助言を行う中で家族関係が好転し,息子の盗みも収まったという。

相談業務はこうした成功例ばかりではなく,相談者が約束の時間に現れず,そのまま連絡が途絶えて気をもむことも多いというが,地域援助を担当する同所職員は,子供の非行について思い詰めた様子で相談に来た保護者の悩みを受け止め,今後の関わり方について助言をするうちに,明るい表情を取り戻した保護者が「もう少し頑張ってみます。」と言って相談室を後にする姿を見ると,少しでも役に立つことができたと感じ,やりがいが持てるという。一方で,少年鑑別所の職員は非行や犯罪の専門家として鑑別業務等に従事してきた者ではあっても,相談業務は鑑別業務とは勝手が違うことも多いことから,カウンセリングを専門とする大学教授等の外部の専門家から助言を受けるなどして,相談業務の質の向上を図っている。また,医療機関や教育機関と連携した支援が必要な事例も多く,地域の関係機関がそれぞれの強みをいかして支援に当たることができるようなネットワーク作りが重要であるという。

地域援助が開始されてから,全国の少年鑑別所ではそれぞれの地域に応じた特色のある支援を模索しており,一部の少年鑑別所では,警察と協定を締結し,警察が立ち直りを支援している非行少年に対して心理検査等を実施する取組や,地域の学校や教育関係機関から依頼を受け,問題行動のある生徒に対する指導に関して教師等に助言を行う取組も始まっている。今後,少年鑑別所の専門性と地域のニーズが合致した有効な地域援助が展開され,少年鑑別所が地域の非行・犯罪の防止に向けて一層貢献していくことが期待される。

講演風景【写真提供:東京少年鑑別所】
講演風景
【写真提供:東京少年鑑別所】