岡山県では,地域連携ガイドラインが制定される前から,岡山保護観察所と岡山県精神科医療センター(平成26年度から依存症治療拠点機関に指定)が連携して,薬物依存者の回復と地域社会への定着を促進する取組を行っている。その特色は,薬物依存者に関し,刑事施設収容中からケア会議等を開始し,出所後の保護観察期間中はもちろん,保護観察終了後にも地域での治療や支援につながるよう,シームレスな支援態勢を両者の連携によって実現していることである。
連携の流れは,まず保護観察官が刑事施設に出向き,収容中の薬物事犯者と面接し,岡山県精神科医療センターで実施している薬物依存からの回復プログラム等の治療の概要を説明した上で,釈放後の同センターでの受診の意思と,そのために必要な同センターへの個人情報提供についての意思を確認する。その後,両方に同意した者を対象に,同センターと同保護観察所でケア会議を実施するなどして,出所後速やかに受診ができるように調整する。出所後もケア会議の開催等を通じて対象者に係る情報を共有し,同保護観察所の指導及び同センターでの治療に活用する(平成28年8月からは,刑の一部執行猶予制度の導入に伴う出所前調整の手続の整備により,刑事施設に出向く役割は地方更生保護委員会所属の保護観察官が務めている。)。
同保護観察所の担当官によると,薬物依存症の治療については,初診までに通常一定の期間を要するため,刑事施設を出所してから受診を申し込むのでは保護観察期間中に地域の医療につながることができない者が多いところ,同センターと連携し,前もって調整することで,出所後間を置かずに受診できるようになり,保護観察期間中に,医療情報を適時適切に処遇に反映させられるようになった。
一方,同センターの担当者も,本連携について三つの意義を挙げている。一点目は,刑事施設収容中にあらかじめ対象者の情報提供を受けることで準備ができ,出所後の診察と治療が円滑になったこと。二点目は,本連携以前は地域での支援につながらないまま薬物の再使用に至っていたような刑務所出所者が,保護観察官による事前面接や保護観察中の薬物再乱用防止プログラムの受講によって,治療につながるようになったこと。三点目は,本連携を通して,薬物依存症からの回復支援に向けた保護観察所と医療機関の社会的な役割について,相互理解が深まったことである。
両者の連携の下に対処した事例を,一つ紹介する。
仮釈放で刑事施設を出所した後,速やかに同センターで受診することができた40歳代の男性対象者は,初診から2週間ごとに通院し,医師の診察を受け,作業療法士による依存症プログラムに参加し,同保護観察所にも定期的に出頭し,簡易薬物検出検査を受けていた。
対象者は,出所から数か月後,強い不安に襲われて,担当の保護観察官に電話をかけ,保護観察官が対象者を落ち着かせてよく話を聞いたところ,対象者が処方された薬をきちんと飲んでいないことが分かり,保護観察官は対象者に早急な受診を促すとともに,同センターに相談し,翌日の診察を手配した。
対象者は,翌日同センターで診察を受けて処方薬の服用を再開したことをきっかけに心身の安定を取り戻し,今後も同センターへの通院を続けると述べて,保護観察を終えた。対象者は,「勇気を持って信頼できる人に相談することが,一番の歯止めになることが分かった。」と,これまでの支援を前向きに捉えていたという。