第2章の動向及び第4章の特別調査から,万引きの検挙人員の約4割が微罪処分により処理されていること(6-2-1-11図P218参照),万引き事犯者が大半を占める罰金処分者(6-4-3-1-13図P278参照)のうち窃盗の前科前歴のない者ほど再犯率が低いこと(6-4-3-2-4図P284参照),窃盗の仮釈放者では,他の罪名と比較して,取消・再処分率が高く,窃盗の保護観察付執行猶予者については,覚せい剤取締法違反に次いで,取消・再処分率が高いこと(6-2-6-8図P249参照),前科のない男子の万引き事犯者のうち,少年時に前歴のある者は,成人後の前歴しかない者に比べ再犯率が高いこと(6-4-4-2-5図P299参照),窃盗の保護観察処分少年,少年院仮退院者は,他の罪名と比較して,取消・再処分率が高いこと(6-2-6-8図P249参照)などが明らかになった。また,万引き事犯者については,微罪処分や起訴猶予処分を受けた後に,再犯に及ばなくなる者も少なくないと思われるが,再犯を繰り返して起訴され,更には受刑に至る者も相当数に及んでいる(6-2-1-11図P218,6-2-3-2図P227,6-2-5-7図P237参照)。したがって,万引き事犯者は,初めて刑務所に服役する時点において,既に窃盗を何度も繰り返して数回にわたり検挙されている者が多く,規範意識の鈍麻や窃盗に対する親和性,本人を取り巻く生活環境(家族関係,職場関係等)の悪化や窃盗を繰り返す自身に対する自己評価の低下等が認められる者が多いと考えられる。また,窃盗については,窃盗再入者の再犯期間は窃盗以外の再入者と比較して短いこと(6-2-5-9図P238参照),2年以内の累積再入率が窃盗以外と比べて高いこと(6-2-5-11図CD-ROM参照)などが明らかになった。
窃盗のこれらの特徴を踏まえた場合,その再犯防止のためには,犯罪傾向が進んでいない早い時期に,窃盗に至る問題性に対して何らかの働き掛けが必要であると考えられるが,窃盗事犯者が高齢化する中で,高齢者の資質や特性からその問題性の改善や社会復帰に係る指導等が一層困難になっている実情がある。具体的には,窃盗の保護観察付執行猶予者の保護観察開始人員における高齢者の割合が男女共に上昇傾向にあり,入所受刑者においても,高齢者の割合が上昇傾向にあり,その割合は再入者の方が初入者よりも高いが,初入者における高齢者の割合は,再入者における割合と比べても男女共に大きく上昇しているなど,矯正・更生保護の段階における高齢化が進行している(本編第2章第7節3項P251参照)ため,従来からの再犯防止対策の一つである就労の確保を通して窃盗事犯者の立ち直りを推進することは困難となっている。加えて,これらの段階の高齢者は,窃盗を何度も繰り返し犯罪傾向が進んでいる者が少なくなく,指導内容や指導技法等を含めた指導の在り方もより困難なものとなっている。そこで,窃盗事犯者については,犯罪傾向の進んでいないより初期の段階において,適切な指導や処遇を行うことが,極めて重要である。したがって,現在行われている更生緊急保護の事前調整の試行のような再犯防止に資する取組がより一層充実したものとなることが望まれる(第2編第5章第3節P85,本編第3章第3節1項(1)事例1P258参照)。
また,可塑性に富んだ少年による万引きに対しては,早期に非行の芽を摘むという観点から,初発非行の段階において,見過ごしたり,微温的な対応で処理したりすることなく,少年と真摯に向き合い,少年の保護者,教育機関,児童相談所,地域のボランティア団体等が連携し,少年が万引きをするに至った背景事情等を突き止め,その問題性を解消する努力をする必要がある。そのためには,少年鑑別所における一般少年鑑別等(第3編第2章第3節2項(2)ウP123参照)を活用することも有効であろう。