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平成26年版 犯罪白書 第6編/第3章/第3節/1

1 窃盗事犯者の問題性に対応した施策・処遇
(1)生活困窮者に対する施策・処遇

窃盗事犯の保護観察対象者等には,住居や就労先を失い生活に困窮して窃盗に及んだ者が少なくない。このような者に対しては,就労支援や住居確保・定住支援を行うなど,その者の生活基盤に焦点を当てた処遇を行っている。

具体的には,窃盗事犯者のこれまでの生活状況から考えて,安定した仕事に就くことが再犯防止上特に必要であると判断された者に対しては,例えば,「就職活動を行い,又は仕事をすること」といった特別遵守事項が設定される場合がある。その上で,刑務所出所者等総合的就労支援対策や更生保護就労支援事業などを通して就労支援を実施し(第2編第5章第2節2項(4)P81参照),また,更生保護施設や自立準備ホームへ委託するなどして,住居確保・定住支援を行っている(第2編第5章第5節2項3項P87〜88参照)。

更生保護施設においては,在所者の自立更生を促進するために,就労支援に特に重点を置いており,日々の生活全般を通して就労に関する指導・支援を行っているほか,「就労支援講座」が,平成25年度は20施設で実施された(法務省保護局の資料による。)。また,生活技能訓練(SST)の中で,就職面接の受け方,職場で休暇を願い出る方法等をテーマに取り上げるなどの工夫がされている。

以下では,更生緊急保護事前調整の試行(第2編第5章第3節P85参照)事例を紹介する。なお,事例の内容は,個人の特定ができないようにする限度で修正を加えている。

事例1 更生緊急保護事前調整の試行により,住居確保を行った事例

A男(40歳代)は,住み込み就職先を解雇されて住居と就労先を失い,空腹に耐えかねて食料品を万引きして逮捕された。更生緊急保護事前調整の試行事案として,検察庁の検察官から依頼を受けた保護観察所において調整することとなった。

保護観察所では,検察官と協議した後,保護観察官及び社会復帰調整官が,A男の勾留されている警察署へ赴いて面談した。保護観察官が,これまでの生活歴や今後の生活計画等を聴取し,また,社会復帰調整官の知見を積極的に活用して再犯リスク要因や釈放後の福祉サービスの要否等も検討し,それらの結果を検察官へ報告した。

A男は,起訴猶予により釈放され,保護観察所へ更生緊急保護の申出をした。A男が住居に関する支援を希望したため,保護観察所では,管内の自立準備ホームへ委託した。A男は,その後同ホームで就職活動を行いながら落ち着いた生活を送っていたが,以前の職場仲間に偶然出会い,金の無心をされるようになった。同ホームのスタッフから連絡を受けた保護観察所では,A男と面談し,A男が地元を離れて県外で仕事に就きたい旨の希望を述べたため,県外の保護観察所と協議して,同保護観察所管内の更生保護施設に居住できるように調整した。

(2)ギャンブル・浪費の問題を有する者に対する処遇

窃盗事犯の保護観察対象者等には,就労により一定の収入を得ることができても,収入を超えて遊興費やギャンブルに費消し,安易に借金を重ねた末に,窃盗に及ぶ者が少なくない。このような者に対しては,金銭管理指導やギャンブル離脱指導等の処遇を行っている。

具体的には,保護観察対象者に定められている一般遵守事項の一つである「保護観察官又は保護司から,(略)収入又は支出の状況(略)を明らかにするよう求められたときは,これに応じ,その事実を申告し,又はこれに関する資料を提示すること」に基づき,収入・支出額,借金額等を聴取したり,給与明細書の提示を求めたりする場合がある。これまでの生活状況から考えて,ギャンブル依存から離脱することが再犯防止上特に必要であると判断された者に対しては,例えば,「パチンコ店やスロット店に出入りしないこと」,「競馬場,競輪場,競艇場などのギャンブルが行われる場所に出入りしないこと」といった特別遵守事項が設定される場合がある。

また,更生保護施設においては,外部協力者を招いた「ギャンブル離脱プログラム」が,平成25年度は3施設で実施された(法務省保護局の資料による。)。

以下では,金銭管理に関する指導を重点的に実施している更生保護施設の事例を紹介する。

事例2 生活技能訓練(SST)などを通して,金銭管理に関する指導を重点的に実施している更生保護施設の例【更生保護施設 草牟田(そうむた)寮(鹿児島県)】

草牟田寮は,明治32年6月に発足した男子20人定員の更生保護施設である。平成21年に指定更生保護施設に指定され,それを踏まえ,罪名にとらわれることなく積極的な受入れの調整を行っており,年間収容保護率は,近年,高い水準を維持している。

同施設では,在所者に対して「草牟田寮のきまり」を守るように指導しており,その中に「まじめに働き,貯蓄の努力を続け,給料は寮に預ける。」,「寮生どうしのお金の貸し借りをしない。また,持ち物の売買をしない。」,「パチンコや賭け事は禁止する。」といった項目を設け,自立更生のために自立資金を貯めることを処遇の中心に置いてきた。

これに加えて,平成18年から,外部講師(臨床心理士)を招いて毎月1回SSTを実施し,金銭の使い方等の訓練を取り入れることとなった。また,19年からは,飲酒等で失敗した人生経験を語り合うAA(Alcoholics Anonymous)ミーティングも毎週1回開催され,その中で,飲酒を巡る金銭管理について学ぶ機会が作られている。このミーティングには,在所者だけでなく地域住民も参加している。さらに,22年からは,県青年司法書士会の協力を得て,無料法律相談会を毎年3回同施設内において開催し,借金問題等に対する解決策の助言を得る機会を設けている。

SSTの実施場面【写真提供:草牟田寮】
SSTの実施場面【写真提供:草牟田寮】