この項では,前科のない万引き事犯者の再犯状況について分析する。
6-4-4-2-1図は,前科のない万引き事犯者について,再犯率を総数と男女別に見たものである。総数では,約4分の1の者が窃盗再犯に及んでいた。男女別で,特段の差は認められない。
ここでは,どのような要因が再犯と関係しているかを探るため,性別や年齢などの属性,前歴・微罪処分歴,動機・背景事情,調査対象事件当時における生活状況等と再犯率との関係について分析する。
6-4-4-2-2図は,前科のない万引き事犯者について,犯行時の年齢層別の再犯率を男女別に見たものである。
高齢者の窃盗再犯率は,女子の方が男子よりも高い。
また,女子について,65歳以上の高齢者(56人)と65歳未満の非高齢者(173人)に分けて窃盗再犯率を見ると,高齢者(37.5%)の方が非高齢者(23.1%)よりも高い。
6-4-4-2-3図は,前科のない万引き事犯者について,窃盗前歴の有無及び回数別の再犯率を見たものである。窃盗前歴がない者の窃盗再犯率は12.0%であるのに対し,窃盗前歴が3回以上になると窃盗再犯率は40%近くに及んでおり,窃盗前歴の回数が増加するにつれて窃盗再犯率も高くなっている。
6-4-4-2-4図は,前科のない万引き事犯者について,窃盗による微罪処分歴の有無別の再犯率を見たものである。窃盗再犯率は,微罪処分歴のある者の方が微罪処分歴のない者よりも高い。
6-4-4-2-5図は,少年時の非行と再犯との関係を見るために,前科のない万引き事犯者のうち前歴がある者について,20歳未満の少年時に前歴がある者と成人後の前歴のみある者とに分けて,男女別に再犯率を見たものである。
男子は,少年時の前歴がある者の再犯率が43.3%であり,成人後の前歴のみある者の再犯率(24.8%)と比較して高くなっている。他方,女子は,明確な関連は認められなかった。
ここでは,前科のない万引き事犯者について,調査対象事件に至った動機・背景事情(本節1項(4)イP294参照)が再犯率とどのように関係しているかを男女別に検討する。
動機のうち,「生活困窮」への該当の有無別の再犯率を男女別に見ると,6-4-4-2-6図のとおりである。男子の窃盗再犯率は,「生活困窮」に該当する者の方が該当しない者よりも高い。
男子について,年齢層別に見ると,若年者では,「生活困窮」に該当する者(25人)の再犯率が48.0%(12人)であり,「生活困窮」に該当しない者(64人)の再犯率20.3%(13人)と比較して高い。また,高齢者では,「生活困窮」に該当する者8人のうち,窃盗再犯を行った者は3人であり,「生活困窮」に該当しない者41人中窃盗再犯を行った者は4人であったのと比較して高い傾向がある。
一方,女子は,「生活困窮」への該当の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
動機のうち「空腹」についても「生活困窮」と同様の傾向が見られた。男子は,「空腹」に該当する者(61人)の窃盗再犯率が37.7%(23人)であり,「空腹」に該当しない者(256人)の窃盗再犯率20.3%(52人)と比較して高い。一方,女子の間では,「空腹」への該当の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
動機のうち「節約」について見ると,男子は,「節約」に該当する者(114人)の窃盗再犯率は17.5%(20人)であり,「節約」に該当しない者(203人)の窃盗再犯率27.1%(55人)よりも低い傾向がある。一方,女子は,「節約」への該当の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
その他,「軽く考えていた」に該当する者(68人)の窃盗再犯率は22.1%(15人),「軽く考えていた」に該当しない者(478人)の窃盗再犯率は25.3%(121人)であり,「軽く考えていた」への該当の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められず,男女に分けて見ても同様に窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
背景事情のうち,「無為徒食・怠け癖」について見ると,男子は,「無為徒食・怠け癖」に該当する者(63人)の再犯率は38.1%(24人)であり,「無為徒食・怠け癖」に該当しない者(254人)の再犯率24.0%(61人)よりも高い。これを年齢層別に見ると,男子若年者では,「無為徒食・怠け癖」に該当する者(26人)の再犯率は46.2%(12人)であり,「無為徒食・怠け癖」に該当しない者(63人)の再犯率20.6%(13人)よりも高かったが,他の年齢層においては,「無為徒食・怠け癖」への該当の有無と再犯率との間に明確な関連は認められなかった。一方,女子は,「無為徒食・怠け癖」への該当の有無と再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
また,背景事情のうち「不良交友」について見ると,男子は,「不良交友」に該当する者(22人)の再犯率は45.5%(10人)であり,「不良交友」に該当しない者(295人)の再犯率25.4%(75人)と比べて高い。「不良交友」に該当する者のほとんどは若年者(22人中20人)であることから,若年者に限って再犯率を見ると,やはり「不良交友」に該当する者の方が該当しない者よりも再犯率が高い傾向が見られる。女子は,「不良交友」への該当の有無と再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
女子について特徴が見られた背景事情としては,「近親者の病気・死去」が挙げられる。6-4-4-2-7図は,前科のない万引き事犯者について,「近親者の病気・死去」への該当の有無別の再犯率を男女別に見たものである。女子の窃盗再犯率は,「近親者の病気・死去」に該当する者の方が該当しない者と比較して高い。女子高齢者に限って見ると,「近親者の病気・死去」に該当する者(9人)の窃盗再犯率は77.8%(7人)であり,これに該当しない者(47人)の窃盗再犯率29.8%(14人)と比べて高い。一方,男子は,「近親者の病気・死去」への該当の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
6-4-4-2-8図は,前科のない万引き事犯者について,犯行時の居住状況別の再犯率を見たものである(女子229人のうち,「自宅以外の住居」の者は9人,「住居不定」の者は3人と極めて少数であるため,ここでは総数のみを見る。)。居住状況が「自宅以外の住居」の者において再犯率が高く,「自宅」の者において再犯率が低い傾向が見られる。
6-4-4-2-9図は,前科のない万引き事犯者について,犯行時の同居人の有無別の再犯率を男女別に見たものである。男子の窃盗再犯率は,同居人も交流ある近親者もいない者の方が同居人のいる者や交流ある近親者のいる単身者と比べて高い。一方,女子は,同居人の有無や交流ある近親者の有無と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
6-4-4-2-10図は,前科のない万引き事犯者について,犯行時の婚姻状況別の再犯率を男女別に見たものである。女子の窃盗再犯率は,配偶者と離死別等した者の方が婚姻歴のない者や婚姻継続中の者よりも高い。一方,男子は,婚姻状況と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められなかった。
6-4-4-2-11図は,前科のない万引き事犯者について,犯行時の就労状況別の再犯率を男女別に見たものである。
男子の再犯率は,安定就労の者(15.1%)の方が無職者(31.2%)よりも低い傾向にある。一方,女子は,就労状況の違いと再犯率との間に明確な関連は認められなかった。一般的に,就労状況は再犯に影響していると考えられるが(第2編第5章第2節4項P84参照),女子の万引き事犯者については,必ずしもそうではないことがうかがわれる。
6-4-4-2-12図は,前科のない万引き事犯者について,犯行時の収入の有無・収入額といった経済状況別の再犯率を男女別に見たものである。
男子の窃盗再犯率は,安定収入のない者の方が一定の収入がある者と比較して高い。一方,女子は,安定収入の有無及びその多寡と窃盗再犯率との間に明確な関連は認められない。
前科のない万引き事犯者について,金銭賠償による積極的弁償措置の有無別(不明の者を除く。)に再犯率を見ると,積極的弁償措置を行った者(220人)の窃盗再犯率は22.7%(50人)であり,積極的弁償措置を行わなかった者(320人)の窃盗再犯率は26.6%(85人)であった。
6-4-4-2-13図は,前科のない万引き事犯者のうち,調査対象事件により罰金又は執行猶予付きの懲役に処せられた者について,窃盗累積再犯率を男女別に見たものである(調査対象事件により懲役の実刑に処せられた者(1人)については,服役により再犯に及ぶ可能性が限られるため,再犯期間の分析対象からは除外している。以下この項において同じ。)。男女共に,6か月未満までの間に窃盗累積再犯率が急速に上昇し,窃盗再犯を行った者のほぼ半数に達している。その後は,期間の経過とともに上昇が少しずつ緩やかになっていく様子がうかがわれる。4か月未満より後は,女子の窃盗累積再犯率が男子をやや上回っている状態が続いている。
6-4-4-2-14図は,前科のない万引き事犯者について,年齢層別に窃盗累積再犯率を見たものである。高齢者の窃盗累積再犯率は,6か月未満の間に15%を超え,24か月未満で26.7%に達していた。若年者の窃盗累積再犯率は6か月未満までは他の年齢層と比べて最も高いが,その後の上昇は緩やかになり,24か月未満で20%弱であった。
前科のない万引き事犯者のうち窃盗再犯を行った者(136人)について,窃盗再犯時の手口を見ると,92.6%の者(126人)が再度の万引きによるものであった。なお,窃盗再犯を行った者について,調査対象事件より前に窃盗前歴があった者は126人であるところ,そのうち万引きの窃盗前歴があった者は92.1%(116人)であり,同種の手口により窃盗を反復している様子がうかがわれる。