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 平成19年版 犯罪白書 第7編/第6章/2 

2 再犯者の実態と効果的な再犯防止対策の在り方

(1)初犯者が2犯目の犯罪に至るのを防止すること
 再犯防止対策においては,常に,犯罪者をして犯した犯罪を最後に更生への道を歩ませ,その後の再犯を絶つための働き掛けが必要であることは言うまでもないところ,初犯者が2犯目の犯罪に至るのを防止することは特に重要である。
 毎年確定する有罪判決の約50%〜60%は,初犯者による事件である(第3章第3節参照)。これらの再犯を防止することは,再犯防止対策上もより大きな効果が期待できる上,犯罪者は,犯歴を重ねるにつれて犯罪傾向が進むため,初犯者のうちにその改善・更生を図ることが何よりも大切である。
 また,性犯罪者や殺人等の重大事犯を犯した者については,初犯の段階で,犯罪を犯した原因を徹底的に解明した上で,その者が持つ特質を明らかにし,これに応じた個別具体的な処遇を行うことにより,同一・同種の再犯を防止する必要もある。

(2)若年者の再犯防止対策がより重要であること
 昭和61年(1986年)から平成17年(2005年)までの20年間に1犯目の犯罪を犯した再犯者の約40%が20歳代前半の時に1犯目の犯罪を犯した者であること,20歳代前半に1犯目の犯罪を犯した者の約40%がその後再犯に及んでおり,2犯目までの再犯期間も短い傾向にあること,初犯者の5年以内の再犯率が20歳代前半の者において特に高いことなど(第3章第3節第4節2参照)によれば,20歳代前半に1犯目を犯した者の再犯傾向はかなり強い。
 さらに,20歳代前半の初入新受刑者の保護処分歴を見ると,これらの者は,入所罪名にかかわらず,他の年齢層の者と比べて,保護処分歴のある者の比率が相当高く,このことは,年齢は若年であっても,少年時に保護処分によって指導を繰り返し受けながら更生できずにいる者等,犯罪傾向の進んでいる者が相当程度いることを示している。
 したがって,刑事司法機関においては,若年者,取り分け20歳代前半の者に対しては,早期に可能な限り再犯の芽を摘むとの観点から,その特性や再犯の可能性を十分に見極めた上,厳正に対処するとともに,再犯防止対策においても,重点的に力を注ぐことが肝要である。
 なお,その一方で,近年,高齢者の再犯防止対策も重要である。高齢者については,5年以内の再犯率が上昇傾向にある上,近年,特に多数回再犯者において占める比率が急速に高まっている(第3章第3節参照)。高齢者の再犯防止対策としては,その再犯期間が短いことから(第3章第4節2参照),この短い期間内に再犯防止対策を集中して行うことや,高齢再犯者,取り分け多数回高齢再犯者の多くが窃盗及び詐欺を犯しているという特徴に着目した対策(後記(3)ア(ア)参照)を検討することが必要であろう。

(3)罪名・罪種の特質に応じた対策を講ずる必要があること
 一くくりに再犯といっても,その罪名・罪種によって傾向が異なるものと思われることから,再犯防止対策を一律に論ずるのは相当ではない。
 本特集では,初犯者が犯した罪名・罪種別に,その後の再犯状況,すなわち再犯に及んだ者の比率や,2犯目までの再犯期間等を概観したところ(第3章第4節15参照),初犯者のその後の再犯状況については,初犯者が犯した罪名によって顕著な傾向の差異があった。再犯防止対策もこれに応じて効果的に行う必要がある。
 ア 窃盗,覚せい剤取締法違反,傷害・暴行について
 窃盗,覚せい剤取締法違反,傷害・暴行は,いずれも,その犯歴の件数が非常に多く,しかも,再犯における罪名別犯歴の件数構成比の推移(最近30年間)を見ると,どの年においても一貫して,高い比率を占めている(第3章第1節第3節参照)。特に,窃盗及び覚せい剤取締法違反においては,初犯者がその後再犯に及んだ比率が高く,しかも,同じ罪名の犯罪を繰り返す傾向が認められた上,2犯目までの再犯期間も短い傾向にあった(第3章第4節1参照)。
 以下においては,これらの罪名ごとに,再犯防止対策の在り方を考察することとする。
 (ア)窃盗
 窃盗再犯者の中には,職業的な窃盗犯罪者もいるが,多くの者は比較的軽微な窃盗を繰り返す者と思われるので,ここでは,後者を念頭に考察を進めることとする。
 窃盗のみを繰り返した者の量刑の傾向について概観したところ,初犯者については,その約90%に対して執行猶予付きの懲役が言い渡されており,以降,2犯,3犯と犯歴を重ねるにつれて,これが実刑になり,刑期が長くなるという傾向が見られた(第3章第4節3参照)。ちなみに,窃盗における初犯者の多くは,過去に窃盗を犯し,警察段階における微罪処分や検察段階における起訴猶予を経て,それでもなお犯罪に及んだため公判請求された者であることに留意する必要がある。このように,窃盗再犯者の多くは,起訴猶予や刑の執行猶予により社会内において更生の機会を与えられてきた者であるといえる。
 起訴猶予及び刑の執行猶予は,適切に運用される限り,再犯防止において有用であり,その役割は大きい。しかし,その一方で,起訴猶予や刑の執行猶予の処分を受けた者の中には,これに感銘を受けることなく,その後短期間のうちに再犯に及んでいる者も相当程度存する。それだけに,起訴猶予及び刑の執行猶予の運用については,今後とも対象者の特質や再犯の可能性を十分に見極めて,これを行うことが肝要である。
 また,窃盗を繰り返し犯す者に対しては,刑法の累犯加重規定や特別法の常習犯処罰規定を十分活用して適切な科刑を行い,その刑期の範囲内で処遇の充実を図ることも必要である。
 さらに,再犯防止を図るためには,矯正,更生保護の各段階において,受刑者や保護観察対象者の特質に応じた処遇を行うことが重要である。
 窃盗については,平成18年における再入受刑者の80%以上が無職であったことや(犯罪全体では約70%。第3章第4節4参照),保護観察終了時に無職であった者の比率が,仮釈放者全体で見れば約30%であったのに対し,仮釈放が取り消された者に限定してみると80%以上であったこと(第3章第5節参照)などが明らかになっており,再犯防止対策として,就労支援を重点的に行うことが有効策の一つと思われる。また,それとともに,これらの者の規範意識を醸成し,生活の基盤を確立する必要性も高い。
 法務省では,厚生労働省との連携の下,平成18年4月から「刑務所出所者等総合的就労支援対策」として,受刑者及び少年院在院者,保護観察対象者,更生緊急保護の対象者の就労支援に取り組んでおり,刑事施設や保護観察所において,職業訓練や改善指導による就労能力の育成,ハローワークや雇用主との連携による具体的な就労先の確保に向けた支援等を行っている。また,刑事施設と保護観察所において,釈放後の生活支援に備えた情報交換を行い,帰住予定地の家族・住居・就労環境の整備を計画的に実施しているほか,一般遵守事項として,保護観察官又は保護司に対する面接及び生活の実態を示す事実の申告が義務付けられ,これを積極的に活用していくことが予定されている(第5章第35節参照)。これらの施策については,再犯防止対策として,大きな刑事政策上の効果が期待でき,その適切な運用が求められる。
 さらに,窃盗については,最近,新たに多数回高齢再犯者対策が問題になっている。近年,多数回高齢再犯者は,急激に増加しているところ,これを罪名別に見ると,その半数以上が窃盗であり,件数において続く詐欺を併せると,全体の60%以上を占める(第3章第4節2参照)。多数回高齢再犯者に対しても,前述の就労支援や生活基盤の確保が重要であるが,他の年齢層の者に比べて,困難を伴うことが予想され,この点に対する更なる対策が必要であろう。
 (イ)覚せい剤取締法違反
 覚せい剤取締法違反再犯者の中には,覚せい剤を密輸入・密売して利益を得ている職業的犯罪者と,覚せい剤の自己使用・自己使用目的所持等を繰り返す末端の乱用者がいる。
 覚せい剤取締法違反の再犯防止対策としては,まず,国際協力や国内における徹底した取締りの強化等により,覚せい剤を供給している組織等を壊滅させ,その供給源を絶つことが重要である。そして,これら職業的犯罪者及び末端の乱用者の双方について徹底的に検挙し,適正な科刑を行わなければならない。
 ところで,覚せい剤取締法違反のみを繰り返した者の量刑の傾向について概観したところ,窃盗の場合と同様に,初犯者のうちは刑が軽く,犯歴を重ねるにつれて量刑が重くなる傾向が見られた(第3章第4節3参照)。覚せい剤取締法違反の場合は,起訴猶予になる例は少ないものの,再犯者の大半が,刑の執行猶予により社会内において更生の機会を与えられてきた者であることは,窃盗の場合と同様である。そのため,覚せい剤取締法違反の場合においても,刑の執行猶予については,犯罪及び対象者の特質や再犯の可能性を十分に見極め,適切に運用することが肝要である。
 また,覚せい剤取締法違反を繰り返し犯す者に対し,刑法の累犯加重規定を十分活用して適切な科刑を行い,その刑期の範囲内で処遇の充実を図ることが必要なのも,窃盗の場合と同様である。
 次に,覚せい剤取締法違反の再犯防止を図るための矯正,更生保護における処遇の在り方について考察する。
 覚せい剤取締法違反を犯した者については,その多くが覚せい剤への依存傾向を持つと思われることから,処遇段階において,これを断ち切る工夫が必要である。
 刑事施設では,従来から,覚せい剤取締法違反の受刑者に対し,処遇類型別指導の中で,覚せい剤乱用防止教育等による指導が行われていたが,平成18年5月からは,特別改善指導として薬物依存離脱指導を行っている(第2編第4章第4節及び第3編第3章第3節参照)。また,保護観察所では,類型別処遇制度において,覚せい剤事犯対象者の類型を設け,16年4月からは覚せい剤事犯の仮釈放者等に対し,本人の自発的意思に基づく簡易尿検査を活用した処遇を実施している(第3編第3章第3節参照)。覚せい剤事犯者の保護者や引受人を対象とする講習会を開催している保護観察所もある。これらの施策についても,新しい取組であり,その定着と適切な運用が期待される。
 (ウ)傷害・暴行
 傷害のみを繰り返して行った者の量刑の傾向について概観したところ,同罪においては,初犯者のうちは刑が軽く,犯歴を重ねるにつれて量刑が重くなるという顕著な傾向は見られなかった。これは,傷害の量刑においては,傷害の程度や,被害者との関係,犯行態様等の個別事情が考慮されることが多いためと考えられる。なお,傷害に対しては,軽微な事案が多いためと推測されるが,6〜10犯目になっても罰金の者が約70%を占めているところ,この点については,多数の犯歴を重ねた者に対する罰金の感銘力について考えさせる問題を含んでいるようにも思われる。
 次に,傷害・暴行についても,その再犯防止を図るためには,矯正・更生保護の各段階において,その特質に応じた処遇を行うことが重要である。
 この点,傷害・暴行については,前記の量刑の傾向が示しているとおり,大半が軽微な事案と考えられるが,同一再犯を繰り返す傾向が強い者の中には,より重大な犯罪に進む可能性を持つ者もおり,軽視できないところがある。現に,後述する殺人再犯者においては,傷害・暴行等の粗暴犯の犯歴を持つ者が多かったことも踏まえ,これらの者に対しては,感情をコントロールする能力を身に付けることを目的とした処遇を実施する必要性が高いといえよう。
 イ 殺人について
 代表的な重大事犯である殺人においては,1犯目を犯した者がその後再犯に及ぶ比率が他の犯罪の場合と比べて相当低く,殊に殺人再犯を犯す者に至っては,100人に1人もいない。しかしながら,殺人の再犯は,その結果が重大であるとともに,社会に与える影響も大きいところ,このような者が比率としてはごくわずかではあるが現に存在する。これは再犯問題を考えるに当たって見逃せない問題である。 
 本特集では,殺人再犯者の実態を解明するため,特別調査を行い,殺人再犯者がどのような動機や原因で再度の犯行に至っているかを中心に分析を行った(第4章参照)。その結果,1回目に犯した殺人事犯と2回目に犯した殺人事犯とが,その動機・原因,被害者との関係,殺害手段等において高い類似性を有するケースが相当数あることが判明した。この事実には,再度の殺人という最も重大な再犯を防止するためのヒントが隠されているように思われる。すなわち,再度の殺人を犯す者は,最初の殺人と同様の場面,同様の動機で,犯罪を犯す場合が多いのであるから,その対策としては,最初の殺人の捜査,公判及び処遇における調査のときに,その原因を徹底的に解明した上で,その者が持つ特性を明らかにし,これを除去するための個別具体的な処遇を徹底的に行うことが重要であるということになろう。
 また,第4章第3節で指摘した,殺人再犯者の特徴を考慮すれば,殺人を犯した者への再犯防止対策として,[1]感情のコントロールができない者には,これを可能にすることを目的とした処遇を実施すること,[2]複数の対策や処遇プログラム等を効果的に組み合わせて実施すること,[3]暴力団関係者には,暴力団離脱指導を徹底的に行うこと,[4]飲酒の影響を受けて犯行に及んだ者には,自己が犯した殺人と飲酒との関連について厳しく反省を促し,必要な処遇プログラムを施すこと,[5]閉塞した人間関係や生活状況にある者には,可能な限りの環境調整を行い,これらのことに留意した社会内処遇を行うことなども効果的と思われる。
 ウ 性犯罪について
 本特集では,近時国民の関心の高い性犯罪(以下,本章において「性犯罪」とは,強姦,強制わいせつ及び強盗強姦をいう。)についても,その実態の分析を行った。
 その結果,性犯罪を犯す者の中には,特に性犯罪を繰り返す傾向が強い者とそうではない者がいることが認められた。
 前者については,その特質を適切に見極め,早期に,問題のある資質的部分の改善を図る処遇を行うなど,その問題点に焦点を当てた再犯防止対策を講ずることが必要であるといえよう。
 法務省では,性犯罪者処遇プログラムを策定し,平成18年度から,刑事施設及び保護観察所において,対象者にこれを実施している。性犯罪者処遇プログラムの受講は,刑事施設においては特別改善指導として,保護観察所においては対象者に対する特別遵守事項として,それぞれ義務付けることが可能である。また,刑事施設内及び保護観察所における性犯罪者処遇プログラムに一貫性を持たせ,かつ,その処遇効果を維持するため,刑事施設と保護観察所との間で情報交換を密にする体制が導入されている(第5章第24節参照)。性犯罪者処遇プログラムにおいては,諸外国の多くで導入されている対策であり,その効果が期待されているところ,今後,我が国においてもその再犯防止効果について十分な客観的検証を行い,その内容の充実・改善を図ることが肝要である。
 他方,性犯罪を繰り返す傾向がないと思われる者については,他の犯罪を犯した者と同様に,規範意識を醸成するとともに,個々の特性に応じて,就労支援,生活基盤の確立,感情の統制力の養成等を行うなどして,その更生を妨げる要因を除去し改善するなどの再犯防止対策が必要で,かつ有効と考えられる。

(4)仮釈放等社会内処遇を充実強化すること
 「更生保護のあり方を考える有識者会議」は,更生保護制度改革の提言において,仮釈放について,「受刑者の更生意欲を高めるとともに,保護観察による適切な社会内処遇と組み合わせられることで,対象者の改善更生を促進し,社会復帰を円滑にするものであり,施設内処遇に要するコストを抑制することもでき,社会にとって有用な制度である。」と位置付けた上で,「真実改善更生の意欲があり,社会内処遇に適する者については,適切な遵守事項を定めることと合わせ,より早期に仮釈放することとしつつ,改善更生の意欲の有無・程度,社会内処遇によって期待できる効果等を的確に評価し,それらが不十分な者については,仮釈放の判断を厳しくするなど,メリハリのついた運用をなすべきである。」と指摘している。
 本特集においては,仮釈放の現状や仮釈放者のその後の成り行きについて,犯歴や統計資料を対象として概観した(第3章第5節参照)。その結果を見ると,仮釈放者においては,重大犯罪を始めとして,満期釈放者と比べて出所後再犯に及ぶ比率が低く,かつ,再犯に及ぶまでの期間も長くなっていた。このことは,一般的には,仮釈放の審理が再犯危険性等を吟味した上で適正になされ,社会内処遇が機能していることを示しているといえる。もっとも,仮釈放で刑事施設を出所した者の中には,その後再犯に及んでいる者がいることも事実であり,今後,更に仮釈放の審理を適正に行うべく様々な観点からの検討を進めていくことが必要である。
 ところで,平均仮釈放期間は,犯罪総数で5か月であり,殺人のように長いものでも1年2か月,傷害や暴行のように短いものでは,それぞれ4か月,3か月となっている。また,満期釈放者においては,仮釈放者と比べて,出所後再犯に及ぶ比率が高く,かつ,再犯に及ぶまでの期間も短いところ,これらの者については,施設内処遇後,保護観察を受けることはない。しかし,満期釈放者の中にこそ,施設内処遇の効果を維持するために,相当期間のアフターケアを必要とする者が多いと思われる。前記更生保護制度改革の提言も指摘しているように,仮釈放が,保護観察による適切な社会内処遇と組み合わされることで,対象者の改善・更生を促進する制度であることにかんがみれば,今後,満期釈放者のようにそもそも保護観察の対象にならない者や,仮釈放期間の極めて短い者等についてどのような方策を採るのか,検討すべき課題であるといえよう。