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令和元年版 犯罪白書 第4編/第1章/第1節/コラム15

コラム15 オウム真理教関係者による犯罪

平成元年8月に宗教法人となったオウム真理教は,その前後から,脱退の意思を有していた信徒に対する殺人事件や,教団に対して批判的な活動を行っていた弁護士一家に対する殺人事件に及んでいたが,5年頃には猛毒の化学兵器であるサリンの開発に成功し,6年6月,敵対視していた裁判官らを殺害するため,裁判所職員宿舎を標的とした松本サリン事件を敢行した。その後,7年2月,信徒の実兄である公証役場事務長に対する逮捕監禁致死事件を起こしたが,これらをきっかけに教団に捜査が入る旨の報道が出るなどしたことから,捜査のかく乱を狙い,同年3月20日,地下鉄サリン事件を敢行した。同事件は,東京都内の地下鉄電車内において,サリンの発散により,乗客等13人を死亡させ,約5,800人以上に傷害を負わせた無差別テロ事件であった。教団代表者は,同年5月16日に逮捕され,その後計11回にわたり,殺人等17件につき公訴を提起された(判決の対象となったのは最終的に13件)。他の教団関係者についても,実人員で約190人が公判請求された。

事件を受け,サリン等の製造,所持等を禁止する趣旨等から,平成7年4月,サリン等による人身被害の防止に関する法律(平成7年法律第78号)が成立・施行された。8年6月には,広域組織犯罪等に対処するため,警察法の一部が改正された。公安調査庁長官は,同年7月,破壊活動防止法に基づき,教団に対する解散指定処分を公安審査委員会に請求したが,9年1月,同請求が棄却され,新たに11年12月,無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成11年法律第147号)が成立・施行された。

地下鉄サリン事件等は,犯罪被害者の問題について国民の関心を高めるきっかけにもなった。被害者が犯罪による直接的な被害のみならず,精神面,生活面,経済面等において様々な被害を受けていることについて,国民の認識が深まるとともに,その後の刑事司法過程において,いわゆる二次的被害を受けて被害者の精神的被害が更に深くなる場合があることなどが問題とされ,被害者の保護・支援に対する関心が高まった。オウム真理教は,平成8年3月に東京地方裁判所から破産宣告を受けたため,10年4月,オウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する特例に関する法律(平成10年法律第45号)が成立・施行され,少しでも多くの配当金が被害者に支払われるよう,国の優先順位が変更された。20年6月には,オウム真理教犯罪被害者等を救済するための給付金の支給に関する法律(平成20年法律第80号)が成立し,同年12月に施行されたが,同法では,地下鉄サリン事件等が,暴力により国の統治機構を破壊する等の主義を推進する目的の下に行われた悪質かつ重大なテロリズムとしての犯罪行為であるとされた。

教団関係者に対する公判経過について,犯罪白書では,平成11年版から17年版まで毎年,「オウム真理教関係者に係る事件の審理及び科刑状況」などという項目が処遇・裁判パートに掲載されている。教団はその間,名称変更等を行い,一連の犯行の首謀者であった教団代表者は元代表となったが,18年9月,同人の死刑が確定し,死刑判決を受けていた幹部12名についても23年12月までに判決が確定した。24年には,逃走していた教団関係者らが逮捕され,30年1月までにこれらの者の裁判が確定したことをもって,一連の刑事裁判が終了した。同年7月6日及び同月26日には,元代表及び教団幹部12名の死刑が執行された。