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令和2年版 犯罪白書 第7編/第5章/第3節/2

2 保護観察等
(1)保護観察所における処遇

保護観察所は,薬物犯罪の保護観察対象者に対し,地方更生保護委員会の調査(本節1項(1)ア(ア)参照)の結果等を踏まえ,第2編第5章第3節2項及び第3編第2章第5節3項で記載した保護観察を実施するほか,以下の処遇を実施している。

ア 薬物処遇ユニット

薬物依存に関する専門的な知見に基づき,薬物依存に関する専門的な処遇を集中して行うことにより,効果的な保護観察を実施するため,令和2年4月1日現在,28庁の保護観察所において薬物処遇ユニットが設置されている(法務省保護局の資料による。)。同ユニットの概要については,7-5-3-3図のとおりである。なお,同ユニットが設置されていない保護観察所においても,同ユニットに準じて,薬物事犯者に係る処遇体制が整備されている。

7-5-3-3図 薬物処遇ユニットの概要
7-5-3-3図 薬物処遇ユニットの概要
イ 類型別処遇

薬物犯罪の保護観察対象者については,処分罪名又は非行名に覚醒剤取締法違反が含まれる者,処分罪名・非行名にかかわらず,覚醒剤の違法な使用等が処分対象事犯の原因,動機に関連していると認められる者,及び覚醒剤への依存や覚醒剤使用の結果による後遺症が危惧される者を「覚せい剤事犯対象者」,処分罪名又は非行名にシンナー等の乱用による毒劇法違反が含まれる者,処分罪名・非行名にかかわらず,シンナー等の乱用が処分対象事犯の原因,動機に関連していると認められる者,処分後にシンナー等の乱用が認められる者及びシンナー等の乱用の結果による後遺症が危惧される者を「シンナー等乱用対象者」の類型に認定し,類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた効率的な処遇(類型別処遇)を実施している(第2編第5章第3節2項(2)ア及び第3編第2章第5節3項(1)参照)。

「覚せい剤事犯対象者」又は「シンナー等乱用対象者」の類型に認定された人員等の推移(最近20年間)は,7-5-3-4図のとおりである。

7-5-3-4図 「覚せい剤事犯対象者」・「シンナー等乱用対象者」の類型認定人員等の推移
7-5-3-4図 「覚せい剤事犯対象者」・「シンナー等乱用対象者」の類型認定人員等の推移
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ウ 薬物再乱用防止プログラム

専門的処遇プログラム第2編第5章第3節2項(2)ウ参照)の一つに薬物再乱用防止プログラムがある。薬物再乱用防止プログラムの概要については,7-5-3-5図のとおりである。

7-5-3-5図 薬物再乱用防止プログラムの概要
7-5-3-5図 薬物再乱用防止プログラムの概要
(ア)対象

保護観察に付されることとなった犯罪事実に,指定薬物又は規制薬物等の所持・使用等に当たる事実が含まれる仮釈放者又は保護観察付全部・一部執行猶予者に対し,特別遵守事項第2編第5章第3節参照)で受講を義務付けて実施している。なお,少年の保護観察対象者等に対しても,依存性薬物(規制薬物等,指定薬物及び危険ドラッグをいう。以下この項において同じ。)への依存性の程度等に十分配慮した上で,後述する教育課程を受けることを生活行動指針同節参照)に設定することができる。

(イ)内容等

教育課程及び簡易薬物検出検査を内容とする。

教育課程は,コアプログラムとステップアッププログラムの2段階に分かれており,保護観察所において,ワークブック等に基づき,個別又は集団処遇により,保護観察官を実施者として実施している。なお,薬物依存症リハビリテーション施設職員等を実施補助者としたり,遠方に居住する保護観察対象者への対応等のために,十分な実施体制を整えた上で,試行的に更生保護サポートセンター(第2編第5章第6節1項参照)等を実施場所とするなどしている。

コアプログラムは,依存性薬物の悪影響と依存性を認識させ,依存性薬物を乱用するに至った自己の問題性について理解させるとともに,再び依存性薬物を乱用しないようにするための具体的な方法を習得させるものであり,おおむね2週間に1回の頻度で原則として3月程度で全5回を修了する。

ステップアッププログラムは,コアプログラムで履修した内容の定着を図りつつ,薬物依存からの回復に資する発展的な知識及びスキルを習得させることを主な目的とし,発展課程,特修課程及び特別課程で構成されており,おおむね1月に1回の頻度で,発展課程を基本としつつ,必要に応じて他の課程を実施する。

簡易薬物検出検査は,簡易な方法により,被検査者の尿中又は唾液中に含まれる薬物を検出する検査である。これらの検査は,保護観察所において実施するか,外部の検査機関を活用して行う。陰性の検査結果を検出することを目標とし,陰性の結果について,保護観察対象者の断薬の努力を評価し,保護観察対象者の家族等に対し結果を連絡し,引き続きの協力を求めるなどしている。

薬物再乱用防止プログラムのグループワークによる教育課程の模擬実施場面【写真提供:法務省保護局】
薬物再乱用防止プログラムのグループワークによる教育課程の模擬実施場面
【写真提供:法務省保護局】
(ウ)薬物依存からの回復プログラム等の受講によるプログラムの一部免除

保護観察所は,規制薬物等に対する依存がある保護観察対象者の改善更生を図るための指導監督第2編第5章第3節参照)の方法として,医療・援助を受けることの指示等(以下この項において「通院等指示」という。)を行っているところ(本項(3)イ(ア)参照),通院等指示により,精神保健福祉センター(本章第4節4項参照),薬物処遇重点実施更生保護施設(本項(2)ア(ア)参照)等が実施するSMARPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program:せりがや病院覚せい剤依存再発防止プログラム)又はこれと同様の理論的基盤を有する薬物依存からの回復プログラム(以下(ウ)において「特定援助」という。)を受ける見込みがある場合には,コアプログラムの開始を延期することができ,特定援助を一定期間継続的に受けたときはコアプログラムを一部免除することができる。令和元年において,コアプログラムの開始を延期した件数は,127件であった(法務省保護局の資料による。)。

また,コアプログラムの受講修了後,通院等指示により,特定援助や薬物依存回復訓練(本項(3)イ(イ)参照)等(以下この項において「専門的援助」という。)を受ける見込みがある場合には,ステップアッププログラムの開始を延期し,一時的に実施しないことができる。令和元年において,ステップアッププログラムを一時的に実施しないこととした件数は,126件であった(法務省保護局の資料による。)。

薬物再乱用防止プログラム(平成21年から28年5月までは,覚醒剤の自己使用の罪がある者を対象とした覚せい剤事犯者処遇プログラム)による処遇の開始人員の推移(統計の存在する21年以降)は,7-5-3-6図のとおりである。

7-5-3-6図 薬物再乱用防止プログラムによる処遇の開始人員の推移
7-5-3-6図 薬物再乱用防止プログラムによる処遇の開始人員の推移
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エ 自発的意思に基づく簡易薬物検出検査

依存性薬物の所持・使用により保護観察に付された者であって,薬物再乱用防止プログラム(本項(1)ウ参照)に基づく指導が義務付けられず,又はその指導を受け終わった者等に対し,必要に応じて,断薬意志の維持等を図るために,その者の自発的意思に基づいて簡易薬物検出検査を実施することがある。令和元年における実施件数は6,633件であった(法務省保護局の資料による。)。

オ 北九州自立更生促進センターにおける処遇

自立更生促進センター第2編第5章第3節2項(6)参照)のうち,北九州自立更生促進センターでは,薬物犯罪の仮釈放者等を対象として,保護観察所における薬物再乱用防止プログラム(本項(1)ウ参照)のほか,同プログラムのステップアッププログラムの中で精神保健福祉センター(本章第4節4項参照)の薬物依存からの回復プログラムを受講させたり,薬物依存症リハビリテーション施設であるダルクの薬物依存回復訓練(本項(3)イ(イ)参照)を原則平日は毎日受講させるなど,薬物事犯者に対する重点的・専門的な処遇が行われている。同センターではそのほかに,常駐している保護観察官により,退所後の生活を見据え,薬物依存からの回復に必要な継続的支援の確保,就労支援,生活指導等の処遇が行われている。

北九州自立更生促進センターにおける生活指導(金銭管理)場面【写真提供:法務省保護局】
北九州自立更生促進センターにおける生活指導(金銭管理)場面
【写真提供:法務省保護局】
カ 就労支援・福祉的支援

薬物犯罪の保護観察対象者の生活環境,心身の状況,意向等を勘案し,就労支援を受けることが必要と認めるときは,ハローワークの協力を得るなどして,就労支援を実施している(更生保護における就労支援については,第2編第5章第3節2項(4)参照)。

また,薬物犯罪の保護観察対象者に必要な福祉的支援が円滑に提供されるよう,福祉事務所等と連携するなどしている。

キ 保護観察終了後を見据えた支援

薬物犯罪の保護観察対象者が,保護観察終了後も薬物依存からの回復のための必要な支援を受けられるよう,保護観察の終了までに,精神保健福祉センター等が行う薬物依存からの回復プログラムや薬物依存症リハビリテーション施設等におけるグループミーティング等の支援につなげるなどしている。

(2)更生保護施設等における処遇
ア 更生保護施設
(ア)薬物処遇重点実施更生保護施設

薬物処遇重点実施更生保護施設(更生保護施設については,第2編第5章第6節2項参照)は,依存性薬物に対する依存がある保護観察対象者等に対し,精神保健福祉士等を薬物処遇に関する専門職員として配置して,依存性薬物に対する依存からの回復に向けた認知行動療法に基づくプログラムを実施するほか,必要な保健医療福祉サービス等を円滑に受けることができるようにしたり,退所後の適切な住居及び就労に向けた支援を行うなどの処遇を実施している。令和2年4月1日現在,薬物処遇重点実施更生保護施設として指定されている施設は,25施設となっている(法務省保護局の資料による。)。

薬物処遇重点実施更生保護施設における依存性薬物に対する依存からの回復に向けた認知行動療法に基づくプログラムの実施場面【写真提供:法務省保護局】
薬物処遇重点実施更生保護施設における依存性薬物に対する依存からの回復に向けた認知行動療法に基づくプログラムの実施場面
【写真提供:法務省保護局】
(イ)薬物中間処遇の試行

薬物依存者に対する息の長い支援を実現するため,薬物中間処遇が試行されている。同試行は,従前の運用では仮釈放期間が比較的短期間である薬物依存のある受刑者について,早期に仮釈放し,一定の期間,更生保護施設等に居住させた上で,地域における支援を自発的に受け続けるための習慣を身に付けられるよう,地域の社会資源と連携した濃密な保護観察処遇を実施するものである。同試行は,令和2年6月1日現在,3施設において実施されている(法務省保護局の資料による。)。

(ウ)フォローアップ事業

更生保護施設を退所するなどして地域に生活の基盤を移した依存性薬物に対する依存が認められる保護観察対象者等を同対象者等の同意に基づき更生保護施設に通所させ,専門的援助(本項(1)ウ(ウ)参照)に当たる支援(薬物依存回復支援)である薬物依存からの回復プログラムや薬物依存回復訓練等を実施し,継続的に薬物処遇を行うなどのフォローアップ事業を実施している(第2編第5章第6節2項参照)。令和元年度に同事業の薬物依存回復支援を実施した人員は,薬物依存からの回復プログラムが25人,薬物依存回復訓練が1人であった(法務省保護局の資料による。)。

なお,薬物処遇重点実施更生保護施設,薬物中間処遇の試行を実施している更生保護施設及びフォローアップ事業の薬物依存回復支援を実施している更生保護施設以外の更生保護施設においても,薬物犯罪の保護観察対象者等の円滑な社会復帰を支援している。

イ 自立準備ホーム

自立準備ホーム第2編第5章第6節3項参照)には,薬物依存症リハビリテーション施設も登録されており,薬物依存のある保護観察対象者について,保護観察所は,同施設に宿泊場所の供与や自立のための生活指導等を委託するなどしている。令和元年度に同ホームのうち同施設に委託した実人員は,224人であった(法務省保護局の資料による。)。

(3)関係機関等との連携
ア 矯正施設
(ア)情報の引継ぎ

地方更生保護委員会及び保護観察所は,矯正施設から受刑者等の心身の状況,治療状況等の施設内における情報を引き継いでいるところ,とりわけ薬物犯罪の受刑者等については,施設内及び社会内における処遇の一貫性を保ち,その実効性をより高めるため,刑事施設からは,刑事施設における薬物依存離脱指導(本章第2節1項参照)の実施結果等に関する情報及び同施設における向精神薬の服薬の状況等に関する情報を,少年院からは,少年院における薬物非行防止指導(同節2項参照)の実施結果等に関する情報の引継ぎを受けている。また,保護観察所からは,刑事施設及び少年院に対し,保護観察所における薬物再乱用防止プログラム(本項(1)ウ参照)の実施結果等に関する情報を引き継いでいる(詳細については,本章第2節3項参照)。

(イ)研修・会議

施設内処遇と社会内処遇の連携強化及び薬物処遇の専門性を有する職員の育成のため,矯正施設職員及び保護観察官を対象とした薬物依存対策研修が実施されている。

全国8ブロックにおいて,薬物事犯者に対する処遇プログラムにおける矯正・保護実務者協議会が開催されている。同協議会では,双方のプログラムの実施状況等の情報を交換し,社会復帰後の支援に資する刑事施設と保護観察所との連携について検討されている。

イ 薬物依存者の治療や回復支援を行う機関等
(ア)医療・援助を受けることの指示・治療状況等の把握

保護観察所は,地域の医療・援助機関等による薬物依存の改善に資する医療や援助を確保し,一体的な処遇を行うため,医療又は援助を行う病院,公共の衛生福祉に関する機関等との緊密な連携を確保するようにして保護観察を実施している。

保護観察所は,依存性薬物に対する依存を改善するための医療や専門的援助(本項(1)ウ(ウ)参照)を受けることについて,保護観察対象者の意思に反しないことを確認するとともに,当該医療又は援助を提供することについてこれを行う者と協議した上で,通院等指示(同項(1)ウ(ウ)参照)を行っている。通院等指示を行った場合には,当該医療又は援助の状況を確認するとともに,医療又は援助を行う者と必要な協議を行っている。

(イ)薬物依存回復訓練

保護観察所は,依存性薬物に対する依存がある保護観察対象者等について,民間の薬物依存症リハビリテーション施設等に委託し,依存性薬物の使用経験のある者のグループミーティングにおいて当該依存に至った自己の問題性について理解を深めるとともに,依存性薬物に対する依存の影響を受けた生活習慣等を改善する方法を習得することを内容とする,薬物依存回復訓練を実施している。令和元年度に同訓練を委託した施設数は58施設であり(前年比5施設減),委託した実人員は,587人(同39人増)であった(法務省保護局の資料による。)。

ウ 地域支援体制の構築のための連絡会議の開催

保護観察所は,薬物依存のある保護観察対象者が居住する地域における薬物処遇に関係する機関・団体等と連携した支援を,同対象者に対して円滑に実施することができるよう,地域支援体制の構築の一環として,処遇に関係する機関・団体等と協働し,連絡会議(地域支援連絡会議)を開催している。

(4)家族に対する支援

保護観察所は,生活環境の調整時(本節1項(2)参照)と同様に家族に対する支援を行い,また薬物犯罪の保護観察対象者の家族が保護観察終了後も必要な支援を受けられるよう,保護観察中から調整を図り,家族が希望する場合には,保護観察の終了までに相談機関,家族会等(本章第4節4項及び7項参照)につなげるなどしている。

(5)犯罪予防活動

更生保護の目的には,犯罪者等の改善更生を助けることなどのほか,犯罪予防の活動の促進がある(第2編第5章第6節6項参照)。この活動の特色として,地域社会が薬物事犯者も含めた犯罪者等を排除することなく地域社会の一員として受け入れ,その更生を援助することに至ることを促進することなどがある。この活動の典型的なものとして,法務省主唱の「社会を明るくする運動~犯罪や非行を防止し,立ち直りを支える地域のチカラ~」がある(同項参照)。この運動の一環として,全国で地域住民を対象とする薬物乱用防止をテーマとした講演会,住民集会,ケース研究等が実施されている。

(6)薬物処遇の専門性を有する職員の育成

薬物依存対策研修,薬物事犯者に対する処遇プログラムにおける矯正・保護実務者連絡協議会(本項(3)ア(イ)参照)のほか,新任の保護観察官から指導的な立場にある保護観察官までを対象とした各種研修において,薬物依存のある保護観察対象者等への処遇に資する指導が行われている。