公訴権は,原則として検察官に付与されているが,検察官の不起訴処分に対する不服申立制度として,検察審査会に対する審査申立て及び管轄地方裁判所に対する付審判請求(「準起訴手続」ともいう。)の制度がある。
検察審査会(現在,全国に165か所が設置されている。)は,選挙人名簿に基づきくじで選定された11人の検察審査員(任期6か月)により組織され,申立てにより又は職権で,検察官の不起訴処分の審査を行い,「起訴相当」,「不起訴不当」又は「不起訴相当」の議決を行う。
平成12年法律第74号による検察審査会法の改正(平成12年6月施行。第1編第2章第5節1項参照)により,それまで審査申立権を有する者が告訴人,告発人,請求人又は被害者に限られていたのが,被害者が死亡した場合においては,その配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹が審査申立権を有するものとされたほか,審査申立人が検察審査会に意見書又は資料を提出することができるものとされた。また,平成16年法律第62号による検察審査会法の改正(21年5月施行。同節7項参照)により,検察審査会が「起訴相当」の議決を行った事件につき,検察官が再度不起訴処分にした場合又は一定期間内に公訴を提起しなかった場合には,検察審査会は,再審査を行わなければならず,その結果,「起訴をすべき旨の議決」(起訴議決)を行ったときは,公訴が提起されることとなった。この場合,公訴の提起及びその維持に当たる弁護士(指定弁護士)が裁判所により指定され,この指定弁護士が,起訴議決に係る事件について,検察官の職務を行う。
検察審査会における事件(再審査事件を含まない。)について,平成元年以降の受理・処理人員の推移は,6-2-1-2表のとおりである。なお,5年に受理・処理が多かったのは,多数の市民により告発がなされた政治資金規正法違反事件関係の申立て(4万305人)が含まれていたことによる。30年における受理人員のうち,刑法犯(平成25年法律第86号による改正前の刑法211条2項に規定する自動車運転過失致死傷を含む。)は1,712人であり,罪名別に見ると,文書偽造が328人と最も多く,次いで,詐欺(198人),職権濫用(190人),傷害(183人)の順であった。特別法犯(自動車運転死傷処罰法違反を含む。)は392人であり,同法違反が187人と最も多かった(いずれも延べ人員。最高裁判所事務総局の資料による。)。
検察審査会において起訴相当又は不起訴不当の議決がされた事件について,平成元年以降に検察官が執った事後措置の推移を,原不起訴処分の理由別に見ると,6-2-1-3表のとおりである。
検察審査会法施行後の昭和24年から平成30年までの間,検察審査会では,合計で延べ17万5,337人の処理がされ,延べ1万8,449人(10.5%)について起訴相当又は不起訴不当の議決がされている。このうち,検察官により起訴された人員は,延べ1,602人であり,1,428人が有罪(自由刑516人・罰金刑912人),99人が無罪(免訴及び公訴棄却を含む。)を言い渡されている(最高裁判所事務総局の資料による。)。
また,起訴相当の議決がされた後,検察官が不起訴維持の措置を執り,検察審査会が再審査した事件のうち,平成21年から30年までに再審査が開始されたのは,延べ26人であり,起訴議決に至ったものは延べ14人,起訴議決に至らなかった旨の議決は延べ12人であった(最高裁判所事務総局の資料による。)。
平成21年から30年までの間,検察審査会の起訴議決があり,公訴の提起がなされて裁判が確定した事件の人員は10人(有罪2人(自由刑1人・財産刑1人),無罪(免訴及び公訴棄却を含む。)8人)であった(法務省刑事局の資料による。)。
付審判請求は,公務員による各種の職権濫用等の罪について告訴又は告発をした者が,不起訴処分に不服があるときに,事件を裁判所の審判に付するよう管轄地方裁判所に請求することを認める制度である。地方裁判所は,その請求に理由があるときは,事件を裁判所の審判に付する旨の決定を行い,この決定により,その事件について公訴の提起があったものとみなされ,公訴の維持に当たる弁護士(指定弁護士)が裁判所により指定され,この指定弁護士が,その事件について検察官の職務を行う。
平成期においては,平成4年の106人を最少,7年の700人を最多として,毎年,平均して約300人の付審判請求の新規受理人員があり,30年においては,新規受理人員315人,処理人員620人であり,付審判決定があった者はいなかった(司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料による。)。
また,刑事訴訟法施行後の昭和24年から平成30年までの間に付審判決定があり,公訴の提起があったとみなされた事件の裁判が確定した件数は22件であり,うち13件が無罪(免訴を含む。)であった。そのうち元年以降に付審判決定があり,公訴の提起があったとみなされた事件の裁判が確定した件数は8件であり,うち6件が無罪であった(最高裁判所事務総局の資料による。)。