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令和元年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/2

2 薬物関係法令

主な薬物関係法令には,大麻取締法(昭和23年法律第124号),覚せい剤取締法(昭和26年法律第252号),麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号。以下この節において「麻薬取締法」という。),あへん法(昭和29年法律第71号)のほかに,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下この節において「医薬品医療機器等法」という。),国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成3年法律第94号。以下この節において「麻薬特例法」という。)等がある。平成期における薬物犯罪についての動向や犯罪者処遇の状況は,第4編第2章参照。

(1)大麻取締法

大麻取締法は,大麻の用途を学術研究及び繊維・種子の採取だけに限定し,大麻の取扱いを免許制とし,免許を有しない者による大麻の取扱いを禁止するとともに,違反行為を規定して罰則を設けた法律で,昭和23年に制定されたものであり,昭和期における重要な改正としては,昭和28年法律第15号により,大麻の定義が「大麻草及びその製品」と改められ,大麻草の種子が規制の対象外とされたこと(28年4月施行),昭和38年法律第108号により,罰則の法定刑が引き上げられたこと(38年7月施行)などがある。

平成期においては,平成2年法律第33号による改正により,栽培・輸出入・譲渡し・譲受け・所持等についての営利犯加重処罰規定及び未遂罪,栽培・輸出入についての予備罪及び資金等提供罪,周旋罪等が新設され(平成2年8月施行),平成3年法律第93号による改正により,大麻の定義規定の明確化,資金等提供罪の処罰範囲の拡大,大麻の運搬の用に供した車両等への没収範囲の拡大,国外犯処罰規定の新設等が行われた(4年7月施行)。

(2)覚せい剤取締法

覚せい剤取締法は,覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するため,覚せい剤及び覚せい剤原料の輸出入・所持・製造・譲渡し・譲受け・使用に関して必要な取締りを行うことを目的とする法律であり,昭和26年に制定された。昭和期における重要な改正としては,昭和29年法律第177号による改正により,罰則の法定刑が引き上げられ,営利犯,常習犯について刑罰を加重する規定が設けられたこと(29年6月施行),昭和48年法律第114号による改正により,罰則全般にわたって法定刑が引き上げられ,輸出入等についての予備罪,資金等提供罪が新設された一方,常習犯の規定が削除されたこと(48年11月施行)などがある。

平成期では,平成2年法律第33号による改正により,営利の目的による違反行為等を中心に罰金刑の上限が引き上げられ(平成2年8月施行),平成3年法律第93号による改正により,資金等提供罪の処罰範囲の拡大,覚せい剤の運搬の用に供した車両等への没収範囲の拡大,国外犯処罰規定の新設等が行われた(4年7月施行)。

(3)麻薬取締法

麻薬取締法は,麻薬及び向精神薬の輸出入,製造,譲渡し等について必要な取締りを行うとともに,麻薬中毒者について必要な医療を行う等の措置を講ずることなどにより,麻薬及び向精神薬の濫用による保健衛生上の危害を防止し,もって公共の福祉の増進を図ることを目的とする法律である。同法は,昭和28年に「麻薬取締法」という題名で制定された。昭和期においては,麻薬犯罪の増加と悪質化に対処するため,昭和38年法律第108号による改正により,ヘロインの営利目的輸入等についての法定刑の上限が無期懲役に引き上げられるなど罰則全般にわたって法定刑が引き上げられ,輸出入等についての予備罪,資金等提供罪の新設等が行われた(38年7月施行)。

平成2年法律第33号による改正により,向精神薬に関する条約(平成2年条約第7号)の批准に備えるなどの目的で,法律の題名が「麻薬及び向精神薬取締法」に改められ,新たに,睡眠薬,精神安定剤等として医療に用いられる向精神薬をも取締りの対象とすることとされ,向精神薬の取扱いについて免許・登録制度が設けられ,向精神薬の輸出入等に対する罰則が新設されるとともに,営利の目的による違反行為等を中心に麻薬についての罰金刑の上限が引き上げられた(平成2年8月施行)。

平成3年には,麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(平成4年条約第6号)(以下この節において「麻薬新条約」という。)の批准に備えるため,いわゆる麻薬二法,すなわち,麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律(平成3年法律第93号)及び麻薬特例法が制定された(いずれも4年7月施行)。このうち前者により,麻薬・向精神薬原料物質についての新たな規制,資金等提供罪の処罰範囲の拡大,麻薬の運搬の用に供した車両等への没収範囲の拡大,国外犯処罰規定の新設,麻薬の小分け罪の新設等の改正が行われた(麻薬特例法については,本項(6)参照)。

(4)あへん法

あへん法は,医療及び学術研究の用に供するあへんの供給の適正を図るため,国があへんの輸出入,収納及び売渡しを行い,併せて,けしの栽培,あへん・けしがらの譲渡し,譲受け,所持等について必要な取締りを行うことを目的とする法律で,昭和29年に制定されたものである。

平成3年法律第93号による改正により,営利の目的による違反行為等を中心とする罰金刑の上限の引上げ,資金等提供罪の処罰範囲の拡大,あへん・けしがらの運搬の用に供した車両等への没収範囲拡大,国外犯処罰規定の新設等が行われた(平成4年7月施行)。

(5)医薬品医療機器等法

医薬品医療機器等法は,医薬品等の品質,有効性・安全性の確保等のために必要な規制を行うとともに,指定薬物の規制に関する措置を講ずることなどにより,保健衛生の向上を図ることを目的とする法律で,昭和35年に制定された(平成26年11月25日前の題名は薬事法)。

いわゆる危険ドラッグ(第4編第2章第1節3項参照)に関して,指定薬物による保健衛生上の危害を防止するため,平成25年法律第103号による改正により,指定薬物の単純所持・使用等も処罰の対象とされた(平成26年4月施行)。なお,危険ドラッグ対策に関しては,同年1月からは,新たな包括指定により指定薬物の対象が拡大された上,平成27年法律第10号による関税法(昭和29年法律第61号)の改正により,同法においても,指定薬物の輸入が新たに禁止された(平成27年4月施行)。

(6)麻薬特例法

麻薬特例法は,麻薬新条約の批准に備えるため,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図ることなどを目的とする法律で,平成3年10月に成立した(4年7月施行)。同法では,業として行う不法輸入等の罪,マネー・ローンダリング(不法収益等の仮装・隠匿・収受)の罪,規制薬物としての物品の輸入等の罪及びあおり・唆しの罪を新設する規定,国際的なコントロールド・デリバリー(監視付き移転)を可能とする規定,不法収益等の必要的没収・追徴に関する規定等が設けられた。