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平成25年版 犯罪白書 第7編/第5章/第1節/2

2 外国人犯罪者等の特性に応じた犯罪防止及び社会復帰支援の課題と展望
(1)着実な不法滞在者対策の推進及び刑事司法機関・入国管理局間の連携

外国人受刑者,外国人在院者には居住資格の者が多くを占める一方,外国人受刑者では,不法滞在の者及び短期滞在の者も半数近くを占める上,その二者による犯行には,薬物密輸入事犯,営利目的の薬物所持・譲渡等事犯や態様・被害等の面で犯情の比較的重い窃盗事犯等,いわば悪質なものがより多く見られた。さらに,不法滞在及び活動資格の者の窃盗・強盗事犯については,犯罪・違法行為収益を主たる収入源とした者が7割を超え(7-3-1-3-16図参照),「職業的犯罪」に該当する比率が高い(7-3-1-3-7図参照)などの実態が把握でき,これら不法滞在者等による犯罪が,外国人犯罪の中で量的に相当の部分を占めるだけではなく,質的により深刻であることが明らかになった。

そこで,引き続き,その温床や予備軍となる不法入国や不法残留を着実に防止し,不法滞在者を積極的に摘発する取組を推し進めていくことが重要である。不法滞在の防止は,入国管理局が中核的な役割を担うものであるが,在留管理等が犯罪防止にも資する形で機能するために,刑事司法機関においても,例えば,在留資格や生活状況等に着目した統計的な情報を充実させ,犯罪の高リスク群の実態に関するフィードバックを行うなど,入国管理局との更なる連携を図ることが有効であると考えられる。

この点,特別調査では,犯罪防止に配意した在留管理に貢献し得るいくつかの手がかりが得られた。まず,外国人受刑者中,新規入国時に留学及び研修の在留資格であった者に,本件犯行時に不法残留となった者の比率が高く(7-3-1-2-3図7-3-1-2-6図参照),不法残留に陥る留学や研修の者の中に,更なる犯罪リスクを抱える一群が存在することが示唆された(ただし,このことは,来日し,留学や研修の在留資格で我が国に滞在する者一般についての不法残留や他の犯罪に陥るリスクの程度を示すものではなく,単に,不法残留に陥って受刑に至った,いわば高リスクの一群に,初めは留学や研修の在留資格であった者が多く見られると指摘できるにすぎないことには注意が必要である。)。また,外国人受刑者の窃盗・強盗事犯者に住居不定の者が2割強おり,うち,活動資格の者にあっては住居不定の者が4割強と高い比率を占めた(7-3-1-3-17図参照)。そのほか,定まった住居があっても外国人登録上の届出居住地に居住しない者(留学及び不法残留の者に多い。)には,被害が高額,犯行回数も多い窃盗事犯等が多い上,犯罪・違法行為収益で生計を立てるなど,不法滞在者とも共通する特徴が見られ,留学における学校在学といった,在留資格の根拠となっている活動をしていなかった者についても,同じ特徴が見られた。短期滞在を除く活動資格の者については,約7割が在留資格の根拠となっている活動をしていなかったとの実態も明らかになっており,留学等の在留資格を有しながら犯罪に至り,又は,不法残留に陥って犯罪に至る一群については,届出に係る場所(現行制度では入管法上の届出住居地に当たる。)に居住していない,在留の目的となる活動をしていないといった要素が犯罪リスクの一つの表れとなっていると考えられる。こうした実態を前提に,例えば,正しく住居地を届け出ない中長期在留者や,学校等を除籍・退学となり,あるいは失踪した留学生等に対しては,適宜,届出義務違反等の罰則規定を適用するほか,入国管理局において,在留資格取消制度を活用して出国を促し,また,その前段階でそれらの者を把握できるように,届出事項についての事実の調査権限を積極的に活用する(さらに,受け入れ側の学校等において,留学生等との意思疎通と在籍管理を十分に行いつつ,入国管理局への届出や報告の徹底を求めることも考えられる。)などの対策を採ることも有効であろう。

(2)居住・定住型の外国人犯罪者等に対する再犯防止・社会復帰支援策の充実

犯罪・非行を行って刑事処分や保護処分を受けた外国人の全てが退去強制されるわけではなく,外国人在院者の9割以上が居住資格で出院後も日本での在住を希望し,外国人受刑者の窃盗・強盗事犯者のうち比較的刑期が短い居住資格の出所者の約6割が国内に残った(7-3-1-3-20表参照)。また,外国人入所受刑者に占める有前科者及び再入者の割合も上昇しているほか(7-2-2-2-25図参照),外国人受刑者では,再入者の約7割が退去強制歴のない居住資格の者で(7-3-1-2-19図参照),居住資格の者の約3分の2に懲役・禁錮以上の前科があり,さらに,居住資格の再入者の約4分の1が,1年未満に再犯に及んでいる(7-3-1-2-24図参照)。少なくとも居住・定住型の者については,社会復帰を図る必要性は日本人と何ら変わりがなく,我が国への社会復帰を前提とした処遇や支援が求められ,これに適切に対処することが非常に重要である。そして,居住・定住型の外国人犯罪者については,以下に述べるように,日本人と同様の,あるいは日本人にはさほど見られない犯罪・再犯リスク要因等が認められ,処分終了後を見据え,これらに対応した対策の充実が肝要である。これらの者は刑務所出所者等の処遇・支援の取組だけではなく,定住外国人支援の取組の対象となり得ることから,それらを活用し,又は活用に向けて関係機関・団体と連携することにより,それぞれの取組の中で,これらの者が単に,外国人あるいは刑務所出所者等だからという理由で,必要な支援から実質的に取り残されないように留意するべきである。


ア 就労に向けた指導・支援

外国人犯罪者・非行少年については,就労や経済状況に課題が見られる。まず,外国人少年の保護観察対象者の大半が居住・定住型であると考えられるが,これらの者は,日本人少年の保護観察対象者と比べて家庭の経済状況が貧困である者の比率(7-2-2-2-22図参照)や,無職の比率が高く(7-2-2-2-23図参照),この特徴は外国人在院者でも見られた(7-3-2-4-3図7-3-2-4-8図参照)。

また,外国人受刑者については,日本人と同様,財産犯の場合に無職の比率が高く,職に就いていないことが財産犯にとっての一定の犯罪リスクとなっていることがうかがわれたものの,財産犯の場合でも日本人より有職率は高く(7-3-1-2-14図参照),外国人少年とは一見異なる結果となった。ただし,このうち窃盗・強盗事犯者の有職者の半数近くが正業収入を主たる収入源としておらず,就労の安定に課題のある状況がうかがわれたほか,居住資格の者の場合は,扶養・援助や生活保護等を主たる収入源としていた者が4割弱と目立つ。

さらに,居住資格の者が大きな部分を占めると考えられる来日外国人の有前科等の受刑者(特別調査によれば,有前科者又は再入者の外国人受刑者の約3分の2が居住資格の者である。)全体の有職率は,日本人の有前科等の受刑者より若干高いものの,29歳以下の若年層では,日本人より低い上,来日外国人の30〜40歳代よりも低い(7-2-2-2-27図参照)など,若年層の就労に課題が見られる。

これらに加え,外国人受刑者については,日本人に比べて20歳代が非常に多く見られた(7-3-1-2-2図参照)ことも併せ考えると,特に少年及び若年層に対する就労支援を充実させる必要性が認められる。この点,外国人在院者では,少年院での職業補導を通じて多くが資格取得に至っており,一定の成果が上がっているが,日本での就職を希望しても,就職決定率が日本人に比べて低い実情がうかがわれ,就労支援における課題が垣間見られた。就職に役立つ職業訓練や職業補導に加え,就職の前提条件ともなり得る日本語能力,基礎学力,社会適応能力等の基本的なスキルを身に付けるための指導等を実施したり,就労に当たって十分な意欲と能力を有する者についてはハローワークと連携して就労支援を実施したり,あるいは,関係省庁・地方公共団体や地域社会の定住外国人に対する就労支援活動と連携することも有効であろう。


イ 基礎学力及び日本語能力の向上の取組

基礎学力や日本語能力は,我が国で安定した就労を確保するために必要であるほか,日本語能力は,学力向上や我が国で安定した社会生活を送るためにも必要である。しかし,少年の保護観察対象者,外国人在院者,有前科等の入所受刑者,居住資格の外国人受刑者のいずれの教育程度を見ても,日本人ではほとんど見られない,中学未修了,つまり,我が国でいう義務教育レベルの教育を修了していない層が1割前後もおり,さらに,外国人受刑者では再入者の方がその比率が高いなど(7-2-2-2-24図7-2-2-2-26図7-3-1-2-22図7-3-2-4-6図参照),教育程度の低さが犯罪リスク要因になっていることがうかがわれる。これらの者については,施設内及び社会内において,基礎学力を身に付けるための教育・学習の充実が必要である。

また,日本語能力では,外国人在院者の場合,日常会話程度であれば可能な者の比率は高いが,日本出生や低年齢での来日少年であっても,日本語以外を日常の使用言語とする者が少なからずいるほか,全般に少年院での日本語教育等を通じて日本語能力の向上が見られたが,高校期等の比較的高い年齢での来日には,処遇を経た出院時でも課題が残りやすい傾向が見られた(7-3-2-4-4図7-3-2-4-5図7-3-2-5-3図参照)。また,外国人在院者については,教育程度の低さと日本語能力の低さに関連が見られた(7-3-2-4-7図参照)。さらに,保護者の日本語能力が良好ではない点も,少年の社会復帰を図る上で問題をはらんでいる(7-3-2-4-2図参照)。外国人受刑者については,窃盗・強盗事犯者は,居住資格の者でも会話では約半数に難があり,読み書きは約2割ができない又はほとんどできない上,難ありの者を加えると約6割に及ぶなど,総じて日本語能力は低い(7-3-1-3-18図参照)。

少年院での処遇,とりわけ日本語教育は,外国人在院者の日本語能力の向上等の成果を上げており,基礎学力向上のための取組と合わせて更なる充実が期待される。刑事施設においても,居住・定住型の受刑者に対しては,施設内での生活の便宜の向上にとどまらず,円滑な社会復帰を目指す見地から,少年院での日本語教育等を参考に教育的な指導の充実を図るべきであろう。さらに,社会内においては,定住外国人を対象とする,関係省庁,地域社会等による就学支援,日本語や基礎学力向上のための学習支援活動等との連携を模索するべきである。地域社会の取組との連携は保護者の日本語能力から派生する課題に対処する上でも有効な方策ともなり得る。


ウ 不良交友等からの離脱の指導・支援

外国人受刑者・外国人在院者共に共犯率が相当に高く(7-3-1-2-12図7-3-2-3-3図参照),外国人受刑者で窃盗・強盗の者では不良集団等に関係する者が約4割(ただし,居住資格の者に比較的少ない。),外国人在院者では約6割を占めた(7-3-2-3-5図参照)。さらに,外国人在院者については,共犯者が不良集団関係の者である比率が日本人と比べても高かった。不良集団等との関係が,とりわけ外国人少年について犯罪リスク要因となっていることがうかがわれ,特に社会内処遇及びこれに移行する段階において,不良交友等からの離脱に向けた指導・支援が重要である。


エ 窃盗,覚せい剤事犯者等の問題性に応じた指導

外国人受刑者の居住資格の者のうち,窃盗の者の約7割,覚せい剤使用・所持・譲渡等事犯の者の約6割は同一の罪名による前科があり,窃盗や覚せい剤事犯は,日本人同様,同種再犯リスクが高いことがうかがわれ,これらの者に対しては,日本人と同様,その者の問題性に即した,窃盗防止指導や覚せい剤再犯防止指導等の再犯防止プログラム等を実施する必要性が高い。他方,そのような指導等を受ける前提条件として,対象となる外国人受刑者の基礎学力や読み書きを含めた日本語能力を高めることが必要となる。


オ 地域社会における相互理解や共生に向けた努力

再犯を防止し,円滑な社会復帰を実現するには,刑務所出所者等の改善更生意欲と努力が不可欠であるのは当然であるとしても,それだけでは十分でなく,地域社会の理解と受入れが重要な鍵となることはこれまで犯罪白書で繰り返し述べてきたとおりであり,我が国社会の構成員として生活する居住・定住型の外国人の刑務所出所者等についてもこの点変わることはない。これらの者には,いわゆる外国人集住地域に居住する者も相当数いると思われるが,彼らの身近にいて支える同国人コミュニティの構成員としてだけではなく,より広い文脈での地域社会に貢献し得る構成員として生活を送ることは再犯防止を図る上でも望ましい。そのための基盤となる相互理解を構築するに当たり,本人の地域社会への参加意欲と共に,地域で取組が進む定住外国人との共生や多文化共生の取組等の推進が適切な役割を果たすことが期待される。

(3)在留見込みに応じた矯正処遇と国際受刑者移送の活用

矯正施設においては,刑事施設,少年院共に,日本人と異なる処遇を必要とする者への配慮の充実を図ってきており(本編第4章第3節参照),施設内における配慮という面においては既に一定の成果を上げているものといえる。ただし,今後も,出所等の後に国内に居住する者の比重が増すことが想定されるところであり,国内に残る者と国外退去となる者の違いに配意し,生活環境調整を行う保護観察所のみならず,入国管理局ともよく連携して,我が国での在留継続が見込まれる場合には,日本人と同様に,前記のような日本社会に復帰することを前提とした矯正処遇等を行う必要があろう。

これに対し,我が国に生活の本拠を置かず,退去強制されることが確実である受刑者に関しては,本来,その者の生活の拠点に戻して受刑させることが本国での円滑な社会復帰に役立つと考えられる。二国間又は多国間の国際受刑者移送条約に基づき,先進国を中心とするいくつかの国との間では国際受刑者移送が着実に実施されている(7-4-2-8図参照)。もっとも,我が国で受刑する外国人の国籍の多くを占める複数の国との間では,条約が締結されていない。国際受刑者移送の趣旨や効果に照らせば,これを実施することには大いに意義があるところであり,条約未締結国については条約締結の必要性を検討し,締約国に関しては,引き続き,国際受刑者移送の着実な実施をすべく,柔軟かつ確実な運用と締約国との協力の推進が望まれる。