外国人の我が国への新規入国者数は,最近20年間で大幅に増加し(7-2-1-1-2図参照),在留外国人の数も平成の初め頃から大幅に増加し,平成17年以降は200万人を超えている(7-2-1-1-3図参照)。在留者の在留の資格は,かつては最も多かった特別永住者に代わって永住者が最大多数を占めるようになり,これに定住者や日本人の配偶者等,永住者の配偶者等を加えた居住資格の者が半数近くに及ぶなど,居住・定住型の在留者が人員,比率共に大幅に増加・上昇している(7-2-1-1-7図参照)。一方,国内の景気低迷や国内外の雇用情勢の変化による影響のほか,不法滞在者の削減に向けた各種の対策の効果もあって,不法残留者の数は大きく減少した(7-2-1-1-8図参照)。
これに対し,来日外国人による犯罪は,新規入国者や在留者の増加に呼応することなく,10年前頃をピークに減少を続けており,この傾向は,検挙段階だけではなく,比較的犯情の重い者が対象となる刑事施設入所段階でより明確にうかがえる。また,罪名については,全般に窃盗が最も多く,受刑者では覚せい剤を中心とする薬物事犯も多くを占める(7-2-2-2-3図,7-2-2-2-12表,7-2-2-2-17図,7-2-2-2-19図,7-2-2-2-20図参照)など,我が国における犯罪全体の特徴と主要な部分は共通する。これらのことから,我が国では,グローバル化の進展にもかかわらず,来日し,在留する外国人による犯罪情勢の悪化は招いていないと認められる。
視点を変えて,我が国の犯罪情勢における外国人犯罪者の位置付けを見ると,一般刑法犯総検挙人員に占める来日外国人比が,来日外国人による犯罪がピークを迎えた10年前頃以降もほぼ変わらず,2%程度を維持している(7-2-2-2-2図参照)など,外国人犯罪者の比重が大きく下がったとまではいえず,その刑事政策における対策の必要性が低減したというべき状況にはない。
これを踏まえて最近の外国人犯罪者の特徴を考慮した対策の方向性を探るため,その在留資格等に目を向けると,来日外国人の一般刑法犯検挙人員中,不法滞在者の占める割合が低下し,平成20年以降は正規滞在者が9割以上を占め,中でも日本人の配偶者等といった居住資格の者の占める割合が大きいこと(7-2-2-2-4図参照),法務総合研究所による外国人入所受刑者及び外国人在院者の特別調査(本編第3章参照。調査対象者を,以下それぞれ「外国人受刑者」及び「外国人在院者」という。)によれば,外国人受刑者の半数近く,外国人在院者のほとんどが永住者を含む居住資格の者であり(7-3-1-2-4図,7-3-2-2-1表参照),これらの者の相当部分が出所・出院後も退去強制されていないこと(7-3-1-3-20表,7-3-2-5-5図参照)が挙げられる。正規の在留資格を有する居住・定住型以外の者に関しては,外国人受刑者中,不法滞在者が約3割を占めること(7-3-1-2-4図参照),1割強を占める短期滞在の者の約8割が薬物密輸入事犯(そのほとんどに組織犯罪性がうかがわれた。)であり,同事犯の6割強を占めること(7-3-1-2-7図,7-3-1-2-15図参照)等の特徴がある。
そこで,近年大きな比重を占める居住資格を有する居住・定住型の外国人による犯罪に着目すると,その情勢はさほど深刻なものでないと考えられる。すなわち,例えば,居住資格の者による犯罪については,まず,窃盗が最も多く,罪名・非行名の構成においても,強盗の割合がある程度高いことなどを除いては,おおむね日本人と類似の傾向にある(7-3-1-2-7図,7-3-2-3-1図参照)。また,外国人受刑者の薬物犯の内訳を見ると,居住資格の者では使用・所持・譲渡等の罪が6割強を占め,ほとんどが密輸入,営利目的所持・譲渡等の罪といった悪質事犯が占める短期滞在や不法入国の者とは対照的である(7-3-1-2-15図参照)。さらに,窃盗・強盗事犯者では,留学等の活動資格や不法滞在の者に侵入盗が多いのに対し,居住資格の者には万引きが多く(7-3-1-3-3図参照),不法滞在の者の犯行では,窃盗・強盗の「犯罪事実数」が5個以上の多数の比率が高く,被害額も多い傾向があった上,「職業的犯罪」に該当する者の比率も高かったのに対し,居住資格の者では,「犯罪事実数」が1個の比率が高く,被害額も少ない傾向にあった(7-3-1-3-4図,7-3-1-3-7図参照)などの差異が見られ,不法滞在の者による犯行の方が居住資格の者の犯行よりも,態様や被害等の面で悪質なものが多いことがうかがわれたのである。
ただし,外国人犯罪者の特徴や居住資格を有する者を含むこれらの者の犯罪リスクは,世界の経済情勢を含む様々な状況の変化によって変動し得ると考えられるところ,継続的にその実態を把握して有効な対策を実施する必要性がある。なお,この点,現状では「来日外国人」又は「外国人」という類型以外の統計資料はほとんどなく,例えば,永住者による犯罪の実態は,特別調査結果を除いてはほとんど把握できない点に課題がある。また,外国人受刑者に再入者が相当数含まれ,多くが居住資格の者である(7-3-1-2-19図参照)ことから,とりわけ居住・定住型の外国人の犯罪対策にあっては,再犯防止及び我が国社会への社会復帰の視点も重要となってくる。