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平成25年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/3

3 窃盗及び強盗事犯者

この項では,我が国において比較的長く生活する外国人が犯す典型的な犯罪である窃盗・強盗に着目することとし,調査対象者のうち,主たる罪名が窃盗及び強盗の者(以下「窃盗・強盗事犯者」という。)について分析する。なお,総数が263人と少ないため,在留資格等については,基本的に「居住資格」,「活動資格」,「不法滞在」の類型ごとに分析する。

(1)属性及び主たる犯行の内容等

ア 在留資格等・国籍・犯行手口等

7-3-1-3-1表は,窃盗・強盗事犯者の在留資格等別人員及びこれと国籍等の関係を見たものである。居住資格が134人で最も多く,次いで,不法滞在,活動資格の順であった(同表<1>)。国籍等では中国が最も多く,次いで,ベトナム,ブラジルの順であった。国籍等と在留資格等の関係を見ると,中国に留学等の活動資格の比率が高く,ブラジルに居住資格の比率が高い(同表<2>)。


7-3-1-3-1表 窃盗・強盗事犯者 在留資格等別・国籍等別人員
7-3-1-3-1表 窃盗・強盗事犯者 在留資格等別・国籍等別人員
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窃盗・強盗事犯者の主たる犯行の手口(以下この項において「犯行手口」という。)は,7-3-1-3-2表のとおりである。犯行手口では,侵入盗及び万引きが顕著に多い。


7-3-1-3-2表 窃盗・強盗事犯者 犯行手口別人員
7-3-1-3-2表 窃盗・強盗事犯者 犯行手口別人員
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窃盗・強盗事犯者の犯行手口別の在留資格等は,7-3-1-3-3図のとおりである。侵入盗は,他の犯行手口と比べ,不法滞在及び活動資格の占める割合が比較的高いが,居住資格の割合は比較的低い。一方,万引きに占める居住資格の割合は約8割であり,他の犯行手口と比べて高い。


7-3-1-3-3図 犯行手口 在留資格等別構成比
7-3-1-3-3図 犯行手口 在留資格等別構成比
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イ 窃盗・強盗の犯罪事実数

7-3-1-3-4図は,窃盗・強盗事犯者について,本件犯行のうち窃盗又は強盗の犯罪事実の数(以下「犯罪事実数」という。)を見るとともに,これを犯行手口及び在留資格等別に見たものである。なお,82.9%の者において,犯罪事実数にかかわらず,いずれの犯行における手口も主たる犯行の手口と同一であった。


7-3-1-3-4図 犯罪事実数別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
7-3-1-3-4図 犯罪事実数別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
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犯罪事実数が1個の者が92人(35.0%)と最も多いが,5個以上の者も3割を超えている(35.7%)。犯行手口及び在留資格等のそれぞれと犯罪事実数の関係を見ると,犯罪事実数が1個の者は,犯行手口では万引き,在留資格等では居住資格の者に多く,犯罪事実数が5個以上の者は,犯行手口では侵入盗,在留資格等では不法滞在の者に多い。


ウ 主たる犯行の犯行場所と居住地の関係

7-3-1-3-5図は,窃盗・強盗事犯者について,主たる犯行の犯行場所と居住地の関係を見るとともに,これを犯行手口及び在留資格等別に見たものである。犯行手口との関係を見ると,万引きにおいては,犯行場所が居住地と同一市区町村内である者は約3分の1であり,車両関連盗の場合,同一市区町村以外の同一都道府県である者,侵入強盗では居住地の隣接都道府県である者がいずれも5割程度であった。また,侵入盗については,住居不定の者の割合が3割となっており,他の犯行手口と比べて高い(同図<1>)。在留資格等との関係では,居住資格の者においては,居住地と同一市区町村内での犯行が約3割であり,活動資格の者や不法滞在の者に比べて,顕著に高い(同図<2>)。


7-3-1-3-5図 主たる犯行の犯行場所別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
7-3-1-3-5図 主たる犯行の犯行場所別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
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エ 動機等

7-3-1-3-6図は,主たる犯行の動機等(動機不明の者を除き,複数の項目に該当する場合はそれぞれに計上)を類型化して示したものである。


7-3-1-3-6図 犯行の動機等
7-3-1-3-6図 犯行の動機等
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「職業的犯罪」に該当する者が123人と多い。「職業的犯罪」に該当する者について,それ以外の者と対比させながら,犯行手口,在留資格等との関係を見ると,7-3-1-3-7図のとおりである。犯行手口との関係では,「職業的犯罪」に該当する者は,それ以外の者と比べて,侵入盗の割合が約6割と高く,万引き及び侵入強盗が低かった。在留資格等との関係では,「職業的犯罪」に該当する者は,不法滞在の割合が約4割と顕著に高い。窃盗・強盗事犯者全体の在留資格等の構成(7-3-1-3-1表<1>)と比較すると,「職業的犯罪」に該当する者の割合は,不法滞在及び活動資格の者についてはそれぞれ高く,居住資格の者については低かった。


7-3-1-3-7図 職業的犯罪該当の有無別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
7-3-1-3-7図 職業的犯罪該当の有無別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
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なお,次に該当する者の多かった,「生活困窮」については,在留資格等及び犯行手口との関係は見出せなかった。

(2)被害

ア 被害者

窃盗・強盗事犯者と主たる犯行の被害者の関係(被害者が複数であるため,複数の項目に該当する場合は,それぞれに計上)を見ると,被害者との面識がない場合が多く(152件,57.8%),店舗・法人等(105件,39.9%)がそれに次ぐ。また,被害者が店舗・法人等の者ではない日本人の場合が155件(58.9%)であり,窃盗・強盗事犯者の同国人及びそれ以外の外国人が被害者の場合は合わせて8件(3.0%)にすぎなかった。

なお,主たる罪名が強盗致傷・致死(強盗強姦を含む。)の者は21人であり,被害者の受傷等の身体的被害の程度(被害者が複数いる場合,最も重いものに計上)は,加療1か月未満の被害を生じさせた者が10人,1か月以上の被害を生じさせた者が10人,死亡させた者が1人であった。


イ 被害品

窃盗・強盗事犯者について,主たる犯行の被害品(複数に該当する場合はそれぞれに計上)を見たのが7-3-1-3-8図である。被害品に現金を含む者が最も多く,全体の半数に及ぶ。その他では,被害品に貴金属等を含む者が多い。


7-3-1-3-8図 主たる犯行の被害品
7-3-1-3-8図 主たる犯行の被害品
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犯行手口との関係では,侵入盗の場合は,被害額にかかわらず,現金,身分証明書,カ−ド類,預金通帳,パソコン,貴金属等が被害の対象となっているが,万引きの場合,被害額1万円未満には食料品類を対象にしたものが多く,10万円以上の高額の万引きの場合,化粧品類を対象としたものが多かった。


ウ 被害額

7-3-1-3-9図は,窃盗・強盗事犯者について,本件犯行のうち財産犯(窃盗,強盗,詐欺,恐喝及び背任・横領)による被害及び主たる犯行による被害の被害額別構成比を見たものである。


7-3-1-3-9図 被害額別構成比(全財産犯被害・主たる犯行の財産犯被害)
7-3-1-3-9図 被害額別構成比(全財産犯被害・主たる犯行の財産犯被害)
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窃盗・強盗事犯者の全ての財産犯の被害総額と犯罪事実数との関係を見たところ,被害総額の大きい者ほど犯罪事実数も多いという関係が認められた。

次に,窃盗・強盗事犯者について,最も犯情の重い犯行である主たる犯行による被害額のみに着目して犯罪事実数との関係を見ると7-3-1-3-10図のとおりであり,主たる犯行の被害額が大きい者ほど,犯罪事実数が多いという傾向が,緩やかながら認められた。


7-3-1-3-10図 主たる犯行の被害額 犯罪事実数別構成比
7-3-1-3-10図 主たる犯行の被害額 犯罪事実数別構成比
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7-3-1-3-11図は,主たる犯行の被害額と犯行手口との関係を見たものである。被害額が小さいものでは,万引きが高い割合を占め,被害額が大きくなるにつれて,侵入盗の割合が高くなる傾向がある。主たる犯行の被害額で10万円未満の者と100万円以上の者がそれぞれ4割を占めていたが(7-3-1-3-9図参照),10万円未満の被害額の者に万引きが多く,100万円以上の被害額の者に侵入盗が多い。なお,被害額が100万円以上500万円未満の中で車両関連盗が2割強と,全体の構成から見て高い比率を占めるが,車両関連盗の半数近くが自動車盗であり(7-3-1-3-2表参照),その場合の被害品(自動車等)の単価によるものと思われる。


7-3-1-3-11図 主たる犯行の被害額 犯行手口別構成比
7-3-1-3-11図 主たる犯行の被害額 犯行手口別構成比
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エ 被害の回復

7-3-1-3-12図は,窃盗・強盗事犯者の主たる犯行において財産的被害を発生させた255人について,主たる犯行の財産的被害の回復状況を見るとともに,これを犯行手口別に見たものである。「全額回復等」(確実に回復見込みの場合を含む。以下この節において同じ。)の者は4割弱であり,約6割については「回復未了」(一部のみ回復した者を含む。以下本編において同じ。)である。


7-3-1-3-12図 主たる犯行の被害回復状況(犯行手口別)
7-3-1-3-12図 主たる犯行の被害回復状況(犯行手口別)
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犯行手口別に見ると,万引きでは,8割で被害が全額回復等されているものの,そのうち約8割は,現行犯の事案で被害が直ちに回復される場合や捜査機関による被害品の発見・押収・還付等により被害品が被害者に返還された場合(これらの場合における回復方法を以下この項において「被害品還付等」という。)にすぎず,本人・家族等や共犯者による弁償がなされたのは16%程度にすぎなかった。侵入盗では,全額回復等は約1割にとどまり,9割弱が回復未了となっている。侵入盗の回復未了のうち,約8割に被害の一部の回復が見られるものの,そのうち半数近くは被害品還付等のみによる回復である。また,侵入強盗及び車両関連盗の場合,何ら被害が回復されていないものの比率が他の犯行手口よりも高い。

7-3-1-3-13図は,主たる犯行の財産的被害の回復状況を主たる犯行の被害額別に見たものである。被害額が10万円未満の場合,全額回復等が約7割で,そのうち6割以上は被害品還付等のみによる回復である。全額回復等は,被害額が10万円以上50万円未満だと約3割と低くなり,500万円以上になると皆無である。


7-3-1-3-13図 主たる犯行の被害回復状況(被害額別)
7-3-1-3-13図 主たる犯行の被害回復状況(被害額別)
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犯行手口と被害額の組合せによる回復状況の特徴を詳細に見ると,被害額が100万円以上の侵入盗(69人)の者については,全額回復等は2人と少なく,何ら回復がない者は10人と多い。残りの57人は一部のみの回復であり,その半数弱の25人は被害品還付等のみによる回復であった。また,被害額10万円未満の万引き(57人)では,全額回復等の者が約86%と多いが,そのうち約8割が被害品還付等のみによる回復であった。

以上は,主たる犯行の被害に限った被害回復状況であるが,窃盗・強盗事犯者による全ての財産的被害の回復状況を見ると,当然のことながら,全額回復等の割合は低くなり,31.7%であった。


オ 被害品奪取後の処分状況

7-3-1-3-14図は,窃盗・強盗事犯者の主たる犯行において財産的被害を発生させた255人について,主たる犯行の被害品の処分状況等(複数の項目に該当する場合は重複計上)を見たものである。主たる犯行の被害品は,犯行後,多くの者(120人)が「使用・消費」しており,次いで,「売却・換金」(85人),「本人・共犯者等が保管」(65人),「犯行後直ちに押収」(58人)の順に多い。犯行手口が侵入盗の者は,「使用・消費」(77人,同処分方法該当者の64.2%),「売却・換金」(62人,同72.9%)及び「本人・共犯者等が保管」(43人,同66.2%)のいずれの処分方法該当者の中でも高比率を占め,主たる犯行の被害額も100万円以上の高額が多い。一方,犯行後被害品が直ちに押収された場合のほとんどが万引き(51人,同87.9%)であり,その被害額も10万円未満であった。


7-3-1-3-14図 主たる犯行 被害品処分状況等
7-3-1-3-14図 主たる犯行 被害品処分状況等
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なお,被害品の処分方法と被害回復状況の関係を見ると,「使用・消費」,「売却・換金」及び「本人・共犯者等が保管」に該当する場合は,それぞれ8ないし9割が回復未了となっている。

(3)本件犯行等に伴う国際的・越境的要素

外国人犯罪者による犯罪については,本人の国籍等のみならず,犯行準備,犯行及び犯罪収益の処分等の各場面において,国境を越え,又は性質上国境を越えやすい要素を含む場合がある。7-3-1-3-15図は,窃盗・強盗事犯者について,犯罪収益等の海外送金といった国境を越える要素を含むものや,サイバースペースの利用やブローカーの介在といった必ずしも国境を越えるわけではないが,その性質上,国境を越えやすい要素を含むものの数(複数の項目に該当する場合はそれぞれに計上)を見たものである。


7-3-1-3-15図 国際的・越境的要素の有無
7-3-1-3-15図 国際的・越境的要素の有無
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これらのうち,主たる犯行の犯行準備,犯行に関し,又は,その犯罪収益等の隠匿や処分として本国等の海外に何らかの方法で送金があった者(「海外送金」)39人について,本件犯行による財産的被害の回復の有無を見たところ,回復未了の割合が9割近くに及び,海外送金がない者に比べて明らかに高かった。

なお,窃盗・強盗事犯者263人中,裁判で提出された証拠の中に,外国政府による協力を通じて収集された証拠が存することを確認できた事件の被告人であった者は5人であった。

(4)その他の背景事情等

ア 犯行時の収入源

7-3-1-3-16図は,窃盗・強盗事犯者の本件犯行時の主たる収入源を見るとともに,これを犯行手口及び在留資格等別に見たものである。総数では,犯罪・違法行為収益の者の比率が半数近くを占めて最も高く,次いで,扶養や援助を受けていた者であり,正業収入の者は約13%にとどまる。


7-3-1-3-16図 本件犯行時の主たる収入源別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
7-3-1-3-16図 本件犯行時の主たる収入源別構成比(犯行手口別・在留資格等別)
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犯行手口別に見ると,侵入盗で,犯罪・違法行為収益の割合が非常に高い(80.0%)。万引き以外の他の犯行手口でも,犯罪・違法行為収益が最も高い構成比となっているが,万引きでは,犯罪・違法行為収益の割合は17.1%にとどまり,被扶養・援助の割合が最も高く(28.6%),正業収入及び生活保護等の社会保障を主たる収入源としていた者の割合も高い(各20.0%)。

在留資格等別に見ると,活動資格及び不法滞在では,犯罪・違法行為収益の者の比率がいずれも7割を超えて高く,正業収入の者の比率はそれぞれ2.3%,3.6%と極めて低かった。居住資格では,犯罪・違法行為収益の者の比率が最も高い(24.6%)ものの,他の在留資格等と比べると低く,被扶養・援助及び正業収入の者の比率がそれぞれ2割程度と高い。また,生活保護等社会保障の者の比率が14%を超えていた。

そのほか,主たる犯行の被害額と主たる収入源の関係を見ると,被害額が100万円以上の場合,犯罪・違法行為収益の者の割合が高く(78.6%),10万円未満の場合,生活保護等社会保障の者の割合が他に比較して高い(19.0%)。


イ 犯行時の居住・活動状況

窃盗・強盗事犯者の本件犯行当時における居住状況について,調査が可能であった260人について見ると,住居不定の者が60人,定まった住居はあったが外国人登録がない者が31人であった。それ以外の169人中,登録上の届出居住地と異なる場所に居住していた者が58人と約3割であった。この169人及び住居不定の者を合わせた228人について,在留資格等との関係を見ると,7-3-1-3-17図のとおりである。活動資格の者に住居不定及び主たる犯行時の届出居住地と異なる場所に居住していた者の割合が高いのに対して,居住資格の者に主たる犯行時の届出居住地に居住していた者の比率が高い。


7-3-1-3-17図 犯行時の居住状況別構成比(在留資格等別)
7-3-1-3-17図 犯行時の居住状況別構成比(在留資格等別)
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在留資格等との関係を更に詳しく見ると,留学及び不法残留の者に,外国人登録上の届出居住地と異なる場所に居住していた者が多かったのに対し,永住者及び定住者には,届出居住地に居住していた者が多かった。

なお,外国人登録上の届出居住地と異なる居住地に居住していた者は,届出居住地に居住していた者に比べると,犯罪事実数及び主たる犯行の被害額が多く,また,犯罪・違法行為収益によって生活していた者が多かった。

次に,本件犯行当時,住居不定であった60人について見ると,活動資格の者に多く,居住資格の者に少なかった。犯行手口との関係では,侵入盗の者に多く,万引きの者に少なかった。また,住居不定者には,犯罪・違法行為収益により生計を立てている者が多かった。

また,窃盗・強盗事犯者の活動資格の者44人のうち短期滞在の16人を除く28人について,本件犯行当時,例えば,留学の在留資格における留学先の学校在学といった,在留資格に係る活動を行っていたかを見ると,約7割に当たる19人が在留資格に係る活動を行っておらず,最も多い留学の者では,25人中16人が本件犯行当時,資格に係る活動をしていなかった。これらの者については,資格に係る活動をしていた者に比べると,犯罪事実数が多く,また,犯罪・違法行為収益によって生活していた者が多かった。


ウ 不良集団・犯罪組織等への帰属

窃盗・強盗事犯者のうち,全体の約40%に当たる102人については,不良集団,犯罪集団又は犯罪組織に属し,又は関与する者であった。これに該当する者を在留資格等で見ると,居住資格に少なく,活動資格及び不法滞在で多かった。また,犯行手口では,侵入盗に多かった。


エ 日本語能力

7-3-1-3-18図は,窃盗・強盗事犯者の日本語による日常会話及び読み書きの能力を見るとともに,これを在留資格等別に見たものである。活動資格及び不法滞在の者に日常会話も読み書きもできない者又は難がある者が多いが,居住資格の者でも,日常会話ができない者又は日常会話に難がある者が半数以上に及び,読み書きについてはできない者又はほとんどできない者が約2割もいる上に,難がある者も加えると約3分の2にも上る。居住資格の者については,出所後も退去強制とならず我が国に残る場合も少なくなく(後記(5)イ参照),日本社会で暮らすことになるこれらの者にとって,日本語の日常会話や読み書きは,社会生活や就労等の各場面において必要となると思われ,その円滑な社会復帰に向けては,読み書きを含めた日本語能力を高める必要が示唆される。


7-3-1-3-18図 窃盗・強盗事犯者の日本語能力別構成比
7-3-1-3-18図 窃盗・強盗事犯者の日本語能力別構成比
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(5)帰住先等

ア 帰住先に関する希望

窃盗・強盗事犯者が刑事施設に申告した出所時の帰住先に関する希望について,総数とともに在留資格等別に見ると,7-3-1-3-19図のとおりである。活動資格及び不法滞在の者に母国への送還を希望する者の比率が高く,それぞれ8割強及び7割強であった。一方,居住資格の者については,日本国内での在住の継続を希望する者が8割近くと高い。


7-3-1-3-19図 在留資格等別 帰住先の希望別構成比
7-3-1-3-19図 在留資格等別 帰住先の希望別構成比
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イ 出所後の帰住先

窃盗・強盗事犯者263人中106人が調査中に出所した。これらの者のうち,帰住先が判明した105人について刑事施設に申告していた帰住先に関する希望と実際の帰住先の関係を在留資格等別に見たのが7-3-1-3-20表である。これらの者は,受刑等により退去強制事由に該当する場合が多いが,その一方で,40人(在留特別許可を受けた26人を含む。)が国内在住となっており,これは出所した者の4割弱であった。居住資格では約6割が国内在住となった。ただし,調査対象者中,出所した者の平均刑期は約1年9月であるのに対し,在所している者(無期刑の者を除く。)の平均刑期は約4年5月であり,刑期の長短が顕著に異なることから,外国人受刑者全体の出所に係る傾向とは異なる可能性がある。


7-3-1-3-20表 在留資格等別 帰住先に関する希望と実際の帰住先別人員
7-3-1-3-20表 在留資格等別 帰住先に関する希望と実際の帰住先別人員
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前記調査対象者の帰住先を犯行手口別で見たのが7-3-1-3-21表である。侵入盗の36人は,26人が母国への送還を希望し,出所時に入国管理局へ引渡しとなり,国内在住を希望した8人のうち3人が国内在住となった。万引きの50人は,約8割の41人が国内在住を希望し,32人が国内在住となったが,そのうち19人は在留特別許可によるものであった。


7-3-1-3-21表 犯行手口別 帰住先に関する希望と実際の帰住先別人員
7-3-1-3-21表 犯行手口別 帰住先に関する希望と実際の帰住先別人員
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なお,調査対象者中,出所した者について比較すると,入国管理局へ引渡しになった者の平均刑期が約2年であるのに対し,国内在住となった者の平均刑期は約1年4月であった。