令和4年は、刑法犯の認知件数が20年ぶりに前年から増加したが、このコラムでは、令和4年版犯罪白書に掲載した同様のコラムに引き続き、刑法犯以外も含めた我が国における犯罪の全体像を把握するための試みを継続していく。
まず、(ア)刑法犯、(イ)危険運転致死傷・過失運転致死傷等、(ウ)特別法犯(交通法令違反を除く。)及び(エ)交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)について、横並びにして比較すべく、それぞれの検挙件数の合計を見ることとし、警察以外により検挙されたものも含め、令和4年における司法警察職員による上記(ア)ないし(エ)の検挙件数及び構成比を見ると、図1のとおりである。いずれの検挙件数も、4年は前年から減少しており、各構成比は前年とほぼ同じである(CD-ROM参照)。
次に、我が国における犯罪の全体像をできる限り把握するため、検挙には至らなかった犯罪についても考慮すべく、(ア)刑法犯については、警察による認知件数を、(イ)危険運転致死傷・過失運転致死傷等については、人身事故件数を、(ウ)特別法犯(交通法令違反を除く。)及び(エ)交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)については検挙件数を、それぞれ用いて合算したところ、図2のとおりである。図2は厳密には概念が一致しない数値を合算した図であることに留意しつつ、飽くまで検挙に至らなかった犯罪の存在をイメージするものであるとの前提でこれを見ると、前年と比べて増加したのは、刑法犯の認知件数のみであるが、合算値は前年を上回っており、全体として犯罪の脅威が大きくなっていることが懸念される(CD-ROM参照)。
以上は、警察等の司法警察職員が把握した犯罪であり、さらには、被害者が犯罪被害に遭いながらも、警察等への届出等を行わなかったいわゆる暗数の存在についても留意が必要であり、我が国における犯罪の脅威は、これらをも総合して考える必要がある。
また、図3のとおり、例えば、令和4年における児童虐待に係る事件、配偶者からの暴力事案等、サイバー犯罪、特殊詐欺、大麻取締法違反及び危険運転致死傷の検挙件数については、増加傾向又は高止まり状態が継続し、特にサイバー犯罪や特殊詐欺などの比較的新しい犯罪類型の件数が前年よりも増加している。ここで取り上げた以外にも、例えば強制性交等の認知件数は前年より大きく増加するなど(本章第2節2項参照)、個別の犯罪類型ごとに見ても、我が国における犯罪情勢がいまだ決して安心できる状況にはないことが分かる。
我が国の犯罪情勢については、以上のとおり幾つかの留意すべき点があり、その動向について、引き続き様々な角度から注視していく必要がある。
注 図1 (1)法務総合研究所が資料を入手し得た数値で作成した(詳細はCD-ROM参照)。(2)警察庁の統計、警察庁交通局の統計、厚生労働省医薬・生活衛生局の資料、厚生労働省労働基準局の資料、経済産業省商務情報政策局産業保安グループの資料、国土交通省海事局の資料、海上保安庁の資料、水産庁資源管理部の資料及び法務省矯正局の資料による。(3)水産庁資源管理部の資料による検挙件数は、令和3年の数値である。(4)交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)の検挙件数は、送致件数を計上している。(5)警察以外による検挙件数は、漁業監督官(吏員)によるものを除き、送致件数を計上している。(6)罪種が不詳のものは、刑法犯に計上している。
図2 (1)危険運転致死傷・過失運転致死傷等については、刑法犯における警察による認知件数におおよそ匹敵すると考えられる人身事故件数の数値を参考として用いた。特別法犯(交通法令違反を除く。)及び交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)については、刑法犯における警察による認知件数におおよそ匹敵すると考えられる数値は検挙件数であることから、これを参考として用いた。(2)「人身事故」は、道路交通法2条1項1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うものをいう。(3)「刑法犯の認知件数」及び「人身事故件数」は、警察において把握したものに限る。(4)脚注図1(1)、(3)及び(4)に同じ。(5)警察庁の統計、警察庁交通局の統計、厚生労働省医薬・生活衛生局の資料、厚生労働省労働基準局の資料、経済産業省商務情報政策局産業保安グループの資料、国土交通省海事局の資料、海上保安庁の資料及び水産庁資源管理部の資料による。(6)水産庁資源管理部の資料による検挙件数は、令和3年の数値である。
図3 (1)<1>・<2>は警察庁生活安全局の資料、<3>は警察庁サイバー警察局の資料、<4>は警察庁刑事局の資料、<5>は厚生労働省医薬・生活衛生局の資料、<6>は警察庁の統計に、それぞれよる。(2)詳細については、<1>につき第4編第6章第1節、<2>につき同章第2節、<3>につき同編第5章、<4>につき第1編第1章第2節3項(4)、<5>につき第4編第2章第1節2項、<6>につき同編第1章第2節2項を、それぞれ参照。