本編では,統計資料等や特別調査の結果に基づき,グローバル化における犯罪やその対策の実情等を概観したところであるが,グローバル化の中で,刑事政策の果たすべき主要な役割として,犯行場所・手段,関係者や証拠の所在地,犯罪収益の移動等の場面で国際化・越境化しやすい犯罪への対策と,外国人による犯罪への対策が挙げられる。前者については,犯罪事実の立証や犯罪収益の剥奪に向けた手続といった捜査・訴追等の場面で国境を越えた十分な対応が要請される。外国人による犯罪の場合も,犯罪目的の入国者による薬物密輸入事犯や国際的な組織犯罪のように,犯罪行動そのものが国際化・越境化している場合があるほか,我が国に滞在しながら犯罪に及ぶ場合でも,親族や地縁等,国外につながりがある者も多いことから,犯罪者そのものが国外に逃亡したり,犯罪収益を国外に移転したりするなどの国際化・越境化しやすい側面があると考えられ,同様の課題への対応が必要な場合も少なくない。また,我が国への定着性の高い居住・定住型の外国人については,その特性や課題を理解した上で,我が国における円滑な社会復帰を見据えた処遇を行う必要もある。
本章では,これらの観点から,グローバル化が進展する中における刑事政策の現状と課題を総括し,その在り方について将来に向けた展望を試みる。