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令和元年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/6

6 児童虐待・配偶者間暴力・ストーカー等関係法令
(1)児童虐待・子供の性被害関係
ア 児童虐待防止法

平成12年5月に児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下この節において「児童虐待防止法」という。)が成立し,同年11月に施行された。同法が定める児童虐待とは,保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に監護するもの)がその監護する児童(18歳未満の者)について身体的虐待,性的虐待,ネグレクト又は心理的虐待のいずれかの行為をすることをいう。同法には,児童虐待を直接処罰する規定はないが,児童虐待に係る暴行罪,傷害罪その他の犯罪について,親権者であることをもって刑が免責されるものではないことが明記された。

児童虐待防止法の改正については,本編第2章第5節3項参照。平成期における児童虐待に係る犯罪の動向については,第4編第6章第1節参照。

イ 児童買春・児童ポルノ禁止法

平成11年5月,児童に対する性的搾取・性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み,児童買春・児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに,これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより児童の権利を擁護することを目的として,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下この節において「児童買春・児童ポルノ禁止法」という。)が成立し,同年11月に施行された。同法により,児童買春,児童買春の周旋,児童買春の勧誘,児童買春目的での人身売買,児童ポルノの頒布,インターネットを利用して不特定又は多数の者に対し児童ポルノを閲覧させる行為を含む児童ポルノの公然陳列等の行為が処罰されることになるとともに,これらの行為等によって心身に影響を受けた児童の保護のための措置等に関する規定が設けられた。

児童買春事件が大幅に増加し,児童ポルノ事件が跡を絶たないこと,児童の権利擁護に関する国際的動向を勘案し,児童買春・児童ポルノが強い非難に値することをより明らかにするため,平成16年法律第106号による改正では,特定・少数の者に対する児童ポルノの提供やこれを目的とした製造・所持等の行為等を処罰対象に含めるなど処罰範囲の拡大がなされるとともに,児童買春等の法定刑が引き上げられるなどした(平成16年7月施行)。

平成26年法律第79号による改正では,題名が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律に改められるとともに,児童ポルノをみだりに所持することなどが一般的に禁止されたほか,児童ポルノの製造の罪について盗撮の場合にも処罰対象になるとともに(平成26年7月施行),自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持することなども処罰対象とされた(27年7月適用開始)。

ウ 青少年保護育成条例

各都道府県等が「青少年の健全な育成に関する条例」等の名称で定めている条例(以下この節において「青少年保護育成条例」という。)には,青少年を相手方とするみだらな性行為等を制限し,これに違反した者に対する罰則等が盛り込まれているが,平成28年までに,全都道府県で青少年保護育成条例が制定された。

(2)配偶者暴力防止法

平成13年4月,男女平等を実現するため,潜在化しやすい配偶者の暴力から被害者の救済を図ることを目的として,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成13年法律第31号。以下この節において「配偶者暴力防止法」という。)が成立し,14年4月に全面施行された。同法は,被害者が,配偶者からの更なる暴力により生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに,裁判所が,被害者の申立てにより,その生命又は身体に危害を加えられることを防止するため,当該配偶者に対し,6か月間の接近禁止又は被害者と共に生活の本拠としている住居からの2週間の退去を命じる旨の保護命令を発する制度を設け,同命令に違反した者には,懲役刑を含む刑罰を科するものとしている。

平成19年法律第113号による改正では,生命等に対する脅迫を受けた被害者に対する保護命令,電話等を禁止する保護命令及び被害者の親族等への接近禁止命令を可能とするなど,保護命令(同命令違反は罰則の対象となる。)の対象及び範囲が拡充された(平成20年1月施行)。

平成25年法律第72号による改正では,題名が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に改められるとともに,生活の本拠を共にする交際相手(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいない者を除く。)による暴力及びその被害者についても,配偶者暴力防止法が準用され,当該暴力に係る保護命令に違反した者も処罰対象となった(平成26年1月施行)。

配偶者暴力防止法の改正のうち犯罪被害者施策関係のものについては,本編第2章第5節6項参照。平成期における配偶者間暴力に係る犯罪の動向については,第4編第6章第2節参照。

(3)ストーカー等関係

平成期におけるストーカー犯罪等の動向については,第4編第6章第3節参照。

ア ストーカー規制法

ストーカー行為等に対しては,従来,軽犯罪法違反等の特別法犯や脅迫罪等の刑法犯として対応されていたが,平成12年5月,ストーカー行為(同一の者に対し,恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で,恋愛感情等の対象者又はその配偶者等に対し,つきまとい等の行為を反復してすること)を処罰するなどストーカー行為等について必要な規制を行うとともに,その相手方に対する援助の措置等を定める目的で,ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下この節において「ストーカー規制法」という。)が成立し,同年11月に施行された。同法により,警察署長等は,申出を受けた場合に,つきまとい等をして相手方に不安を覚えさせる行為があり,かつ,更に反復のおそれがあると認めるときには,当該行為をした者に対し,更に反復して当該行為をしてはならない旨を警告することができ,都道府県公安委員会は,警告を受けた者が当該警告に従わずにつきまとい等をして相手方に不安を覚えさせる行為をした場合において,更に反復のおそれがあると認めるときは,申出又は職権により,当該行為をした者に対し,更に反復して当該行為をしてはならないことや更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項を命じることができる(禁止命令等)とされた(禁止命令等に違反した場合は,処罰の対象とされる。)。

平成25年法律第73号による改正では,拒まれたにもかかわらず,連続して電子メールを送信する行為がストーカー規制法の規定する「つきまとい等」に追加され,同一の者に対して当該行為を反復して行った場合には,「ストーカー行為」として処罰対象となった(平成25年7月施行)。

平成28年法律第102号による改正では,急に加害者の行為が激化して重大事件に発展するおそれがあるなどのストーカー事案の特徴を踏まえて,都道府県公安委員会が警告を経ないで禁止命令等をすることが可能となった(平成29年6月施行)。同改正では,住居等の付近をみだりにうろつく行為,拒まれたにもかかわらず,連続してSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のメッセージ機能を利用してメッセージを送信する行為,ブログ等の個人ページにコメント等を書き込む行為等が「つきまとい等」に追加されるとともに,ストーカー行為罪の非親告罪化,ストーカー行為罪等についての法定刑の引上げがなされた(同年1月施行)。

ストーカー規制法の改正のうち犯罪被害者施策関係のものについては,本編第2章第5節2項参照。

イ 私事性的画像被害防止法

私事性的画像記録(人の性的な姿態が撮影された画像(撮影対象者において,第三者が閲覧することを認識した上で,任意に撮影を承諾し又は撮影したものを除く。)に係る電磁的記録その他の記録)の提供等による被害の実情に鑑み,個人の名誉及び私生活の平穏の侵害又はその拡大を防止することを目的として,平成26年11月,私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を侵害する行為(いわゆるリベンジポルノ等)を処罰することなどを内容とする私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(平成26年法律第126号。いわゆる私事性的画像被害防止法)が成立し,第三者が撮影対象者を特定することができる方法で私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供する行為等に対する罰則が設けられた(同年12月施行)。