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平成26年版 犯罪白書 第6編/第5章/第2節/5

5 女子高齢者

女子は,男子と比べて,家族関係等が保たれている者の割合が高い(6-2-5-5図P236参照)一方で,女子高齢者は,他の年齢層と比べて,その背景事情からは,「近親者の病気・死去」や「家族と疎遠・身寄りなし」に該当する者の比率は高く,「近親者の病気・死去」を背景事情に持つ者は,これに該当しない者と比べて窃盗再犯率が高かったことから,配偶者の死去や病気の看護等に伴うストレスといった要因が再犯につながっている可能性もあると解釈し得る。そのため,家族等との人間関係の把握や調整,心理的なサポート,生計手段を有さない者に対する就労支援や福祉的支援を検討していく必要がある。その中で,家族との間の意思疎通等が必ずしも良好に保てない場合には,家族間の調整のために,地方公共団体や地域社会の専門家,保護司等によるサポート体制も必要となると思われる。

次に,女子高齢者については,再犯率が高いという特徴が認められる。つまり,女子高齢者の窃盗再犯率は,罰金処分者,前科のない万引き事犯者共に,男子高齢者と比べて高い(6-4-3-2-2図P283参照,6-4-4-2-2図P298参照)。また,窃盗の入所受刑者の執行猶予歴の有無別構成比を見ると,窃盗は,窃盗以外の罪名と比べて,執行猶予歴を有する者の割合が高いが,その傾向は女子において顕著であり(6-2-5-7図P237参照),更に女子について,執行猶予期間中の再犯により入所する受刑者を年齢層別に見ると,高齢者が最近10年間で6倍に増加している(同図CD-ROM参照)。加えて高齢者における保護観察付執行猶予に処せられた女子の割合は,窃盗(46.4%)が窃盗以外の罪名(7.4%)の約6.3倍と極めて高い上(6-2-6-3図<4>P244参照),窃盗における女子高齢者の保護観察付執行猶予者人員は,最近10年間で2倍に増えている(6-2-6-4図<2>CD-ROM参照)。これらのことが,窃盗による女子の初入者において,高齢者の人員が最近10年間で約5.5倍に増加し,それに伴い全年齢層に占める高齢者の割合も約4.6倍に上昇していること(6-2-5-3図<1>CD-ROM参照)の一因であると考えられる。

高齢者については,本章第1節で述べたとおり,懲役刑の執行猶予の段階で保護観察に付しても処遇に困難を来す場合が多いことから,刑事司法の早い段階での適切な働き掛けが重要であり,特に女子高齢者については,前記の再犯率等の動向からその重要性は顕著である。したがって,女子高齢者について起訴猶予処分とする場合には,親族等に適切な監督者がいないのであれば,更生保護施設,地方公共団体や社会福祉機関に橋渡しするなどの配慮も有効であり(本編第3章第1節事例P254参照),現在行われている更生緊急保護の事前調整の試行のような再犯防止に資する取組がより一層充実したものとなることが望まれる。