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3 少年院出院後の状況による分析
(1)居住状況等

7-3-3-3-1図は,第1刑事処分に係る犯行(複数の罪名による場合は,法定刑の最も重い罪名の犯行とし,複数回の同一罪名の事件による場合は,被害の最も重い犯行とする。以下この項において同じ。)時の居住状況及び同居者の状況を,刑事処分を受けた対象者全体(248人)及び窃盗について見たものである。対象者全体を見ると,住居がある者が77.0%,住居不定の者が9.7%,住居が不安定な者が4.0%であり,居住状況が不安定な者を合計すると13.7%である。実刑である者は,そうでない者に比べ,居住状況が不安定な者の構成比が高い。また,窃盗について見ると,2割近くの者は居住状況が不安定であり(住居不定の者が15.8%,住居が不安定な者が2.6%),対象者全体に比べ,居住状況が不安定な者の割合が大きい。


7-3-3-3-1図 第1刑事処分犯行時の居住状況別・同居者別構成比
7-3-3-3-1図 第1刑事処分犯行時の居住状況別・同居者別構成比

住居がある者のうち,同居者が判明した141人について,同居者別の構成比を見ると,父母(いずれか一方との同居の場合を含む。以下同じ。)が51.1%,配偶者(内縁を含む)が15.6%,友人・知人が5.7%,単身である者が11.3%であり,参考として掲げた本件出院時の引受人の構成比とは大きく異なり(窃盗も同様),第1刑事処分の犯行時までに監督者との同居を解消している者が多い。

犯行時に住居不定又は住居不安定であった者について,罪名別構成比を見ると,7-3-3-3-2図のとおりである。窃盗が41.2%と最も多く,強盗,詐欺を合わせた財産犯で58.8%に及んでおり,特に財産犯において住居の不安定さが犯罪の要因の一つと考えられる(入所受刑者中の住居不定者の比率につき7-2-3-6表参照)。


7-3-3-3-2図 住居不定者等の罪名別構成比
7-3-3-3-2図 住居不定者等の罪名別構成比

(2)就労状況

7-3-3-3-3図は,第1刑事処分に係る犯行時の就労状況を主な罪名別に見たものである。対象者全体(248人)を見ると,有職であった者が52.4%,無職であった者が36.7%である。無職者率(無職者と有職者の合計に対する無職者の割合)を見ると,対象者全体で41.2%であり,少年院仮退院者の保護観察終了時における無職者率(平成22年において23.8%。7-2-4-6図<2>参照)と比べて顕著に高く,覚せい剤取締法違反,窃盗においては,52.9%,46.2%と更に高い。


7-3-3-3-3図 第1刑事処分犯行時の就労状況
7-3-3-3-3図 第1刑事処分犯行時の就労状況

7-3-3-3-4図は,性犯罪類型の者について,性犯罪に係る犯行時(複数の犯行がある場合は初回の犯行)の就労状況を見たものである。性犯罪類型の者16人中,有職者11人,無職者2人,就労状況不詳3人であって,無職者率は,対象者全体と比べて顕著に低い。性犯罪については,就労の有無との関連性は弱いといえる。


7-3-3-3-4図 性犯罪類型者の就労状況
7-3-3-3-4図 性犯罪類型者の就労状況

対象者のうち,第1刑事処分に係る犯行時に無職であった者(91人)について,働かない理由を見たところ(7-3-3-3-3図<2>参照),その理由が調査可能であった67人中,「仕事が見つからない」,「病気・けが等」というやむを得ない事情を挙げる者は少なく,「怠惰」又は「不法・不当収入」を挙げる者がいずれも4割以上に及んだ。「怠惰」を挙げた者では,窃盗に及ぶ者が半数を占め,粗暴犯,強盗がこれに次ぎ,「不法・不当収入」を挙げた者では,窃盗,粗暴犯が多く,強盗がこれに次ぎ,双方の理由の者の大半が,これらの犯罪に及んでいる。就労についての本人の意識面,資質面の問題と,窃盗・粗暴犯・強盗との間に関連性をうかがうことができる。

また,無職者の74.7%が本件出院後に就労した経験を有しており,それらの者の離職理由を見たところ(7-3-3-3-3図<3>参照),「勤務先の業績不振」(12人),「病気・けが等」(8人)という本人に責めのない理由によるもの及び「転居・転職」(5人)によるものは比較的少なく,「人間関係の不和」(26人),「勤務け怠」(24人),「給料・待遇に不満」(24人)等本人の意識,資質に関わるものが大勢を占めており,就労の維持を図る上で,勤労意欲等の本人の意識面や,忍耐力,対人スキル等の資質面の問題が大きいと考えられる。

7-3-3-3-5表は,刑事処分を受けた者について,本件出院(仮退院)に係る保護観察終了時の就労状況別・第1刑事処分に係る犯行時の就労状況別の人員を見たものである(保護観察終了時の就労状況が不詳である者を除く。)。保護観察終了時の有職者では犯行時も有職者の方が多い(無職者率36.4%)のに対して,保護観察終了時の無職者では犯行時も無職者の方が多い(無職者率54.3%)。不就労・離職の理由が本人の意識面,資質面の問題を反映していることを踏まえると,保護観察終了時の就労の有無は,その後の就労状況に関連している上,刑事処分状況にも影響しているものと考えられる(7-3-3-1-7図参照)。また,保護観察終了時及び犯行時の双方の時点で有職であった者は75人と刑事処分を受けた者の半数未満であり,出院後に就労を継続している者が少ないことが分かる。保護観察終了時及び犯行時のいずれの時点でも有職であった者と少なくとも一方の時点で無職であった者の罪名別構成を比較すると,前者では窃盗のほか自動車運転過失致死傷等が多いのに対して,後者では,暴行,傷害等の粗暴犯のほか,窃盗,強盗,恐喝,詐欺等の財産犯の占める比重が大きい。また,各就労状況別に実刑率(主要刑事処分に占める実刑の割合),罪名数(全刑事処分に係る罪名の数の平均値)を見ると,いずれの時点でも有職の者は,いずれの数値も低く,犯行時に無職であった者は,いずれの数値も高い。就労の程度が犯罪の状況に影響していることが推察される。


7-3-3-3-5表 就労状況別人員(保護観察終了時・犯行時)
7-3-3-3-5表 就労状況別人員(保護観察終了時・犯行時)

(3)出院後の問題行動等

ア 概況

刑事処分を受けた者について,本件出院後(第1刑事処分に係る犯行時までの間に限る。)の問題行動等の有無を,第1刑事処分の罪名の種類別に見ると,7-3-3-3-6図のとおりである。


7-3-3-3-6図 本件出院後の問題行動等(罪種別)
7-3-3-3-6図 本件出院後の問題行動等(罪種別)

調査が可能であった189人のうち,問題行動がなかった者が10.1%,1つの者が15.3%であり,2つ以上の問題行動が認められた者は74.6%に及んだ。問題行動のうち,暴力団加入が30.7%(58人),暴走族加入が10.1%(19人),その他の素行不良者との交遊が42.9%(81人)の者に見られ,交友関係に問題を生じていたものが約3分の2(重複者を除く実人員で125人)に上っている。

薬物使用(刑事処分の対象となったものに限らない。)は20.6%(内訳は,覚せい剤使用25人,シンナー吸引14人,大麻・麻薬・あへん使用9人であり,重複者を含む。)に見られ,飲酒状況に問題が見られた者5.8%(11人)と合わせ,物質乱用(問題飲酒・薬物使用)の問題を有する者が少なくない。

また,無為徒食(勤労意欲欠如を含む。)が32.3%(61人),借金問題が34.4%(65人),ギャンブルたん溺が15.3%(29人),生活困窮が9.0%(17人)の者に見られ,就労及び経済的な安定に関する問題を抱えていた者が多い。

なお,孤立,ホームレス,ひきこもりの状態等の問題行動等を示す者は,ほとんどいなかった。

以上から,対象者において本件出院後に生じた問題行動としては,不良交友(暴力団若しくは暴走族への加入(交遊を含む。)又はその他の素行不良者との交遊が見られることをいう。人員については,重複している者を除く。以下この節において同じ。),不就労,経済的不安定,薬物依存等が多いといえる。

次に,各種問題行動は,重複して発現することから,相互の関係を探るため,その重複状況を見る。

7-3-3-3-7図は,最も多く見られる「不良交友」と他の問題行動の重複状況を見たものである。


7-3-3-3-7図 問題行動等の重複状況
7-3-3-3-7図 問題行動等の重複状況

薬物使用が見られる者の76.9%(30人),無為徒食が見られる者の68.9%(42人)で,不良交友の問題が重複しており,薬物使用と不良交友,無為徒食と不良交友は,相互に関係が密接であるといえる。薬物使用と無為徒食が重複している者は,薬物使用の者の30.8%,無為徒食の者の19.7%である。薬物使用のある者は,無為徒食問題も併せ持つことが多いといえる。

ギャンブルたん溺が見られる者の69.0%(20人),借金問題が見られる者の72.3%(47人)は,不良交友の問題を重複して有しており,特に,不良交友かつ借金問題を有するものは47人と,対象者の24.9%に及び,両者の問題を抱えるものが多い。また,ギャンブルたん溺が見られる者と借金問題が見られる者の重複者は,前者の58.6%,後者の26.2%であり,ギャンブルにたん溺する者は借金問題を併せ持つことが多い。

不良交友,問題飲酒及び粗暴行為の関係を見ると,粗暴行為が見られる者の77.3%に不良交友との重複が見られることを除いて,重複率は高くなく,それぞれの問題行動が独立して見られることが多い。

問題行動の重複者が多い,不良交友及び薬物使用の者(30人),不良交友及び無為徒食の者(42人),不良交友及び借金問題の者(47人)について,それぞれ第1刑事処分の罪種別構成比を見ると,7-3-3-3-8図のとおりである。


7-3-3-3-8図 問題行動等重複者の罪種別構成比
7-3-3-3-8図 問題行動等重複者の罪種別構成比

不良交友及び薬物使用の重複者では,窃盗は対象者全体に比べて多くはないが(7-3-2-3表参照),覚せい剤取締法違反又は毒劇法違反が46.7%と半数近くを占めており,不良交友が見られない薬物使用の者(33.3%)と比べて薬物犯罪の比率が高い。不良交友及び無為徒食の重複者では,窃盗と粗暴犯が多く,特に粗暴犯の比率(31.0%)は,不良交友が見られない無為徒食の者における粗暴犯の比率(5.3%)に比して顕著に高い(不良交友の者全体における粗暴犯の比率に比しても高い。)。不良交友及び借金問題の重複者では窃盗が多いが,その比率は,不良交友の有無で明らかな差はない。


イ 不良交友

7-3-3-3-9図は,不良交友が見られる者(実人員125人)について,その開始時期及び端緒となった場所を見たものである。


7-3-3-3-9図 不良交友の端緒
7-3-3-3-9図 不良交友の端緒

開始時期及び端緒となった場所が調査可能であった110人のうち,本件入院前にその交友を開始した相手がいる者は68.2%(75人)であり,本件出院後に開始した相手がいる者45.5%(50人)より多かった。前者では,端緒の場所は,地元(34.7%,26人)又は学校(28.0%,21人)が多く,重複者を除く実人員においても,この2つで過半数を超えている。他方,後者では,端緒の場所が多岐にわたっており,相手の範囲が広がっている。不良交友を断つためには,入院前の相手に関しては,地元や学校での友人・知人との関係に対処することが重要であるが,出院後の相手に関しては,対象者を特定しがたく,広く交友関係を注視する必要がある。

7-3-3-3-10図は,不良交友の有無を,第1刑事処分に係る主な罪名別に見たものである。


7-3-3-3-10図 不良交友の有無(主な罪名別)
7-3-3-3-10図 不良交友の有無(主な罪名別)

不良交友がある者の比率は,覚せい剤取締法違反では86.7%と顕著に高く,次いで,窃盗及び傷害・暴行で約7割と高いが,自動車運転過失致死傷等では約3割と,顕著に低くなっている。共犯を考え難い自動車運転過失致死傷等を除き,不良交友の問題が罪名を問わずに広く認められ,特に,覚せい剤取締法違反では深刻である。

7-3-3-3-11図は,本件非行時に関係のあった不良集団別に,本件出院から第1刑事処分に係る犯行時までに見られた不良交友の相手・内容を見たものである。出院後に犯罪に至った者のうち,本件非行時に暴力団に関係していた者の数は7人と少ないものの,そのうち4人は出院後暴力団に加入し,他の2人は暴力団との交遊が見られた。一方,本件非行時に不良集団との関係がなかった者においても,出院後に暴力団への加入又は暴力団との交遊が見られた者が22.2%(重複者を除く。)を占めるなど,56.8%(重複者を除く実人員で46人)が,出院後交友関係に何らかの問題を持つに至っている。少なくとも出院後に刑事処分に至る者においては,本件非行時に不良集団との関係を有しなくとも,出院後に暴力団を始めとする不良集団やそれ以外の素行不良者との交遊を持つに至ることが多く,それが犯罪に至る要因の一つとなっている可能性を指摘できる。


7-3-3-3-11図 不良交友の状況(本件非行時の不良集団関係別)
7-3-3-3-11図 不良交友の状況(本件非行時の不良集団関係別)

ウ 借金,無為徒食

本件出院から第1刑事処分における犯行時までに,借金問題及び無為徒食が見られた者は,それぞれ調査が可能であった者(189人)の34.4%(65人),32.3%(61人)と比較的多く,少なくともいずれかの問題を有する者は54.0%(102人)と過半数に及んでいる。本件出院後に借金問題又は無為徒食等の経済的な問題を抱えていた者について第1刑事処分の罪種別構成比を見ると,7-3-3-3-12図のとおりである。


7-3-3-3-12図 借金問題・無為徒食者の罪種別構成比
7-3-3-3-12図 借金問題・無為徒食者の罪種別構成比

窃盗の者が33.3%と最も多く,次いで粗暴犯が19.6%,重大事犯(強盗),薬物犯罪(覚せい剤取締法違反のみ。)がそれぞれ9.8%であるほか,「その他」の中では,詐欺も6.9%と多い。経済的な問題が,窃盗等の財産犯に結びついているほか,粗暴犯や,窃盗と粗暴犯が複合した重大事犯(強盗)等にも結びついていると考えられる。

(4)犯罪類型別の分析

次に,本件出院から第1刑事処分に係る犯行時までに見られた問題行動等を犯罪類型別に見ることとする。7-3-3-3-13図は,各犯罪類型別に,問題行動等が見られた人員の比率を見たものである。


7-3-3-3-13図 本件出院後の問題行動等(犯罪類型別)
7-3-3-3-13図 本件出院後の問題行動等(犯罪類型別)

ア 窃盗犯罪類型

窃盗犯罪類型の者(105人)の問題行動等は,不良交友が70.5%と最も多く,次いで借金問題(37.1%),無為徒食(33.3%),ギャンブルたん溺(22.9%)が多い。窃盗犯罪類型には,就労と経済的安定性に問題がある者が多いことがうかがわれる。

次に,窃盗を繰り返す者の特徴を見るため,窃盗非行群かつ窃盗犯罪類型である者(70人)について,窃盗に係る全刑事処分のうち,本件出院後最初に確定した裁判に係る犯行(複数の窃盗がある者については,被害の最も大きいものによる。)の手口や動機,犯行時の生活状況を見ることとする。少年時の手口が判明した者のうち,犯行の手口(7-3-2-7図参照)が少年時と同種の者の比率は,57.1%であった。共犯関係について見ると,窃盗犯全体(7-3-2-8図参照)と比べて,単独犯の比率は低く(37.1%),共犯者1名の比率(41.4%),共犯者2名の比率(18.6%)が高い。また,共犯者との交友の開始時期は,交友の開始時期が判明した者のうち62.5%が少年院入院前であり,共犯者が「友人・知人」である者(28人)のうち,その関係が判明した22人中6人が少年非行時の共犯者と同一であった。犯行動機の大半は,生活費・遊興費欲しさであるが,共犯者のある者では,共犯者との関係を維持するために窃盗に加担した者も見られた。これらのことから,不良交友関係(特に少年時からのもの)が窃盗につながっていることがうかがわれる。犯行時の生活状況を見ると,無職である者が45.7%と多く(対象者全体について7-3-3-3-3図<1>参照),また,住居不定である者が20.0%に及び(同7-3-3-3-1図<1>参照),生活基盤の不安定さが窃盗を繰り返す要因の一つとなっている。また,窃盗に対する意識を見ると,「手っ取り早く金が手に入る・働くより楽」と安易に捉えている者,「生活のために(生きていくために)仕方がない」と正当化する者,「盗める状態であるものは盗む」と窃盗に抵抗感がない者などが見られ,規範意識及び就労意欲の欠如等の特徴が見られる。


イ 粗暴犯罪類型

粗暴犯罪類型の者(63人)のうち,暴力団加入(交遊を含む。)の比率は47.6%であり,他の犯罪類型に比して高い。

粗暴を繰り返す者の特徴を見るため,粗暴非行群かつ粗暴犯罪類型である者(37人)について,粗暴犯罪類型に係る全刑事処分のうち,本件出院後最初に確定した裁判に係る犯行の背景を見たところ,調査可能であった19人のうち,衝動的な暴力(被害者への怒りを爆発させた等)が6人,手段として暴力を用いたもの(金を得るため,被害者への優位性を示すため等)が6人,不良集団の価値観によるもの(暴力団のメンツを優先する等)が4人となっている。

粗暴犯罪類型では,不良交友の問題のほか,感情抑制力の欠如,暴力に対する認知のゆがみ等の資質面の問題がうかがわれる。


ウ 薬物犯罪類型

薬物犯罪類型の者(41人)においては,薬物使用(78.0%)のほか,不良交友が82.9%と顕著に多く,借金問題,無為徒食のいずれも34.1%と比較的多い。また,薬物犯罪類型全体(45人)において,少年時の非行名が薬物犯罪であった者(薬物非行群)は約3割(12人)にとどまっており,少年時の非行名が薬物犯罪ではない者が約7割(33人)を占めている。多数の者が出院後に薬物犯罪に及ぶようになった可能性が示唆され,その要因として,不良交友の問題の存在が考えられる。


エ 性・交通犯罪類型

性犯罪類型の者(13人),交通犯罪類型の者(52人)では,いずれも,不良交友,無為徒食の問題行動の比率は,全体(7-3-3-3-6図参照)に比して低い。


オ 重大犯罪類型

重大犯罪類型の者(17人)においては,不良交友及び借金問題が目立つ。

重大犯罪類型18人(問題行動等の調査ができなかった者を含む。)について,本件出院後最初に確定した重大犯罪の罪名内訳を見ると,傷害致死1人(親族に対する金の無心を原因とするもの),強盗17人である。

主な強盗の態様(以下,この項において,複数の犯行がある場合は,被害の最も大きい犯行による。)は,路上強盗8件,事後強盗2件,「美人局」強盗2件(いわゆる美人局に端を発して強盗に及んだもの)である。動機・原因を見ると,共犯者への従属(1件)のほかは金欲しさであり,それらの背景として,借金(5件),暴力団や暴走族への上納金(4件),無職困窮(4件)などがある。被害者との関係は,17件のうち15件で,被害者との面識がなかった。

重大犯罪の犯行時の就労状況は,有職であった者が44.4%であり,居住状況では,住居がある者が72.2%であって,それぞれ対象者全体と比べて低い。共犯の有無や関係を見ると,共犯率は66.7%と高く(一般刑法犯の共犯率について7-2-1-1-12図参照),共犯者との関係が判明した者10人について,その関係を見ると,暴力団又は暴走族関係者が5人,友人・知人が3人,犯罪集団,愚連隊仲間が各1人となっている。犯行時に飲酒していた者はなく,薬物を使用していた者は,シンナー吸引が2名,麻薬・あへん使用が1名であった。

総じて,不就労,借金,不良集団への上納金などを背景に,経済的,対人的に追い詰められ,不良仲間と共に,面識のない者から金銭を奪うというパターンが多く,窃盗犯罪類型及び粗暴犯罪類型の特徴を併せ持っているものが多い。

(5)犯罪のない時期の状況

前項までにおいて,犯罪に至る要因等の分析を行ったが,本項では,本件出院から第1刑事処分に係る犯行までの間で,犯罪を行っていない時期の行動を明らかにし,犯罪に至らなかった要因を検討する。

7-3-3-3-14図は,本件出院から第1刑事処分に係る犯行までの間で,犯罪を行っていない時期に見られた行動パターンを示したものである。刑事確定記録により,犯罪のない時期の行動の調査が可能であった者(174人)について,それぞれあてはまる事項を全て拾い上げて調査した。対象者のうち,143人(82.2%)に就労が,また,9人(5.2%)に就労努力が見られ,85.6%の者(重複者を除く。)が就労又は就労努力を行っていた。犯行時の有職者が52.4%しかいないことを考えると,85.6%は顕著に高い比率であり,就労又は就労努力が犯罪の抑止に効果があるといえる。


7-3-3-3-14図 犯罪がない時期の行動
7-3-3-3-14図 犯罪がない時期の行動

監督者との生活が少なくとも73人(42.0%)の者に見られ,その割合は大きい。さらに,犯行時においては,監督者との同居を解消している者が相当数に及んでいること(7-3-3-3-1図<2>参照)を考えると,少年・若年者にとっては,監督者との生活による適切な生活管理は,犯罪の抑止に効果があると考えられる。

このように,監督者を含め,更生の支援を受けることは,程度の差はあれ,更生に資するものであるといえる。そこで,犯罪を行っていない時期における更生の支援者の有無及びその支援者(保護司を除く。)の内訳を見ると,7-3-3-3-15図のとおりである。


7-3-3-3-15図 更生の支援者
7-3-3-3-15図 更生の支援者

刑事確定記録により,更生支援の有無の調査が可能であった181人のうち,犯罪を行っていなかった時期に支援者がいた者は171人(94.5%)であり,その比率が高いことから,支援の重要性が確認できる。支援者別に見ると,親が138人(76.2%)と顕著に高く,その他,配偶者26人(14.4%),雇用主24人(13.3%)と続いている。更生支援者としては,親が多数を占めており,それ以外の者は少ない。したがって,少年を監督し(本件出院時引受人の大半は親である。7-3-1-6図参照),その更生を支援する親との同居は,犯罪の抑止,更生の支援という観点から,重要であるといえる。にもかかわらず,出院後,親と同居する者の割合が減少していること(7-3-3-3-1図参照)は,犯罪のリスクを高めていると考えられる。

また,支援者の数を見ると,1人(各項目をそれぞれ1人とする。)が65.2%,2人以上が29.3%と,支援者が1人(そのほとんどは親である。)のみの者が多数を占めており,更生を支援する者の広がりが狭いことがうかがわれる。

家族関係の変動等について見ると,調査可能であった154人において,本件出院から第1刑事処分に係る犯行時までに結婚した者が19.5%(30人)であり,その約8割は婚姻時に配偶者が妊娠あるいは出産しているが,その後第1刑事処分に係る犯行時までの短期間に離婚,別居が生じたものが約4割に上った。少年院送致歴のある若年犯罪者は,配偶者等の家族の存在を犯罪のブレーキとして強く認識している(7-4-3-9図参照)が,このような配偶者等との家族関係の不安定さは,犯行を抑止する力を弱めるものといえる。

不良交友の問題について見ると,不良交友を断つ努力が見られた者は7人(4.0%),不良集団からの離脱が見られた者は6人(3.4%)にとどまり(7-3-3-3-14図参照),対象者のほとんどに不良交友の問題が見られたことを踏まえると,その比率は小さい。対象者は,いずれも最終的には犯罪に及び,刑事処分を受けていることを踏まえると,不良交友を維持したままでは,一時的に犯罪から距離をおくことはできても,十分な更生までには達しないと考えられる。