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2 犯行の状況

この項では,調査対象者の犯行を,その判決に基づいて分析する。

(1)初回犯行時期

7-3-2-5図は,刑事処分を受けた調査対象者の初回犯行時の年齢別人員を本件出院時年齢別・再入院の有無別(再入院のあった者36人,再入院のなかった者212人)に見たものであり,7-3-2-6図は,保護観察終了日(再度の少年院送致があった者については,その処分に係る保護観察終了日又は収容期間満了日)から初回犯行日までの期間(横軸の月数までに初回犯行に及んだ者の累積人員の比率)を本件出院時年齢別に見たものである。


7-3-2-5図 初回犯行時の年齢別人員
7-3-2-5図 初回犯行時の年齢別人員

7-3-2-6図 初回犯行の累積状況(保護観察終了日以降)
7-3-2-6図 初回犯行の累積状況(保護観察終了日以降)

初回犯行時の年齢は,20歳前半から21歳前半頃をピークとして分布しており,この分布は,本件出院時に19歳であった者において,より鮮明であり,半年ごとに区切ると,20歳に達してから半年が経過するまでに最も多くの者が刑事処分を受けることとなった犯行に及んでいる。本件出院時に18歳であった者も,本件出院時に19歳であった者と同様に,21歳前半までに多数の者が初回犯行に及んでいる。19歳の者と比べると,初回犯行時期の分布が分散しているが,これは,7-3-2-6図を踏まえると,対象期間が長いことを反映していると考えられる。

少年院を仮退院した者は,保護観察に付され,原則として20歳に達したとき,保護観察が終了するが,保護観察期間中は,保護観察官や保護司による指導・監督を受け,このことが犯罪行為の抑制要因となると考えられる。本件出院時年齢が18歳の者でも19歳の者でも,保護観察終了日から初回犯行日までの累積傾向はほぼ同じであり,保護観察等による指導・監督が終了すると,わずか1年の間に過半数の者が,約30か月の間に約80%の者が,初回犯行に及んでいる。これらを踏まえると,20歳代の第1四半期において初発の刑事処分に至る行為をするおそれが最も高いといえる。

(2)犯行内容

次に,調査対象者の犯行の特徴を分析する。対象とする罪名は,全刑事処分における罪名別構成として多かった窃盗,傷害等,道路交通法違反及び自動車運転過失致死傷等(7-3-2-3表参照)とし,必要に応じて,関連のあるその他の罪名についても言及する。

なお,覚せい剤取締法違反も30人と多かったが,その全てが使用又は単純所持事案であった。


ア 窃盗

調査対象者のうち,25歳に至るまでに窃盗により刑事処分を受けたことのある者は,123人である。7-3-2-7図は,全刑事処分における窃盗の犯行のうち,本件出院後に最初に裁判が確定したもの(一つの確定裁判において複数の窃盗がある場合は,被害程度の最も大きいもの)について,その手口別構成比を見たものである。調査対象者の手口は,少年・若年犯罪者全体の窃盗の手口(7-2-1-1-11図参照)と比較して,侵入窃盗,ひったくりの各構成比が高く,万引きの構成比は低い。年少少年から若年犯罪者へと年齢層が上がるに従い,万引きの構成比の低下,侵入窃盗の構成比の上昇が見られるが,調査対象者は,そのいずれと比べても,侵入窃盗の構成比が高く,万引きの構成比は低くなっており,手口がより悪質化しているといえる。


7-3-2-7図 窃盗 手口別構成比
7-3-2-7図 窃盗 手口別構成比

7-3-2-8図は,調査対象者の窃盗事件における共犯形態別構成比を見たものである。参考として示した平成22年における窃盗の少年事件・成人事件の共犯形態別構成比と比較すると,調査対象者の共犯事件の構成比は,成人事件(成人が単独又は共犯で犯した事件であり,少年と成人の共犯による事件を含む。以下この節において同じ。)及び少年事件(少年が単独又は共犯で犯した事件であり,少年と成人の共犯による事件を含む。以下この節において同じ。)のいずれと比べても高い。多人数による共犯事件の構成比も,少年事件と比べても高く,調査対象者の犯行には,不良交友が強く影響していることがうかがえる。


7-3-2-8図 窃盗 共犯形態別構成比
7-3-2-8図 窃盗 共犯形態別構成比

また,調査対象者の強盗事件及び恐喝事件について,その共犯形態を見ると,強盗を犯した17人のうち12人(70.6%)の事件が共犯事件であり,恐喝を犯した22人のうち20人(90.9%)の事件が共犯事件であった。平成22年における強盗及び恐喝の少年事件・成人事件の共犯事件の構成比は,強盗では,少年事件で59.5%,成人事件で20.3%であり,恐喝では,少年事件で52.9%,成人事件で37.8%であるが(警察庁の統計による。),調査対象者の共犯事件の構成比は,強盗,恐喝共に,成人事件及び少年事件のいずれと比べても高い。

なお,調査対象者で強盗の共犯事件を起こした12人のうち,窃盗の共犯事件を起こしている者が7人,さらにそのうち恐喝の共犯事件を起こしている者が2人おり,不良交友が複数の犯罪につながっている状況がうかがえる。


イ 傷害等

調査対象者のうち,25歳に至るまでに傷害,暴行又は暴力行為等処罰法違反により刑事処分を受けたことのある者は,63人である。7-3-2-9図は,これらの罪名に係る犯行のうち,本件出院後に最初に裁判が確定したもの(一つの確定裁判において複数の罪名がある場合は,法定刑の最も重いもの,同一罪名が複数ある場合は被害程度の最も大きいもの)について,その共犯形態別構成比を見たものである。平成22年における傷害・暴行の少年事件・成人事件の共犯形態別構成比と比較すると,調査対象者の事件は,成人事件及び少年事件のいずれと比べても共犯事件の構成比が高く,窃盗の場合と同様,不良交友の影響が見られる。


7-3-2-9図 傷害・暴行・暴力行為等処罰法違反 共犯形態別構成比
7-3-2-9図 傷害・暴行・暴力行為等処罰法違反 共犯形態別構成比

ウ 道路交通法違反

調査対象者のうち,25歳に至るまでに道路交通法違反により刑事処分を受けたことのある者は,54人であるが,ここでは,そのうち,自動車運転過失致死傷等及び危険運転致傷を伴わない33人について,その違反の態様を分析する。7-3-2-10図は,道路交通法違反に係る犯行のうち,本件出院後に最初に裁判が確定したもの(一つの確定裁判において複数の道路交通法違反がある場合は,法定刑の最も重いもの)について,違反態様別構成比を見たものである。道交違反のみによる罰金に係る犯行は含まれていないものの,調査対象者の違反態様中,無免許運転が最も多くなっており,規範意識の低さをうかがわせる(1-3-1-4図<2>及び7-2-1-2-4図<2>参照)。次いで,共同危険行為が多く,ここでも不良交友の影響が見られる。


7-3-2-10図 道路交通法違反 違反態様別構成比
7-3-2-10図 道路交通法違反 違反態様別構成比

エ 自動車運転過失致死傷等

調査対象者のうち,25歳に至るまでに自動車運転過失致死傷等又は危険運転致傷により刑事処分を受けたことのある者は,37人である。事故時の状況を見ると,救護措置義務違反・報告義務違反を犯していた者は14人(37.8%),事故当時,無免許であった者は13人(35.1%),酒気帯びであった者は3人(8.1%)であり,規範意識の低さをうかがわせる。