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 平成21年版 犯罪白書 第7編/第5章/1 

第5章 おわりに

1 本特集の概要

 再犯の防止は,古くから,刑事政策上の重要な課題の一つとされてきた。刑事司法手続の各段階において,再犯者は,5割前後(平成20年において,一般刑法犯による検挙人員に占める再犯者の比率は約41%(7-2-1-1図[1]参照),一般刑法犯及び道交違反を除く特別法犯による起訴人員に占める有前科者の比率は約48%(7-2-2-2図[1]参照),入所受刑者に占める再入者の比率は約54%(7-2-3-1図[1]参照))を占め,再犯者が社会に与える脅威と被害には極めて大きいものがある。その意味で,再犯防止対策は,治安を維持し,社会を守る上で重要な意義を有するが,これにとどまらず,犯罪者を改善更生させ,市民社会の健全な構成員として取り込んだ共生社会を実現するという点でも,再犯の防止は,国民全体の大きな利益となると考えられる。
 他方,再犯の要因は,罪名・罪種により異なる上,様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられ,再犯防止の効果を上げるためには,再犯の要因を把握した上で,実情に応じた対策を講じることが肝要である。
 このため,平成19年版犯罪白書では,戦後の約60年間に及ぶ犯歴記録の分析等により,再犯の実態を概観し,再犯防止対策上,留意すべきであると思われる視点を提示したが,この特集では,各種の統計資料に基づき,最近の再犯の動向や再犯者の実態を示した(第2章)上で,件数が極めて多く,また,第3章第1節においても記したとおり特に再犯性が高い窃盗及び覚せい剤取締法違反について,個別のケースに基づき,具体的な再犯要因等の分析を試みた(第3章)。具体的には,これらの犯罪(覚せい剤取締法違反については,いわゆる末端使用者を想定している。)においては,初回の裁判では執行猶予判決を受け,その後に再犯に及ぶと,2回目の裁判で実刑判決を受けることが多いため,これらの犯罪で初めて執行猶予判決を受けた者を対象とした調査(以下,この章において「執行猶予者調査」という。)により,その後,再犯に及んだ者とそうでない者との比較を行うことで,再犯要因を探る(同章第1節)とともに,これらの犯罪による初入及び2入の受刑者を対象とした調査(以下,この章において「受刑者調査」という。)により,受刑にまで至った者の問題性を分析した(同章第2節)。さらに,保護観察付執行猶予者及び仮釈放者並びに保護司からの聴取りも実施し,改善更生をもたらす要因の考察を試みた(同章第3節)。
 以下では,これらの分析・考察に基づき,窃盗及び覚せい剤取締法違反について再犯の実態と要因を概観するとともに,これも踏まえて,再犯防止対策を検討する上で留意すべきであると思われる若干の点について述べることとする。