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2 窃盗及び覚せい剤取締法違反の再犯の実態と要因 (1)窃盗ア 執行猶予者調査によると,窃盗では,調査対象者の約3割が4年以内に再犯に及んでいた(第3章第1節2項(2)ア参照)。そして,再犯に及んだ者の約8割は,窃盗による再犯であり(同参照),窃盗再犯者は,窃盗を繰り返す傾向が高いが,受刑者調査によると,窃盗の手口別に見ても,万引きを筆頭に,同一の手口の窃盗を繰り返す傾向が高く,また,再犯を重ねるにつれて,手口が固定化する傾向もうかがわれた(7-3-2-2-3図参照)。 イ 窃盗には,万引き・置引きから空き巣・すりなどまで,様々な手口があり,また,安易に比較的軽微な窃盗を行う者から職業的に窃盗を繰り返す者まで,犯罪性向も様々な者がいる。再犯の防止のためには,こうした手口などの違いも踏まえ,個別の犯罪者の特性に応じて適切な処遇を実施することが必要であるが,ここでは,万引きについて,若干の言及をしたい。 万引きは,個々には,比較的軽微な犯罪であるといえようが,件数的には,極めて多数を占めている(1-1-1-7表参照)。また,万引きは,検挙され,警察段階における微罪処分や検察段階における起訴猶予処分を受けた後に,再犯に及ばなくなる者も少なくないと思われるが,再犯を繰り返して起訴され,更には受刑にまで至る者も相当数に及び(執行猶予者調査の対象者の約3分の1は万引きによる者であり(7-3-1-2-2図参照),受刑者調査の対象者では,万引きによる者は,男子で約3分の1,女子では約8割に及んでいた(7-3-2-2-2図参照)。),しかも,アのとおり,万引きの再犯者は,万引きを繰り返す傾向が高く,その意味で,高い再犯性を有する者が見られる犯罪類型であるといえる。こうしたことを踏まえると,万引きの再犯防止は,重要な課題であり,その検討に際しては,ウ及びカでも述べるとおり,万引きの再犯者には,資質的な再犯要因を有する者が少なくないと考えられることも十分考慮する必要があろう。 ウ 窃盗は,財産犯であり,経済的な不安定さが犯罪の促進要因となることは,当然ではあるが,例えば,入所受刑者の就労状況別構成比を見ると,窃盗は,その他の犯罪と比べ,無職者の占める構成比が高く,また,その構成比は,入所度数を重ねるに従って上昇していること(7-2-3-9図参照),執行猶予者調査によると,安定就労者の再犯率は約19%であるのに対し,無職者の再犯率は約34%であったこと(執行猶予者調査における就労状況は,調査対象事件の犯行時のものである。)(7-3-1-2-14図参照)などからも,経済的な問題が再犯要因として大きく影響していることが実証的に裏付けられている。また,受刑者調査による窃盗の動機(複数回答)を見ても,生活費困窮を理由とする者が最も多かった(7-3-2-2-9・10図参照)。 もっとも,受刑者調査によると,特に,若い世代の男子や万引き以外の手口による者で,遊興費に充てるために窃盗を繰り返している者も多く,また,女子の万引きの2入者では,節約を動機とする者が最も多く,ストレス解消や盗み癖を理由とする者も多かった(同図参照)。このように,必ずしも,経済的なひっ迫を動機・背景とせず,行動傾向の偏りなどの資質的要因に基づいて窃盗を繰り返す者が少なくないことにも留意する必要がある。 エ 前記のとおり,就労状況は,再犯要因として大きいものがあるが,執行猶予者調査によると,家族等と同居している者の再犯率は約23%であるのに対し,単身で住居不定又はホームレスの者の再犯率は約35%である(執行猶予者調査における居住状況は,調査対象事件の犯行時のものである。)(7-3-1-2-13図参照)など,居住状況も,再犯要因として作用していることがうかがわれる。 しかも,家族と同居している者は,不安定就労者であっても,安定就労者と再犯率に大きな違いはなく(7-3-1-2-15図参照),その意味で,家族の存在は,再犯の抑止要因としてより大きく作用していることがうかがわれる。 他方,単身者は,安定就労でなければ,就労は,再犯抑止要因として大きく作用しないことがうかがわれ(同図参照),家族がいない者は,再犯の防止のために,安定した就労がより重要であると考えられる。 オ 家族の存在とも関係していると思われるが,執行猶予者調査によると,監督誓約者がある者の再犯率は約20%であるのに対し,これがない者の再犯率は約40%であり(7-3-1-2-16図参照),監督誓約者の存在は,大きな再犯抑止要因であることがうかがわれる。 カ 受刑者調査によると,万引き事犯者は,他の手口の者と比べ,男子において,知能検査の結果が低く,また,男女共に,何らかの精神障害を抱えている者の比率が高く(第3章第2節2項(2)ア参照),こうした資質的な要因にも留意する必要があると思われる。 (2)覚せい剤取締法違反 ア 執行猶予者調査によると,覚せい剤取締法違反でも,調査対象者の約3割が4年以内に再犯に及び,そのうちの8割以上が覚せい剤取締法違反の再犯であり(第3章第1節3項(2)ア参照),同一の犯罪を繰り返す傾向が高かった。 イ 覚せい剤は,直接的にはその薬理効果を得ることを目的として使用されるものであるから,再犯要因としては,これに対する精神的な依存の強さが最も大きいといえる。 受刑者調査でも,覚せい剤の薬理作用に強い快感を持つ者,自制力等に乏しい者は,再犯に陥りやすい傾向がみられ(7-3-2-3-11〜14図参照),また,過去における覚せい剤の使用頻度が高く,又は再使用開始までの期間が短いということ(7-3-2-3-5・6図参照)から,覚せい剤への依存性向が強かった者は,その後も,強い依存性向を維持する傾向がうかがわれる。 ウ 受刑者調査によると,2入者において,初入者と比べ,覚せい剤の使用開始年齢が低い者の構成比が高く(7-3-2-3-3図参照),また,有機溶剤(シンナー等)の乱用経験を有する者の構成比も高かった(7-3-2-3-10図参照)。このことから,覚せい剤の使用開始年齢が低く,又は有機溶剤の乱用経験を有する者は,再犯性が高く,再入に陥りやすい傾向がうかがわれる。 エ 受刑者調査によると,覚せい剤を使用するに至った端緒としては,友人知人等の他人からの誘惑による者が相当多い(7-3-2-3-7図参照)。また,執行猶予者調査によると,女子は,共犯者がある者が3分の1以上であるが,4年以内の覚せい剤取締法違反による再犯率を見ると,共犯者なしの者は約15%であるのに対し,共犯者ありの者は約30%である(7-3-1-3-8図参照)。これらのことから,交友関係も,再犯要因として相当作用しているという実態がうかがわれる。 オ 執行猶予者調査によると,覚せい剤取締法違反においても,居住状況や就労状況は,再犯の可能性に影響する要因となっているが,居住状況による再犯率の違いは,窃盗と比べて小さい(7-3-1-3-9図参照)上,居住状況が不安定であれば,就労状況にかかわらず,再犯リスクは大きい(7-3-1-3-11図参照)など,就労状況による再犯の可能性への影響は,限定的であることがうかがわれる。 他方,執行猶予者調査によると,4年以内の覚せい剤取締法違反による再犯率は,監督誓約者がある者では約19%であるのに対し,これがない者では約45%と顕著に高く(7-3-1-3-12図参照),監督誓約者の存在は,再犯の抑止要因として大きく作用していることがうかがわれる。 |