犯罪白書では、令和4年版から、我が国における刑法犯以外も含めた犯罪の全体像を捉えるための試みを行っており、3年目となった本年においては、かかる全体像について、この3年間の推移を通してその動向を考察する。
図1は、(ア)刑法犯、(イ)危険運転致死傷・過失運転致死傷等、(ウ)特別法犯(交通法令違反を除く。以下このコラムにおいて「特別法犯」という。)及び(エ)交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。以下このコラムにおいて「交通法令違反」という。)につき、それぞれの検挙件数を、警察以外により検挙されたものも含めて一つのグラフにまとめ、年ごとに並べたものである。
検挙件数の総数は、令和3年が約85万件、4年が約81万件、5年が約86万件と大幅な増減は見られず、その構成比も、刑法犯が約30%、危険運転致死傷・過失運転致死傷等が約35%、特別法犯が約10%、交通法令違反が約25%で大きな変動は見られなかった。
次に、図2は、我が国における犯罪の全体像をできる限り把握するため、検挙には至らなかった犯罪についても考慮すべく、(ア)刑法犯については警察による認知件数を、(イ)危険運転致死傷・過失運転致死傷等については人身事故件数を、(ウ)特別法犯及び(エ)交通法令違反については検挙件数を、それぞれ用いて合算したものである。
同図は、かねてから指摘しているとおり、厳密には概念が一致しない数値を合算した図であるから、飽くまで検挙に至らなかった犯罪の存在をイメージするものであることに留意しつつ、これを見ると、その総数は、令和3年が約117万件、4年が約118万件、5年が約131万件と増加しており、我が国における犯罪を全体的に捉えると、この3年間は年々その脅威が増大しつつあることがうかがえる。
そして、その内訳を見ると、人身事故件数は、令和3年が約31万件、4年が約30万件、5年が約31万件と、ほぼ横ばいであり、特別法犯の検挙件数も、3年から5年まで約8万件と変わらず、交通法令違反も、3年が約22万件、4年が約20万件、5年が約22万件と、やはりほぼ横ばいである。一方、警察による刑法犯の認知件数は、3年が約57万件、4年が約60万件(前年比5.8%増)、5年が約70万件(同17.0%増)と顕著に増加しており、ここ3年間では、刑法犯の認知件数の増加が図2における総数を押し上げているものと言え、とりわけ、4年から5年にかけては窃盗が40万7,911件から48万3,695件(同18.6%増)、詐欺が3万7,928件から4万6,011件(同21.3%増)へと増加している(1-1-2-1図<1>及び1-1-2-8図<6>参照)。
こうした令和5年における警察による刑法犯の認知件数は、3年及び4年の各件数を超えるのみならず、2年の約61万件も上回り、さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まる前である元年の約75万件に迫りつつあると言え(CD-ROM参照)、今後、このまま増加が続いて同件数を超えるのか否か、その動向にはなお一層の注視が必要である。
さらに、個別の犯罪類型では、令和4年版犯罪白書以来、その動向に着目してきた<1>児童虐待に係る事件、<2>配偶者からの暴力事案等、<3>サイバー犯罪、<4>特殊詐欺、<5>大麻取締法違反及び<6>危険運転致死傷の検挙件数につき、引き続き取り上げると、各犯罪類型の推移は、図3のとおりである。
令和5年の動向を加えても、いずれの犯罪類型でも、なお増加傾向又は高止まりの状態が継続しており、この3年間では、とりわけ、特殊詐欺について、3年が6,600件、4年が6,640件、5年が7,212件と漸次増加している状況にある(CD-ROM参照)。そして、これらの犯罪類型の中には、行為が密室で行われ、あるいは隠蔽されやすい犯罪や、手口の多様化・複雑化あるいは巧妙化が見られる犯罪などもあることから、抑止には困難を伴わざるを得ない。
このように、個別の犯罪類型に関する検挙件数の推移等から見ても、我が国の犯罪情勢については、引き続き予断を許さない状況にあると言える。
注 図1(1)法務総合研究所が資料を入手し得た数値で作成した(詳細はCD-ROM参照)。(2)警察庁の統計、警察庁交通局の統計、厚生労働省医薬局の資料、厚生労働省労働基準局の資料、経済産業省商務情報政策局産業保安グループの資料、国土交通省海事局の資料、海上保安庁の資料、水産庁資源管理部の資料及び法務省矯正局の資料による。(3)水産庁資源管理部の資料による検挙件数は、令和4年の数値である。(4)交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)の検挙件数は、送致件数を計上している。(5)警察以外による検挙件数は、漁業監督官(吏員)によるものを除き、送致件数を計上している。(6)罪種が不詳のものは、刑法犯に計上している。
図2(1)危険運転致死傷・過失運転致死傷等、特別法犯(交通法令違反を除く。)及び交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)については、警察庁交通局の統計及び警察庁の統計に認知件数がないことから、刑法犯における警察による認知件数におおよそ匹敵すると考えられる人身事故件数及び検挙件数をそれぞれ参考として用いた。(2)「人身事故」は、道路交通法2条1項1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うものをいう。(3)「刑法犯の認知件数」及び「人身事故件数」は、警察において把握したものに限る。(4)脚注図1(1)、(3)及び(4)に同じ。(5)警察庁の統計、警察庁交通局の統計、厚生労働省医薬局の資料、厚生労働省労働基準局の資料、経済産業省商務情報政策局産業保安グループの資料、国土交通省海事局の資料、海上保安庁の資料及び水産庁資源管理部の資料による。
図3(1)<1>・<2>は警察庁生活安全局の資料、<3>は警察庁サイバー警察局の資料、<4>は警察庁刑事局の資料、<5>は厚生労働省医薬局の資料、<6>は警察庁の統計に、それぞれよる。(2)詳細については、<1>につき第4編第6章第1節、<2>につき同章第2節、<3>につき同編第5章、<4>につき第1編第1章第2節3項(4)、<5>につき第4編第2章第1節2項、<6>につき同編第1章第2節2項を、それぞれ参照。