特別調査の結果、重大事犯類型では、友人関係、社会、自分の生き方に対する満足度が低い。自らの再犯・再非行の原因については、半数以上の者が、自己統制の問題を挙げていたことに加え、学業や仕事の継続や就労の失敗にあるとする者の該当率が、他の類型と比べて高いという特徴が見受けられ、安定した社会生活を送るための指導・支援の重要性がうかがえる。悩みを打ち明けられる人として、同性・異性の友達を挙げた者が少なく、学校生活で、「同級生から理解されていた」と感じた者も少ないなど、交友関係において、安定した交流を図りにくいことも考えられる。
そのため、重大事犯類型においては、施設内処遇の期間が長くなる傾向にあることを踏まえ、安定した就労の確保及び維持のために、職場における対人関係の築き方にも配慮しながら、指導・支援をしていくことが重要と考えられる。
粗暴犯類型では、家庭生活や友人関係に対する満足度が他の類型より高く、身近な周囲の者との関係は悪くないことがうかがえる。一方、「悪い者をやっつけるためならば、場合によっては腕力に訴えてもよい」について、「反対」の構成比が低いなど、もともと暴力を許容する態度・価値観を有しているところに、憤怒等の動機によって犯行に至る者が多いという特徴が見受けられる。加えて、人々が犯罪・非行に走る原因について、「自分自身」以外と捉える者が他の類型より多く、自らの再犯・再非行の原因について、「まじめな友達が少なかった・いなかったこと」とする者の該当率が他の類型より高いなど、他責的な傾向も見られる。
そのため、粗暴犯類型においては、暴力防止プログラム(第2編第5章第3節2項(3)参照)等により、怒りや暴力につながりやすい考え方の変容や暴力の防止に必要な知識の習得に努めさせることなどが有用と考えられる。
窃盗事犯類型では、全ての類型の中で検挙人員が最も多い上、年齢層が上がるにつれて、検挙人員が多くなっている。家庭生活や友人関係に対する満足度は、他の類型に比べて低い傾向にあり、自らの再犯・再非行の原因について、困ったときの相談相手や援助してくれる人が周りにいなかったことを挙げる者も多い。また、学業や仕事の継続や就労の失敗、被害者への謝罪等の対応が十分できなかったことの該当率が、他の類型と比べて高いという特徴も見受けられる。
そのため、窃盗事犯類型においては、就労支援等により安定した就労につなげることが重要であるとともに、場合によっては、相談・支援機関につなげることも必要であると考えられる。また、保護観察官や保護司等の適切な指導監督・補導援護の下、社会復帰後の就労により得た賃金等を原資とする被害弁償等の誠意をもった対応に取り組ませることも有用と考えられる。
詐欺事犯類型では、検挙人員については、増減を繰り返して推移しているところ、人口比で見ると、年長少年及び20歳代の者が高くなっている(8-3-1-1図CD-ROM参照)。一方、犯行の動機として生活困窮を挙げる者が多く、入所受刑者において住居不定の者の割合が高いという特徴も見られた。家庭生活や友人関係に対する満足度は比較的高い一方、態度・価値観に関しては、自分の欲望のためには、ルールを破るのも仕方ないとする者が多いなど、自分本位な特徴が見受けられる。また、自らの再犯・再非行の原因について、問題にぶつかると諦めたりしたことや処分を軽く考えていたこと等の該当率が高いなど安易な態度・価値観もうかがえる。
そのため、詐欺事犯類型においては、不安定な生活に起因した無銭飲食等の者も多いと思われることから、まずは生活を安定させるための指導・支援が必要と言える。一方、近時、若年者の関与が社会問題となっている特殊詐欺(第1編第1章第2節3項(4)参照)の者も相当数いると考えられるため、令和3年1月から新たに「特殊詐欺」の類型が加えられた、保護観察対象者に対する類型別処遇(第2編第5章第3節2項(2)参照)等を通じて、自分本位な態度等を改めさせるための処遇を実施することが望まれる。
性犯類型では、家庭生活に対する満足度は高く、悩みを打ち明けられる人では母親や父親を挙げる者の割合が顕著に高い。一方、友人関係に対する不満度が高いことから、家族など身近な存在とは良好な関係を築きながら、特定の他者との関係においては、不満を抱きやすい面もうかがえる。また、自分の犯罪の原因が分からないとする者の割合も他の類型に比べて高く、落ち着いて生活できる場所を見いだせないことを再犯・再非行の原因として挙げる者の割合も、他の類型に比べて顕著に高いという特徴が見受けられる
そのため、性犯類型においては、対人スキルの向上を念頭に置いた処遇を実施するとともに、刑事施設における特別改善指導として性犯罪再犯防止指導(第2編第4章第3節3項(2)参照)、保護観察中における専門的処遇プログラムとして性犯罪者処遇プログラム(同編第5章第3節2項(3))等により、性犯罪に結び付くおそれのある認知の偏り、自己統制力不足等の問題点を認識させるための処遇が有効であると考えられ、こうした指導・支援のより一層の充実が期待される。
薬物事犯類型では、「自分は意志が弱い」と回答した者の割合が高く、不良交友関係の継続を再犯・再非行の原因として挙げている者の割合が、他の類型と比べて顕著に高いという特徴が見受けられる。
そのため、薬物事犯類型においては、薬物使用に係る自己の問題性やその責任の重さを理解させた上で、薬物との関係断絶の意思を固めさせ、再使用に至らないための具体的な方法を考えさせることなどが必要であり、刑事施設における薬物依存離脱指導(第2編4章第3節3項(2)参照)の重要性が改めて確認された。また、更生保護の段階においても、薬物事犯の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を受けること等を特別遵守事項として定めるなどし(同編5章3節参照)、徹底した再犯・再非行の防止を図ることが重要と考えられる。
交通事犯類型では、家庭生活、友人関係、社会及び自分の生き方に対する満足度が、いずれも他の類型と比べて高く、社会生活に対して肯定的な回答をしている者の割合が高い。自らの再犯・再非行の原因については、処分を軽く考えていたことを挙げる者の割合が高いという特徴が見受けられる。
そのため、交通事犯類型においては、刑事施設における交通安全指導(第2編4章第3節3項(2)参照)等を通じて、運転者の責任と義務を自覚させ、罪の重さを認識させることなどが必要であり、処分を真摯に受け止めるよう働き掛けることが重要と考えられる。