前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

令和4年版 犯罪白書 第8編/第5章/第3節/1

第3節 犯罪者・非行少年の生活意識と価値観の特徴等を踏まえた処遇の在り方等
1 年齢層の違いによる特徴とそれを踏まえた処遇の在り方等
(1)年齢層の違いによる特徴等

特別調査の結果、周囲の環境や自分に関する意識に関し、家庭生活及び友人関係に対する満足度を見ると、少年(年少少年、中間少年及び年長少年をいう。以下この項において同じ。)は、いずれについても7割以上が「満足」と回答し、満足度が高い傾向が見られたが、年齢層が上がるにつれて、低くなる傾向にあり、高齢者は、いずれについても5割を下回っている。一方、悩みを打ち明けられる人を見ると、「誰もいない」の該当率が、20歳以上で年齢層が上がるにつれて、高くなっている。社会に対する満足度は、年齢層によるばらつきが大きいところ、30歳代の者(15.9%)は、「満足」の構成比が顕著に低く、同年齢層の不満の理由を見ると、半数以上の者が「金持ちと貧乏な人との差が大きすぎる」や「まじめな人がむくわれない」を挙げている。自己意識のうち「心のあたたまる思いが少ないという感じ」では、少年は、いずれも7割以上が「ない」と回答しているのに対し、高齢者は、7割以上が「ある」と回答している。就労に対する意識は、年齢層が低いほど、「汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい」と考える者の構成比が高い傾向にあり、若年層の就労に対する安逸的な傾向がうかがえる。

犯罪・非行に対する意識では、人々が犯罪・非行に走る原因、自らの再犯・再非行の原因を見ると、少年は、いずれも交友関係を挙げる割合が高い。心のブレーキについては、年齢層が上がるにつれて、「社会からの信用を失うこと」の構成比が高くなり、高齢者(19.3%)は、総数(10.4%)の約2倍高い。

今回の調査を含め、少年鑑別所入所者を対象に行った5回の調査結果を比べると、家庭生活に対する満足度、友人関係に対する満足度及び社会に対する満足度は、いずれも上昇傾向にある。それに対し、一般国民の生活への満足度は、10年前より低くなっており、令和3年の内閣府の「国民生活に関する世論調査」の結果では、現在の生活に対して充実感、満足感を感じているのは5割強である(8-2-14図及び8-2-15図参照)。特別調査の結果では、同年における犯罪者・非行少年の生活に対する満足度(家庭生活、友人関係、社会及び自分の生き方に対する各満足度)を見ると、家庭生活と友人関係に対する満足度は6割程度であり、一般国民の満足度と同程度ないしやや高めと言える一方、社会や自分の生き方に対する満足度が3割程度と低くなっており、生活意識については、犯罪者・非行少年に特有の特徴が見られる。

少年鑑別所入所者は、人々が犯罪・非行に走る原因について、「自分自身」と考える者の構成比が上昇傾向にあり、自らの再犯・再非行の原因についても、「自分の感情や考え方をうまくコントロールできなかったこと」、「自分が非行や犯罪をする原因が分かっていたが、対処できなかったこと」等の自分に関わる項目の該当率が高い点が特徴的である。また、心のブレーキを「父母のこと」とする者の構成比は、今回の調査(46.8%)では、平成10年調査(21.3%)の2倍以上になっている。これらの一連の調査を通じて浮かび上がった生活意識と価値観の変容にも、留意する必要がある。

(2)年齢層の違いによる特徴を踏まえた処遇の在り方等

前記(1)のとおり、非行少年や若年層の犯罪者は、家庭生活や友人関係に満足しており、心あたたまる思いを持っていながらも、就労に対して安逸的な姿勢のまま、不良な交友関係がきっかけとなって犯罪・非行に及ぶ特徴が見受けられる。一方、悩みを打ち明けられる人や心のブレーキとして家族を挙げる者の割合が高く、少年鑑別所入所者の家庭生活に対する満足度が、過去5回の調査で上昇し続けていることも踏まえれば、家族の存在が重要な社会資源であり、家族による監督・監護の重要性、必要性が大きくなっていると言える。もっとも、共働き世帯数及びひとり親世帯数の増加傾向等の家族関係の変化を踏まえると、家族による監督・監護を補完する支援の必要性も、より一層高まっていると考えられる。そこで、更生保護女性会、BBS会等のボランティア、協力雇用主等(第2編第5章第6節参照)による支援の輪を一層拡大・充実させることが望まれる。さらに、社会に対する満足度が顕著に低い30歳代の犯罪者等については、地域活動等への関わりによって社会に参与している感覚を得ることにより、社会に対する不満を解消することにつながると考えられ、地域貢献等を通じた地域社会との交わりによって、地域社会からより一層の支援を得ることにつながることが期待される。社会内処遇においては、地域におけるボランティア活動等への参加を促すことなども有用と考えられる。

若年層では、就労に対する安逸的な傾向も見られたため、できる限り早期に健全な就労意識を養わせつつ、就労を確保・維持することが必要と考えられる。加えて、不良な交友関係等の影響も大きいことが示唆されたことから、就労の確保と併せて、不良交友からの離脱に向けた指導・支援をより一層充実させることも必要である。この点、近年、我が国における進学率や就職率は、高水準にあるものの、就職後1年間の離職率も一定程度あることに留意が必要である。また、SNS利用率が大いに上昇しているなどオンライン上のコミュニケーションが発達しているところ、それらの通信手段は、その匿名性ゆえに犯罪・非行の契機や原因となるリスクも小さくない。そのため、そのリスク等の啓発活動を更に推進し、そのリスクに関する教育を徹底することも重要と考えられる。

高齢者では、若年層に比べて、家庭生活及び友人関係に対する満足度が低く、悩みを打ち明けられる人もいない割合が高いなど、身近にサポートしてくれる存在が得られにくいことがうかがえる。その一方で、社会からの信用を失うことを心のブレーキと考えている割合が高く、社会とのつながりが資源になることが考えられる。「国民生活に関する世論調査」からも、年齢層が上がるにつれて、働く目的として「お金を得る」よりも「社会の一員としての務め」、「生きがい」が重視されることがうかがえる。そのため、高齢者については、その家族も高齢である場合も少なくないことなども踏まえ、社会において孤立させることのないよう、福祉との連携や、地域における支援により一層配意することが有用と考えられる。福祉的支援の必要性が高い高齢の犯罪者に対しては、刑事施設における特別調整等を活用し、堅実に新たな生活をスタートさせた事例(コラム10)も、一つの参考になると思われる。