保護観察対象者の処遇は、原則として、保護観察官と保護司が協働して実施するほか、定期駐在制度(保護観察官が、市町村や公的機関、各更生保護施設等、あらかじめ定められた場所に、毎週又は毎月等定期的に出張し、保護観察対象者やその家族等関係者との面接等を行うもの)を併せて実施している。
保護観察対象者に対するより効果的な処遇を実施するため、令和3年1月から、CFP(Case Formulation in Probation/Parole)を活用したアセスメントに基づく保護観察を実施している。
CFPは、理論的かつ実証的な根拠を基盤とし、再犯リスクの程度の評価や処遇方針の決定に資する情報の収集及び分析の方法を構造化したアセスメントツールであり、平成30年10月からの試行期間を経て導入したものである。
具体的には、保護観察対象者の属性、犯罪・非行歴等に基づいて再犯リスクの程度を評定するとともに、家庭、家庭以外の対人関係、就労・就学、物質使用、余暇、経済状態、犯罪・非行等の状況、心理・精神状態の8つの領域ごとに犯罪や非行に結び付く要因及び改善更生に資する事項(強み)を抽出し、これらの相互作用、因果関係等について分析して図示することなどにより、犯罪や非行に至る過程や、処遇による介入対象とすべき要因を明らかにするものである。
保護観察の実施に当たっては、これらの分析結果等を踏まえて保護観察対象者ごとに接触頻度等の処遇密度(処遇区分)を定めるとともに、保護観察の実施計画を作成するなどして、指導監督・補導援護その他の措置を適期適切に行い、処遇の実効性を高めている。
類型別処遇は、保護観察対象者の問題性その他の特性を、その犯罪・非行の態様等によって類型化して把握し、類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた処遇を実施するものである。令和3年1月に、保護観察の実効性を一層高めることを目的として、類型に新たに「ストーカー」、「特殊詐欺」、「嗜(し)癖的窃盗」及び「就学」を加え、「暴力団等」及び「薬物」について認定対象を拡大するなどしたほか、各類型が着目する領域にまとめられ、全体の構造が体系化された。同年末における仮釈放者(全部実刑者及び一部執行猶予者)及び保護観察付全部・一部執行猶予者の類型認定状況は、2-5-3-6表のとおりである。
ある種の犯罪的傾向を有する保護観察対象者に対しては、指導監督の一環として、その傾向を改善するために、心理学等の専門的知識に基づき、認知行動療法(自己の思考(認知)のゆがみを認識させて行動パターンの変容を促す心理療法)を理論的基盤とし、体系化された手順による処遇を行う専門的処遇プログラムが実施されている。
専門的処遇プログラムとしては、性犯罪者処遇プログラム、薬物再乱用防止プログラム、暴力防止プログラム及び飲酒運転防止プログラムの4種があり、その処遇を受けることを特別遵守事項として義務付けて実施している。
性犯罪者処遇プログラムは、自己の性的欲求を満たすことを目的とする犯罪に当たる行為を反復する傾向を有する者に対し、性犯罪に結び付くおそれのある認知の偏り、自己統制力の不足等の自己の問題性について理解させるとともに、再び性犯罪をしないようにするための具体的な方法を習得させ、前記傾向を改善するものであり、コア・プログラムを中核として、導入プログラム、指導強化プログラム及び家族プログラムを内容とする。このうちコア・プログラムを受けることを特別遵守事項として義務付けている。
薬物再乱用防止プログラムは、依存性薬物(規制薬物等(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律2条1項に規定する規制薬物等)、指定薬物(医薬品医療機器等法2条15項に規定する指定薬物)及び危険ドラッグ(その形状、包装、名称、販売方法、商品種別等に照らして、過去に指定薬物が検出された物品と類似性があり、指定薬物と同等以上に精神毒性を有する蓋然性が高い物である疑いのある物品)をいう。以下(3)及び(6)において同じ。)の使用を反復する傾向を有する者に対し、依存性薬物の悪影響と依存性を認識させ、依存性薬物を乱用するに至った自己の問題性について理解させるとともに、再び依存性薬物を乱用しないようにするための具体的な方法を習得させ、実践させるものであり、コアプログラム、コアプログラムの内容を定着・応用又は実践させるためのステップアッププログラム及び簡易薬物検出検査を内容とする。なお、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律の規定により保護観察に付された者については、原則として、薬物再乱用防止プログラムを受けることを猶予期間中の保護観察における特別遵守事項として定めている。
暴力防止プログラムは、身体に対する有形力の行使により、他人の生命又は身体の安全を害する犯罪に当たる行為を反復する傾向を有する者に対し、怒りや暴力につながりやすい考え方の変容や暴力の防止に必要な知識の習得を促すとともに、同種の再犯をしないようにするための具体的な方法を習得させ、前記傾向を改善するものである。なお、令和元年10月から、児童に対する虐待行為をした者について、暴力防止プログラムの対象者には当たらない場合であっても、その問題性に適合し、かつ改善更生に資する処遇を行うことを目的として、同プログラム(児童虐待防止版)が試行されている。
飲酒運転防止プログラムは、飲酒運転を反復する傾向を有する者に対し、アルコールが心身及び自動車等の運転に与える影響を認識させ、飲酒運転に結び付く自己の問題性について理解させるとともに、再び飲酒運転をしないようにするための具体的な方法を習得させ、前記傾向を改善するものである。
これらの専門的処遇プログラムは、特別遵守事項として義務付けて実施する以外に、必要に応じて生活行動指針として定めるなどして実施することもある。専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員の推移(最近10年間)は、2-5-3-7図のとおりである。
自己の犯罪により被害者を死亡させ、又は重大な傷害を負わせた保護観察対象者には、しょく罪指導プログラムによる処遇を行うとともに、被害者等の意向にも配慮して、誠実に慰謝等の措置に努めるように指導している。令和3年にしょく罪指導プログラムの実施が終了した人員は、371人であった(法務省保護局の資料による。)。
なお、平成25年4月から、法テラス(本編第1章2項及び第6編第2章第1節7項参照)と連携し、一定の条件に該当する保護観察対象者が被害弁償等を行うに当たっての法的支援に関する手続が実施されている(令和3年度までの処理件数は27件であった(法テラスの資料による。)。)。
仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者のうち、暴力的性向があり処遇上特に注意を要する者で、児童虐待、配偶者暴力、家庭内暴力、ストーカー、暴力団等、精神障害、薬物、アルコールのいずれかの類型に認定された者等を特定暴力対象者とし(なお、令和3年1月の類型別処遇の一部改正に伴い、対象となる類型が変更された。)、保護観察官が直接、又は直接的関与を強化した保護司との協働態勢で、処遇を実施している。同年に特定暴力対象者として認定された人員(受理人員)は、仮釈放者(全部実刑者)が182人、仮釈放者(一部執行猶予者)が1人、保護観察付全部執行猶予者が40人、保護観察付一部執行猶予者が9人であった(法務省保護局の資料による。)。
このほか、保護観察所と警察との間において、ストーカー行為等に係る仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者について、保護観察実施上の特別遵守事項及びそれぞれが把握した当該対象者の問題行動等の情報を共有し、再犯を防止するための連携強化を図っている。
薬物事犯者の保護観察対象者に対し、薬物依存に関する専門的な知見に基づき、薬物依存に関する専門的な処遇を集中して行うことにより、効果的な保護観察を実施するため、令和4年4月1日現在、28庁の保護観察所において薬物処遇ユニットが設置されている(法務省保護局の資料による。)。なお、同ユニットが設置されていない保護観察所においても、同ユニットに準じて、薬物事犯者に係る処遇体制が整備されている。
依存性薬物の所持・使用により保護観察に付された者であって、薬物再乱用防止プログラム(本項(3)参照)に基づく指導が義務付けられず、又はその指導を受け終わった者等に対し、必要に応じて、断薬意志の維持等を図るために、その者の自発的意思に基づいて簡易薬物検出検査を実施することがある。令和3年における実施件数は5,045件であった(法務省保護局の資料による。)。
保護観察所は、依存性薬物に対する依存がある保護観察対象者等について、民間の薬物依存症リハビリテーション施設等に委託し、依存性薬物の使用経験のある者のグループミーティングにおいて、当該依存に至った自己の問題性について理解を深めるとともに、依存性薬物に対する依存の影響を受けた生活習慣等を改善する方法を習得することを内容とする薬物依存回復訓練を実施している。令和3年度に同訓練を委託した施設数は50施設であり(前年比10施設増)、委託した実人員は、628人(同124人増)であった(法務省保護局の資料による。)。
また、保護観察所は、規制薬物等に対する依存がある保護観察対象者の改善更生を図るための指導監督(本節参照)の方法として、医療・援助を受けることの指示等(通院等指示)を行っているところ、一定の要件を満たした者について、コアプログラムの開始を延期若しくは一部免除し、又はステップアッププログラムの開始を延期若しくは一時的に実施しないことができる。令和3年において、コアプログラムの開始を延期した件数は91件、ステップアッププログラムを一時的に実施しないこととした件数は104件であった(法務省保護局の資料による。)。
さらに、薬物犯罪の保護観察対象者が、保護観察終了後も薬物依存からの回復のための必要な支援を受けられるよう、保護観察の終了までに、精神保健福祉センター等が行う薬物依存からの回復プログラムや薬物依存症リハビリテーション施設等におけるグループミーティング等の支援につなげるなどしている。令和3年度において、保健医療機関等による治療・支援を受けた者は536人であった(法務省保護局の資料による。)。
窃盗事犯者は、保護観察対象者の多くを占め、再犯率が高いことから、嗜(し)癖的な窃盗事犯者に対しては、その問題性に応じ、令和2年3月から、「窃盗事犯者指導ワークブック」や自立更生促進センターが作成した処遇プログラムを活用して保護観察を実施している(女性の保護観察対象者のうち、窃盗事犯者に対する処遇については、第4編第7章第2節3項参照)。
無期刑又は長期刑の仮釈放者は、段階的に社会復帰させることが適当な場合があるため、本人の意向も踏まえ、必要に応じ、仮釈放後1か月間、更生保護施設で生活させて指導員による生活指導等を受けさせる中間処遇を行っており、令和3年は40人に対して実施した(法務省保護局の資料による。)。
出所受刑者等の社会復帰には、就労による生活基盤の安定が重要な意味を持つため、従来から保護観察の処遇において就労指導に重きを置いているが、法務省は、厚生労働省と連携し、出所受刑者等の就労の確保に向けて、刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施している(本章第6節4項(3)参照)。また、令和3年度は、保護観察所23庁が更生保護就労支援事業を実施しており、このうち3庁での事業は更生保護被災地域就労支援対策強化事業と位置付けられている(法務省保護局の資料による。)。
なお、令和3年度に刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施した保護観察所において、就職活動支援が終了した者は延べ2,476人であり、そのうち延べ1,963人(79.3%)が就職に至った(法務省保護局の資料による。)。
保護観察対象者による社会貢献活動は、自己有用感の涵(かん)養、規範意識や社会性の向上を図るため、公共の場所での清掃活動や、福祉施設での介護補助活動といった地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を継続的に行うことを内容とするものである。活動の実施においては、他者とコミュニケーションを図ることによって処遇効果が上がることを期待し、更生保護女性会員やBBS会員等の協力者を得て行われることが多い。令和元年に実施要領が改訂され、実施回数や対象者の選定がより柔軟に行われるようになった。
令和4年3月末現在、活動場所として2,069か所(うち、福祉施設1,027か所、公共の場所806か所)が登録されている。また、実施回数、参加延べ人数について、2年度は、379回(前年比663回減)、665人(同1,113人減)であったが、3年度は、322回(前年比57回減)、554人(同111人減)であった。3年度の参加延べ人数の内訳は、保護観察処分少年225人、少年院仮退院者26人、仮釈放者119人、保護観察付全部・一部執行猶予者184人であった(法務省保護局の資料による。)。なお、実施回数及び参加人員については、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から期日の延期等、活動計画が変更された影響が続いていると考えられる。
親族等や民間の更生保護施設では円滑な社会復帰のために必要な環境を整えることができない仮釈放者、少年院仮退院者等を対象とし、保護観察所に併設した宿泊施設に宿泊させながら、保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで、対象者の再犯防止と自立を図ることを目的に設立された国立の施設を自立更生促進センターといい、全国に四つの施設がある。北九州自立更生促進センター(平成21年6月開所、定員男性14人)及び福島自立更生促進センター(22年8月開所、定員男性20人)は、仮釈放者等を対象とし、犯罪傾向等の問題性に応じた重点的・専門的な処遇を行っている。自立更生促進センターのうち、主として農業の職業訓練を実施する施設を就業支援センターといい、少年院仮退院者等を対象とする北海道の沼田町就業支援センター(19年10月開所、定員男性12人)、仮釈放者等を対象とする茨城就業支援センター(21年9月開所、定員男性12人)が、それぞれ運営されている。各施設における開所の日から令和4年3月末までの入所人員は、北九州自立更生促進センターが350人、福島自立更生促進センターが153人、沼田町就業支援センターが79人、茨城就業支援センターが193人である(法務省保護局の資料による。)。