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令和4年版 犯罪白書 第2編/第4章/第3節/3

3 矯正指導

刑執行開始時の指導、改善指導、教科指導及び釈放前の指導の四つを総称して矯正指導という。

(1)刑執行開始時の指導

受刑者には、入所直後、原則として2週間の期間で、受刑等の意義や心構え、矯正処遇を受ける上で前提となる事項(処遇制度、作業上の留意事項、改善指導等の趣旨・概要等)、刑事施設における生活上の心得、起居動作の方法等について指導が行われる。

(2)改善指導

改善指導は、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、社会生活に適応するのに必要な知識及び生活態度を習得させるために行うもので、一般改善指導及び特別改善指導がある。

一般改善指導は、講話、体育、行事、面接、相談助言その他の方法により、<1>被害者及びその遺族等の感情を理解させ、罪の意識を培わせること、<2>規則正しい生活習慣や健全な考え方を付与し、心身の健康の増進を図ること、<3>生活設計や社会復帰への心構えを持たせ、社会適応に必要なスキルを身に付けさせることなどを目的として行う。また、高齢又は障害を有する受刑者のうち、特別調整等の福祉的支援を必要とする者又は受講させることにより改善更生及び円滑な社会復帰に資すると見込まれる者を対象に、出所後の円滑な社会生活を見据えた多様な指導を実施することを目的とした「社会復帰支援指導プログラム」が策定され、全国的に展開されている。

特別改善指導は、薬物依存があったり、暴力団員であるなどの事情により、改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対し、その事情の改善に資するよう特に配慮して行う。現在、<1>「薬物依存離脱指導」(薬物使用に係る自己の問題性を理解させた上で、再使用に至らないための具体的な方法を考えさせるなど。令和3年度の実施指定施設数は74庁。)、<2>「暴力団離脱指導」(警察等と協力しながら、暴力団の反社会性を認識させる指導を行い、離脱意志の醸成を図るなど。同35庁。)、<3>「性犯罪再犯防止指導」(性犯罪につながる認知の偏り、自己統制力の不足等の自己の問題性を認識させ、その改善を図るとともに、再犯に至らないための具体的な方法を習得させるなど。性犯罪者調査、各種プログラムの実施、メンテナンスの順に行われる。同20庁。)、<4>「被害者の視点を取り入れた教育」(罪の大きさや被害者等の心情等を認識させるなどし、被害者等に誠意をもって対応するための方法を考えさせるなど。同75庁。)、<5>「交通安全指導」(運転者の責任と義務を自覚させ、罪の重さを認識させるなど。同54庁。)及び<6>「就労支援指導」(就労に必要な基本的スキルとマナーを習得させ、出所後の就労に向けての取組を具体化させるなど。同65庁。)の6類型の特別改善指導を実施している。薬物依存離脱指導については、標準プログラムを複線化した必修プログラム(麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存があると認められる者全員に対して実施するもの(同年度の受講開始人員は4,206人))、専門プログラム(より専門的・体系的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの(同1,190人))、選択プログラム(必修プログラム又は専門プログラムに加えて補完的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの(同1,648人))を受刑者個々の問題性やリスク、刑期の長さ等に応じ、組み合わせて実施している。

特別改善指導の受講開始人員の推移(最近10年間)は、2-4-3-3図のとおりである。

2-4-3-3図 特別改善指導の受講開始人員の推移
2-4-3-3図 特別改善指導の受講開始人員の推移
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(3)教科指導

教科指導とは、学校教育の内容に準ずる指導である。社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対して行う教科指導(補習教科指導)のほか、学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる受刑者に対しても、その学力に応じた教科指導(特別教科指導)を行っており、令和3年度の教科指導の受講開始人員は、補習教科指導が734人、特別教科指導が314人であった(法務省矯正局の資料による。)。

法務省と文部科学省の連携により、刑事施設内において、高等学校卒業程度認定試験を実施し、また、指定された4庁の刑事施設において、同試験の受験に向けた指導を積極的かつ計画的に実施している。令和3年度の受験者数は354人であり、合格者数は、高卒認定試験合格者が147人、一部科目合格者が200人であった(文部科学省総合教育政策局の資料による。)。

松本少年刑務所には、我が国において唯一、公立中学校の分校が刑事施設内に設置されており、全国の刑事施設に収容されている義務教育未修了者等のうち希望者を中学3年生に編入させ、地元中学校教諭、職員等が、文部科学省の定める学習指導要領を踏まえた指導を行っているところ、昭和30年度から令和3年度までに770人が卒業している。また、近隣の高等学校の協力の下、当該高等学校の通信制課程に受刑者を編入させ、指導を行う取組を実施している刑事施設も2庁あり、所定の課程を修了したと認められた者には、当該高等学校の卒業証書が授与されている。このうち、全国の刑事施設から希望者を募集して実施している松本少年刑務所では、昭和41年度から令和3年度までに192人が卒業し、盛岡少年刑務所では、昭和51年度から令和3年度までに154人が卒業している。

(4)釈放前の指導

受刑者には、釈放前に、原則として2週間の期間で、釈放後の社会生活において直ちに必要となる知識の付与や指導が行われる。