出所後に頼るべき親族等がいない高齢出所受刑者の帰住先は,特別調整等により確保された福祉施設等だけではない。高齢出所受刑者のうち仮釈放となった者の帰住先について見ると,更生保護施設等を出所後の帰住先とする者が最も多く,約4割を占めている(7-3-4-7図CD-ROM参照)。
7-5-1-10図は,平成25年の出所受刑者のうち,出所後の帰住先が更生保護施設等である者と帰住先が不明等である者について,5年以内の再入率を高齢・非高齢別に見るとともに,刑事施設への入所度数別に見たものである。入所度数による再入率の違いは大きいが,その多寡を問わず,高齢者,非高齢者共に,帰住先が更生保護施設等である者は,帰住先が不明等である者よりも再入率が一貫して低く,特に高齢者の出所年及び2年以内の再入率についてはその差が大きい。
更生保護施設においては,平成21年度から,高齢又は障害によって特に自立が困難な刑務所出所者等に対し,社会生活に適応するための指導や自立した日常生活のための訓練,医療機関と連携した健康維持のための助言,更生保護施設退所後に円滑に福祉サービス等を受けることができるようにするための手続の支援や調整等,その特性に応じた処遇(以下「特別処遇」という。)を実施しており,30年4月1日現在,社会福祉士等の職員の配置やバリアフリー等の必要な施設整備等がなされた71の更生保護施設が,特別処遇を実施する施設(以下「指定更生保護施設」という。)に指定されている(法務省保護局の資料による。)。
また,高齢受刑者等に対する特別調整の結果,福祉施設等の受入先が確保できたものの,受入先の事情等により矯正施設からの釈放後直ちには福祉施設等に入居できないような者や,釈放時までに福祉施設等への受入れが決まらず,引き続き調整することとなった者についても,一時的に指定更生保護施設において受け入れ,特別処遇を実施することがあり,その際は,地域生活定着支援センターや受入先となる福祉施設等へ特別処遇対象者の心身の状況や生活状況の伝達等を行っている。
特別処遇対象人員の推移(平成21年度以降。非高齢者を含む。)は,7-5-1-11図のとおりである。特別処遇対象人員は,22年度から増加傾向にあり,29年度は,21年度(392人)と比較して約4.4倍になっている(CD-ROM 参照)。
7-5-1-12図は,平成29年1月から同年3月までの間に更生保護施設を退所した特別処遇対象者の属性及び退所事由等について,法務省保護局が行った調査の結果を,高齢・非高齢別に見たものである。
属性を見ると,性別では,高齢者,非高齢者共に,男性の占める割合が8割を超えており,特に高齢者では,約9割が男性である。年齢層では,高齢者において,60歳代の占める割合が最も高い。入所時の保護観察等の種類別では,高齢者,非高齢者共に,仮釈放者の占める割合が最も高く,約7割を占めている。
退所事由等を見ると,高齢者,非高齢者共に,自立退所と福祉等への移行を合わせた者の占める割合が8割を超えており,特に高齢者では,無断退所や再犯等により更生保護施設を退所した者は1割に満たない。退所事由が福祉等への移行である者について退所先を見ると,高齢者は,非高齢者と比べ,民間賃貸住宅への単身入居の占める割合が高く,家族・知人等との同居の占める割合は低い。
これら特別処遇対象者のうち高齢者で,かつ何らかの障害が認められる者は18名(12.9%)であり,特別調整対象者(33.2%)と比べると(7-5-1-4図参照),障害が認められる者の占める割合は低い(法務省保護局の調査による。)。
法務総合研究所では,更生保護施設における高齢犯罪者の受入れ及び処遇の実態について明らかにすることを目的に,平成30年1月,全国の更生保護施設に対してアンケート調査を行い,そのうち29年に高齢対象者(更生保護施設での新規委託受理時の年齢が65歳以上の者をいう。以下この項において同じ。)を受け入れた実績のある94施設からの回答を分析した。
調査対象施設には,当てはまる選択肢を複数選択する形式の質問を行い,7-5-1-13図,7-5-1-14図及び7-5-1-16図に係る質問については,選択したもののうち当該施設において最も当てはまる選択肢から順に第1位,第2位,第3位と順位付けを求め,集計の際は,第1位を3点,第2位を2点,第3位を1点,それ以外は0点として計上した上,各選択肢別に得点の平均値(以下この項において「順位得点」という。)を算出した。
7-5-1-13図は,更生保護施設が生活環境の調整(第2編第5章第1節2項参照)等の段階で対象者の受入れの可否を検討・判断する際に特に重視している事項を見たものである。対象者が高齢者である場合と非高齢者である場合を比較すると,いずれも,身体疾患等,精神疾患等及び過去の更生保護施設での問題行動が多く選択されているが,順位得点を見ると,高齢者の場合は,身体疾患等や精神疾患等が最も重視されているのに対し,非高齢者の場合は,フルタイムで就労できる能力・意欲が最も重視されている。また,高齢者の場合は,非高齢者の場合と比べて,退所後の住居等の見通し,年金・社会保険の状況,障害者手帳の有無等(福祉等サービスの受給歴を含む。),緊急時の連絡先の有無,地域生活定着支援センター等(刑事施設の社会福祉士を含む。)の関与といった,住居や福祉的支援に関する事項が多く選択されている一方,フルタイムで就労できる能力・意欲や,本件及び前科の罪名は非高齢者ほど重視されていない。なお,同じ稼働能力に関する項目であっても,短時間でも就労できる能力・意欲については,高齢者の場合と非高齢者の場合で選択率に大きな差はない。
7-5-1-14図は,更生保護施設が受け入れた対象者について処遇上で特に苦慮している事項を見たものである。対象者が高齢者である場合と非高齢者である場合を比較すると,高齢者の場合,退所先の確保が最も多く,8割以上の施設で選択されており,次いで就職の難しさ及び高齢者特有の認知機能の低下であった。また,順位得点で見ると,非高齢者の場合と比べて,退所先の確保はもとより自治体や福祉施設等の関係機関との間の福祉等サービスの調整や,急な体調悪化等による医療の調整についてより苦慮している。これに対し,非高齢者の場合に多く選択され,順位得点も高い,金銭管理(浪費等)の問題性の改善,アルコール・薬物への依存の問題性の改善,職場定着の難しさ(短期離職等)は,高齢者の場合は選択率が低く,苦慮する事項とは捉えられていない。なお,非高齢者の場合でも,退所先の確保が約6割の施設で選択されている。
7-5-1-15図は,指定更生保護施設の指定を受けたことにより高齢者の受入れや処遇の面において変化した事項を見たものである。平成21年度に指定を受けた施設(以下「21年度指定施設」という。)56施設と28年度に指定を受けた施設(以下「28年度指定施設」という。)14施設の結果を比較すると,いずれも,高齢者の受入れの積極化が最も多く選択されている。また,28年度指定施設で多く選択された,福祉専門職員以外の職員の高齢者処遇への積極化は,21年度指定施設でも6割以上の選択率である。さらに,21年度指定施設では,28年度指定施設と比べ,地域での福祉ネットワーク(地方公共団体や福祉・医療機関等)の広がり,退所先の調整の円滑化,施設全体の高齢者の処遇に対する知識・技術の向上,高齢者の受入れや処遇に対する不安の軽減が多く選択されており,指定施設となって以降の高齢者の受入れと処遇の経験の蓄積に伴うと見られる,職員全体の処遇力の向上や退所先確保につながる関係機関との連携強化等の前向きな変化が認められる。
7-5-1-16図は,今後,高齢者の受入れや処遇の機能の充実を図るため特に必要な事項を見たものである。21年度指定施設56施設とそれ以外の38施設(28年度指定施設14施設及び指定を受けていない24施設)を比較すると,21年度指定施設では,それ以外の施設と比べ,受刑中の認知症等の疾患及び身体機能の精査や,受刑中の改善指導等,釈放後の受入れに当たっての受刑中の事前準備や犯罪性の改善に係る事項が選択される割合が高く,医療機関との連携や福祉専門職員の(増)配置等,地域のネットワーク構築に関係する事項については,選択される割合が低い。また,順位得点で見ると,21年度指定施設では,それ以外の施設と比べ,受刑中の認知症等の疾患及び身体機能の精査や,受刑中の詳細な医療情報の提供等,高齢対象者を医療・福祉機関等につなぎやすくするような事項を特に必要と考えている。
高齢出所受刑者の帰住先について見ると,仮釈放となった者では,出所後の帰住先が親族のもとである者が半数近くを占めており(7-3-4-7図CD-ROM参照),高齢出所受刑者であっても頼るべき親族が存在する者が一定の割合を占める。保護観察所においては,こうした住居確保に問題のない者も含め,高齢の保護観察対象者について各種の処遇を行っている。
7-5-1-17図は,平成29年末現在において保護観察中の,高齢の仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者のうち,70歳以上の者について,法務省保護局が行った就労・ADL(起き上がり,歩行,食事,排泄,着替え,入浴等の日常生活動作)・認知機能の状況に関する調査の結果を年齢層別に見たものである。
就労の状況については,仮釈放者,保護観察付全部・一部執行猶予者共に,年齢層が高い者ほど,有職者の占める割合が低くなっている。また,仮釈放者は,保護観察付全部・一部執行猶予者と比べ,全年齢層で有職者の比率が高い。
ADL及び認知機能の状況については,仮釈放者,保護観察付全部・一部執行猶予者共に,年齢層が高い者ほど,これらの機能に問題がある者の占める割合が高くなっており,保護観察付全部・一部執行猶予者の認知機能において特にその傾向が顕著である。また,仮釈放者は,保護観察付全部・一部執行猶予者と比べ,79歳以下の年齢層でADLに問題のある者の比率が低く,全年齢層で認知機能に問題のある者の比率が低い。
高齢の保護観察対象者であっても,ADLや認知機能に特段の問題がない者は多く,一定数が就労している(7-3-5-8図,7-5-1-17図参照)。また,保護観察対象者全体において,保護観察終了時に無職であった者は,有職であった者と比べ,取消・再処分率が顕著に高いところ(5-2-4-4図参照),高齢の保護観察対象者のうち仮釈放者については同様の傾向が認められる(7-3-5-9図参照)。こうした状況を踏まえ,保護観察所においては,高齢の保護観察対象者に対しても就労支援を実施している。
7-5-1-18図は,平成29年4月から同年9月までの間に就職活動支援を開始した更生保護就労支援事業(第2編第5章第2節2項(4)参照)の対象者について,法務省保護局が行った就職活動支援の状況に関する調査の結果を高齢・非高齢別に見たものである。高齢者では,非高齢者と比べ,仮釈放者の割合が高く,居住状況では更生保護施設に居住する者の割合が高い。就職活動支援の終了事由を見ると,高齢者では,非高齢者より割合は低いものの,支援の結果,就労に至った者が約半数を占めている。また,就労に至った者について見ると,高齢者は,非高齢者と比べ,就職先では協力雇用主の占める割合が高く,業種では建設業の占める割合が低い一方,サービス業の占める割合が高く,雇用形態では,正社員以外の占める割合が顕著に高い。
保護観察所では,高齢の保護観察対象者に対しても,類型別処遇(第2編第5章第2節2項(2)ア参照)等の特性に応じた処遇を行っている。
7-5-1-19表は,平成29年4月1日現在における類型「高齢」(類型の認定時に65歳以上であった者をいう。)に認定された仮釈放者及び保護観察付全部執行猶予者の,他の類型の認定状況を見たものである(同日現在で類型「高齢」に認定された保護観察付一部執行猶予者はいなかった。)。最も多い類型は「問題飲酒」であり,次いで仮釈放者では「ギャンブル等依存」が,保護観察付全部執行猶予者では「精神障害等」が多く,仮釈放者,保護観察付全部執行猶予者共に,保護観察対象者全体と比べ,全体的に各類型に認定された者の比率が低い中で,類型「問題飲酒」の占める比率はわずかに高い(2-5-2-5表参照)。