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平成30年版 犯罪白書 第7編/第5章/第1節/コラム4

コラム4 ドイツ・高齢受刑者の社会復帰支援における社会福祉機関の役割

ドイツにおいては,地方自治体の予算を主な資金源として運営される社会福祉機関が,様々な段階で受刑者・犯罪者に対する支援を行っている。活動資金の約1割は寄附によって支えられており,罰金刑の執行により政府が得た金銭の一部も社会福祉機関に寄附される。

バーデン・ヴュルテンベルグ州シュトゥットガルト市にあるシュトゥットガルト社会福祉協力団体(Sozialberatung Stuttgart e.V.)では,協力関係にあるヴュルテンベルグ社会内処遇・犯罪者支援協会(Bewährungs- und Straffälligenhilfe Württemberg e.V.)などと共に,受刑者及びその家族に対する精神的・経済的なサポート(社会復帰支援・負債相談や出所後の生活指導,住居の提供等),再犯防止への取組,犯罪者・被害者に対する研修や和解への関与等を行っており,主に社会福祉を専門とする職員たちが,ボランティアスタッフの助力も得つつ,住居支援を行う部門,再犯防止をサポートする部門,暴力防止をサポートする部門等に分かれて活動している。州内で,受刑者の子供に対し経済面や受刑者との面会におけるサポートをしたり,罰金刑を課された者に対しその支払のため労働の機会を提供しているが,最も件数が多いのは,州内に5か所ある刑務所の受刑者のうちシュトゥットガルト周辺に地縁を有する者に対し,出所に向けたサポートをする活動である。具体的には,受刑者の健康面や経済面の相談に乗ったり,家族との間の橋渡し役をしたり,出所後の受入予定先施設に対し,性犯罪や暴力犯で服役した者に関し配慮すべき事項の助言をする。住居支援の活動においては,住居のあっせんをするだけでなく,団体として自ら契約している集合住宅に入居させたり,出所後も継続的に生活面のサポートを行ったりするケースもある。

2018年3月からは,受刑者の中でも特に高齢者を対象とした社会復帰プロジェクトがスタートした。高齢者については,出所後は福祉施設に入るケースが多いため,適当な福祉施設を探すことが最も重要となる。特に高齢かつ長期刑受刑者の社会復帰に当たっては,受入れに消極的な福祉施設も多いが,同団体の職員が福祉施設に対し説明・説得したり,必要な治療・介護やその費用を明らかにしたりして,高齢受刑者についても円滑な社会復帰ができるようサポートを行っている。

ドイツでも出所者・犯罪者支援は困難な問題であり,特に高齢犯罪者の社会復帰・再犯防止支援は容易でないものの,社会福祉機関においては,帰住先確保を最優先事項として精力的に活動し,再犯防止に一定の成果を上げている。出所・社会復帰後の生活を確保するための年金制度や生活保護制度が犯罪者や出所者にも行き渡っており,ヨーロッパ社会における慈善事業の伝統や老人福祉施設等を多数運営する教会等の存在も重要な背景をなしている。

シュトゥットガルト社会福祉協力団体による説明の様子
シュトゥットガルト社会福祉協力団体による説明の様子