保護観察対象者に対する処遇は,段階別処遇と,類型別処遇等の問題性に応じた処遇を軸として行われる。
段階別処遇は,保護観察対象者を,改善更生の進度や再犯可能性の程度及び補導援護の必要性等に応じて,4段階に区分し,各段階に応じて保護観察官の関与の程度や接触頻度等を異にする処遇を実施する制度である。
無期刑又は長期刑(執行刑期が10年以上の刑をいう。以下この項において同じ。)の仮釈放者は,社会復帰に種々の困難があるため,仮釈放後1年間は,最上位の段階に区分し,必要に応じて複数の保護観察官が関与するなどして,充実した処遇を行っている。
類型別処遇は,保護観察対象者の問題性その他の特性を,その犯罪・非行の態様等によって類型化して把握し,類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた効率的な処遇を実施することにより,保護観察の実効性を高めることを目的とした制度である。平成28年末における仮釈放者及び保護観察付全部執行猶予者の類型の認定状況は,2-5-2-5表のとおりである。
仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者のうち,暴力的犯罪を繰り返してきた者で,シンナー等乱用,覚せい剤事犯,問題飲酒,暴力団関係,精神障害等,家庭内暴力のいずれかの類型に認定された者,及び極めて重大な暴力的犯罪をした者などを,処遇上特に注意を要する者として,特定暴力対象者と認定している。特定暴力対象者として認定された者については,保護観察官が積極的に対象者やその家族と面接するなどして,生活状況を的確に把握することに努めるなど,処遇の充実強化が図られている。平成28年に特定暴力対象者として認定された人員(受理人員)は,仮釈放者が178人,保護観察付全部執行猶予者が55人であった(法務省保護局の資料による。)。
このほか,保護観察所と警察との間において,平成25年4月からストーカー行為等により保護観察付全部執行猶予となった者について,さらに,28年6月からはストーカー行為等に係る仮釈放者及び保護観察付一部執行猶予者について,保護観察実施上の特別遵守事項及びそれぞれが把握した当該対象者の問題行動等の情報を共有し,再犯を防止するための連携強化を図っている。
ある種の犯罪的傾向を有する保護観察対象者に対しては,指導監督の一環として,その傾向を改善するために,専門的処遇プログラムとして,心理学等の専門的知識に基づき,認知行動療法(自己の思考(認知)のゆがみを認識させて行動パターンの変容を促す心理療法)を理論的基盤として開発され,体系化された手順による処遇が行われている。
専門的処遇プログラムとしては,性犯罪者処遇プログラム,薬物再乱用防止プログラム,暴力防止プログラム及び飲酒運転防止プログラムの4種があり,その処遇を受けることを特別遵守事項として義務付けて実施している。また,それ以外にも,必要に応じて生活行動指針として定めるなどして,専門的処遇プログラムを実施することがある。なお,薬物再乱用防止プログラムは,刑の一部執行猶予制度の施行に伴い,従前の「覚せい剤事犯者処遇プログラム」に代えて,平成28年6月から実施されているものである。新しいプログラムでは,改善の対象となる犯罪的傾向の範囲を,覚せい剤の使用・所持から,規制薬物等及び指定薬物の使用・所持に拡大し,それらの再乱用を防止するため,ワークブックを用いるなどして行う教育課程(依存性薬物(規制薬物等,指定薬物及び危険ドラッグ)の悪影響を認識させ,その再乱用防止のための具体的方法を習得させるコアプログラム及びコアプログラムの内容を定着・応用・実践させるためのステップアッププログラム)と簡易薬物検出検査を併せて行うこととしている。
専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員の推移(最近5年間)は,2-5-2-6表のとおりである。
薬物事犯者に対しては,以下の処遇も行っている。
依存性薬物の所持・使用により保護観察に付された者であって,薬物再乱用防止プログラムに基づく指導が義務付けられず,又はその指導を受け終わった者等に対し,必要に応じて,断薬意志の維持等を図るために,その者の自発的意思に基づいて簡易薬物検出検査を実施することがある。平成28年における実施件数は9,612件であった(法務省保護局の資料による。)。
また,全国の保護観察所では,「覚せい剤事犯対象者」の類型認定者や薬物依存のある保護観察対象者等の引受人・家族等関係者に対する講習会や座談会等を内容とした引受人会・家族会を実施している。平成28年度は,全国49の保護観察所において合計263回実施し,引受人・家族等関係者3,615人が参加した(法務省保護局の資料による。)。
さらに,平成24年度から,社会生活に適応させるために必要な生活指導として,薬物依存症リハビリテーション施設等に対して薬物依存回復訓練を委託して実施している(第7編第3章第1節1項(2)参照)。
また,平成28年度からは,薬物依存者の薬物再乱用防止の実効性を高めるため,「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」が実施されている。(第7編第3章第1節1項参照)。
自己の犯罪により被害者を死亡させ,又は重大な傷害を負わせた保護観察対象者には,しょく罪指導プログラムによる処遇を行うとともに,被害者等の意向にも配慮して,誠実に慰謝等の措置に努めるように指導している。平成28年において,しょく罪指導プログラムの実施が終了した人員は356人であった(法務省保護局の資料による。)。
なお,平成25年4月から,法テラス(本編第1章6項参照)と連携し,一定の条件に該当する保護観察対象者が被害弁償等を行うに当たっての法的支援に関する手続が実施されている(平成28年度までの処理件数は17件であった。法テラスの資料による。)。
無期刑又は長期刑の仮釈放者は,段階的に社会復帰させることが適当な場合があるため,本人の意向も踏まえ,必要に応じ,仮釈放後1か月間,更生保護施設で生活させて指導員による生活指導等を受けさせる中間処遇を行うことがあり,平成28年には101人に対して実施した(法務省保護局の資料による。)。
出所受刑者等の社会復帰には,就労による生活基盤の安定が重要な意味を持つため,従来から保護観察の処遇において就労指導に重きを置いているが,平成18年度から,法務省は,厚生労働省と連携し,出所受刑者等の就労の確保に向けて,刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施している(本編第4章第2節4項及び第3編第2章第4節2項(5)参照)。また,23年度から,一部の保護観察所において更生保護就労支援モデル事業を開始し,29年度は,更生保護就労支援事業として20庁で実施している(法務省保護局の資料による。)。
平成25年6月の更生保護法の改正により(平成25年法律第49号),特別遵守事項の類型に社会貢献活動が追加され,27年6月から施行されている。特別遵守事項としての社会貢献活動は,自己有用感の涵(かん)養,規範意識や社会性の向上を図るため,公共の場所での清掃活動や,福祉施設での介護補助活動といった地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を継続的に行うことを内容とするものであるが,保護観察所は,23年度から,保護観察処遇の一環として,将来の義務化を見据え,保護観察対象者の同意に基づき,これを先行実施してきた。活動の実施においては,他者とコミュニケーションを図ることによって処遇効果が上がることを期し,更生保護女性会員やBBS会員などの協力者(本章第5節4項参照)を得て行われることが多い。29年3月31日現在,活動場所として1,963か所(うち,福祉施設1,001か所,公共の場所742か所)が登録されており,28年度は,1,953回実施し,延べ3,726人(延べ人員として,保護観察処分少年2,085人,少年院仮退院者370人,仮釈放者419人,保護観察付全部執行猶予者852人)が参加した(法務省保護局の資料による。)。
親族等や民間の更生保護施設では円滑な社会復帰のために必要な環境を整えることができない仮釈放者,少年院仮退院者等を対象とし,保護観察所に併設した宿泊施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで,対象者の再犯防止と自立を図ることを目的に設立された国立の施設を自立更生促進センターといい,全国に四つの施設がある。
北九州自立更生促進センター(平成21年6月開所,定員男性14人)及び福島自立更生促進センター(22年8月開所,定員男性20人)は,仮釈放者等を対象とし,犯罪傾向等の問題性に応じた重点的・専門的な処遇を行っている。自立更生促進センターのうち,主として農業の職業訓練を実施する施設を就業支援センターといい,少年院仮退院者等を対象とする北海道の沼田町就業支援センター(19年10月開所,定員男性12人),仮釈放者等を対象とする茨城就業支援センター(21年9月開所,定員男性12人)が,それぞれ運営を行っている。各施設における開所の日から29年3月31日までの入所人員は,北九州自立更生促進センターが200人,福島自立更生促進センターが90人,沼田町就業支援センターが59人,茨城就業支援センターが115人である(法務省保護局の資料による。)。