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3 再犯防止対策の在り方 (1)初犯者・若年者に対する対策の重要性初犯者や若年者に対する再犯防止対策を充実させることが重要であることは,平成19年版犯罪白書でも指摘したところであるが,再度,これについて言及したい。 例えば,出所受刑者の5年以内の再入率は,入所度数を重ねるに従って上昇する傾向が見られ,入所度数が1度の者と2度の者とでその差は顕著である(7-2-3-7図参照)が,このことは,再犯を重ねるに従って改善更生の困難さが増大することを意味するとともに,早期の段階での再犯防止に向けた対策の充実の必要性・重要性を示している。また,入所受刑者の保護処分歴別構成比を見ると,保護処分歴のある者の構成比は,20歳代の者で顕著に高く,かつ,再入者では,初入者と比べ,どの年齢層でも,その構成比が高く,50歳以上の者でも,2割強が保護処分歴を有している(7-2-5-8図参照)。このことは,少年時に非行があった者においては,保護処分を受けても更生することができずに再犯に及ぶ者も少なくなく,かつ,そうした者は,年齢を経ても,再犯を繰り返す傾向が高いことを示している。 こうした実態に加え,初犯者や若年者は,可塑性に富み,就労の機会も限定的ではないなど,改善更生の余地は大きいと考えられるのであるから,この早期の段階で,必要に応じ,再犯の芽を摘む絶好の機会として,指導・支援を行うことが重要であると考えられる。その機会を逃さないためにも,犯罪・非行の確実な検挙に努めるとともに,事件の動機,背景事情等を可能な限り解明し,その者の行動傾向や態度,再犯の可能性も的確に把握した上で,適正な処遇を行うことが必要である。 (2)保護観察付執行猶予の活用 執行猶予者調査によると,窃盗又は覚せい剤取締法違反により初回の裁判で執行猶予判決を受けた調査対象者のうち,保護観察に付された者は,窃盗で約9%(7-3-1-2-1図参照),覚せい剤取締法違反で約7%であった(7-3-1-3-1図参照)。換言すれば,単純執行猶予判決を受けた者が大部分であるが,そのうち,約3分の1は,4年以内に再犯に及んでいた(7-3-1-2-21図,7-3-1-3-15図参照)。 こうした者の再犯を防止するためには,再犯の可能性をより的確に見極めて,保護観察に付することも一つの方策であると思われる。 執行猶予者調査によると,そもそも,保護観察は,家庭環境や生活状況等,更生のための諸条件がより劣悪で,相対的に再犯リスクが高い者に対して付されることが多いにもかかわらず,窃盗では,保護観察に付された者は,これに付されなかった者と比べ,若干ながら,窃盗の再犯率が低く(7-3-1-2-21図参照),しかも,「単身(住居不定・ホームレス)」,「無職」,「監督誓約なし」といった再犯リスクがより高いと認められる者では,保護観察に付された者の方がこれに付されなかった者よりも再犯率は低かった(同図の解説参照)。覚せい剤取締法違反についても,保護観察に付された者の数が少なかったため,前記のような細分化した分析はできなかったものの,保護観察に付された者は,これに付されなかった者と比べ,再犯率は,若干高かったにすぎない(7-3-1-3-15図参照)。これらのことは,保護観察が改善更生・再犯防止に効果を上げていることの証左と見ることができる。 もとより,保護観察に付するか否かは,様々な事情を考慮して判断され,特に,将来の再犯の可能性という,困難な見極めに基づくところも大きいと思われるが,2項で分析された就労状況,居住状況,監督誓約者の有無等による再犯の可能性への影響を考慮するほか,できる限り,再犯の可能性に影響を及ぼす諸事情を踏まえ,より適切な判断がなされるような公判活動を考慮する余地があると思われるのである。 特に,覚せい剤取締法違反で保護観察に付された場合には,特別遵守事項として,簡易薬物検出検査を含む覚せい剤事犯者処遇プログラムの受講を義務付けることができるようになり(第4章第1節1項(3)参照),これによって保護観察による処遇の効果が一層向上することが期待されるところであるが,初めて執行猶予判決を受けたという早期の段階でこのプログラムに参加させれば,断薬に向けての本人の意志を継続的に支援できることとなり,この種事犯の再犯防止にも高い効果が見込まれるものと考えられる。 (3)犯罪者の問題性に応じた個別処遇の充実 再犯防止を図るためには,矯正,更生保護の各段階において,個別の受刑者・保護観察対象者の特性に応じ,問題性を改善するための処遇を行うことが重要である。 ア 窃盗 2項(1)ウでも記したとおり,窃盗で受刑にまで至った者は,経済的な不安定さが再犯要因として最も大きいが,経済的なひっ迫を動機・背景とせずに,遊興費欲しさ,節約,ストレス解消,盗み癖が原因となっている者も少なくない(7-3-2-2-9図参照)。さらに,男子では,比較的高齢の層でアルコールの問題を抱えている者もいる(同図参照)。こうした原因で窃盗を繰り返す者に対しては,それぞれの問題性に応じ,改善更生の意欲を喚起させるための指導やアルコール依存の問題を解決するための指導等を行っていくことが必要であろう。 また,執行猶予者調査によると,積極的弁償措置を行っている者は,これがない者と比べ,再犯率が顕著に低く(7-3-1-2-18図参照),監督誓約者がない者であっても,積極的弁償措置を行っているときには,再犯率は相当低かった(7-3-1-2-19図参照)。また,被害者の宥恕が得られている場合には,再犯率は顕著に低かった(7-3-1-2-20図参照)。これらのことは,被害者に弁償を行い,その宥恕を得ようと努力する者は,自己の責任を自覚し,改善更生の意欲も強いことによるのであろうが,そうした態度をとる者は,社会に受け入れられ,周囲の者から社会復帰のための協力も得られやすいと考えられる。矯正や更生保護の処遇において,「被害者の視点を取り入れた教育」や「しょく罪指導」を実施するのは,そうした意味でも,再犯の防止に効果があると考えられるし,また,被害者への具体的な賠償計画を立て,賠償の履行等に向けた努力を行うよう適切な指導監督や援護を行うことは重要であろう。 イ 覚せい剤取締法違反 2項(2)イでも記したとおり,覚せい剤取締法違反においては,精神的な依存の強さが最大の再犯要因であり,覚せい剤の誘惑を断ち切ることが再犯防止の鍵である。そのため,何よりも,受刑者に対する特別改善指導としての薬物依存離脱指導,保護観察対象者に対する覚せい剤事犯者処遇プログラムを充実させていくことが重要である。 また,2項(2)エでも記したとおり,覚せい剤取締法違反においては,交友関係が再犯要因として小さくないこともうかがわれる。したがって,交友関係を良好なものとするように指導することも,処遇の要点であると考えられる。なお,執行猶予者調査によると,暴力団等関係者(暴力団等の構成員,準構成員及び周辺者等をいう。)は,調査対象者の約4割が4年以内に覚せい剤取締法違反の再犯に及ぶなど,再犯率が高く(7-3-1-3-14図参照),覚せい剤取締法違反の再犯防止対策としても,受刑者に対する暴力団離脱指導は重要であり,また,その対象でない者に対しても,更生保護の段階も含め,暴力団関係者との関係を絶つように指導することも必要であろう。 (4)社会内処遇における支援等の充実 ア 就労支援 経済的な生活基盤の確立が改善更生の前提となることは,多言を要しない。2項(1)ウに記したとおり,窃盗では,就労状況の不安定さが再犯リスクとなっていることが実証的に裏付けられている。覚せい剤取締法違反では,覚せい剤に対する依存性の強さが再犯要因として大きいことの反映であるとも思われるが,2項(2)オに記したとおり,就労状況は,再犯要因として必ずしも大きくはないものの,その不安定さは,やはり再犯リスクとなり得る。保護司からも,覚せい剤取締法違反においても,就労は,精神面の安定につながり,改善更生に資するとの認識が示されているが(第3章第3節2項(2)ア参照),経済的な理由が動機とならない覚せい剤取締法違反やその他の犯罪でも,職に就き,安定した生活を送ることは,改善更生の前提というべきであろう。 そのため,従来から,受刑者や保護観察対象者等には就労に向けた指導が行われてきたところであり,受刑者には,作業の実施により職業上有用な知識・技能の習得が図られ,また,保護観察対象者は,保護観察の終了時には,開始時と比べ,有職率が上昇している(7-2-4-2図参照。なお,この点でも,保護観察は,再犯防止に一定の効果を上げているということができる。)。しかしながら,犯罪者が社会復帰に向けて職に就く上ではなお様々な障害もあり,その就労を支援する措置が必要となるところである。こうしたことから,法務省と厚生労働省の連携の下に実施されている総合的就労支援対策の充実は,再犯の防止上,極めて重要であるというべきである。その上,最近の厳しい経済情勢も踏まえると,広く社会から犯罪者の社会復帰への支援について理解を得て,協力雇用主等の拡充を図るなど,更なる対策を講じることも必要である。 イ 福祉的な支援を必要とする者に対する支援 受刑者等の中には,高齢や心身の障害により自立が困難な者も少なくないが,そうした者の円滑な社会復帰を図るためには,福祉的施設への入所を含めたサービスが受けられるようにするための支援が必要である。このため,こうした福祉的な支援を必要とする者に対する支援の取組も,法務省と厚生労働省の連携の下に進められているが,その充実も,今後の課題である。 ウ 更生保護施設の拡充等 安定した生活の場所の確保は,安定した生活の基礎であるが,犯罪者の中には,家族等に受け入れてもらえる環境にない者もおり,そうした者を受け入れる更生保護施設は,再犯防止の上で極めて重要な役割を果たしている。現に,仮釈放者の約4分の1が,更生保護施設に帰住しているところであり,保護観察付執行猶予者でも,相当数の者が更生保護施設で受け入れられている(7-2-4-3図参照)。 しかしながら,現状では,更生保護施設の受入れ可能人員は十分なものとはいえず,その拡充が望まれるところであり,また,民間の更生保護施設では受入れが困難な者も少なくないことから,そうした者の改善更生と自立を促進するために,自立更生促進センターの着実な運営も重要な課題である。 (5)施設内処遇と社会内処遇の連携 仮釈放者の5年以内の刑事施設への再入率は,約3割に及んでいる(7-2-3-6図参照)。仮釈放者の再犯を防止するためには,仮釈放の許否を判断する際により的確に再犯のおそれを判断することも必要であり,また,保護観察の更なる充実を図ることも重要であると思われるが,他方で,仮釈放期間は,6月以内の者が7割以上を占める(2-5-2-3図参照)など,比較的短く,保護観察中に,改善更生のために十分な監督,指導援助を行うことが,期間的に困難であるという問題があることもうかがわれる。仮釈放者の再犯リスクは,個々の仮釈放者によって様々であり,再犯リスクが小さい者は,早期に仮釈放を許し,保護観察の下での社会内処遇によって改善更生と社会復帰を図ることがむしろ適切なこともあると考えられ,また,そうした者以外の者についても,より長期間の保護観察の下での社会内処遇を可能とすることも検討の余地があろう。 現在,法制審議会において,裁判所が懲役又は禁錮を言い渡すと同時にその刑の一部の執行を猶予し,さらに,必要に応じて,その猶予の期間中保護観察に付すことを言い渡すことにより,一定期間の懲役等の刑の執行後,相応の期間にわたり残刑の執行を猶予すること及びその期間中保護観察を実施することを可能とする刑の一部の執行猶予制度について,調査審議が行われているが(第4章第2節2項(1)イ参照),この制度は,施設内処遇と社会内処遇とをより適切に連携させ,犯罪者の改善更生・再犯防止を図ろうとするものであり,その審議の帰趨が注目される。 (6)再犯防止対策の効果検証 受刑者に対する特別改善指導,保護観察対象者に対する専門的処遇プログラム,総合的就労支援対策,自立更生促進センターの着実な運営など,近年,犯罪者の処遇のための新たな制度や対策が講じられている(第4章参照)。こうした諸施策は,いずれも,再犯の防止に向けた取組であるが,その効果の検証を重ねながら,必要な改善策を講じるなど,より充実させ,効果的なものとするための調査・検討を続けることが不可欠である。 |